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第二話

 オレことラセラと、イーヤサーサが故郷の村を旅立ったのは今から三ヶ月ほど前のことだ。


 故郷のドカントリー村は貧しく、働き口も村人相手の食堂と散髪屋、家の修理屋……あとは農業くらいしか無い。そのため村の若者は大きくなれば大抵が村を出ていくのだ。

 娯楽もなかった。楽しみといえば、時おり流れてくる冒険者たちの活躍の噂くらいだ。

 とりわけ現役最強で現代の勇者とも謳われる『勇者ワッショイ』のドラゴン退治の話には心を躍らせたものだ。


 冒険者。

 今から100年ほど前に、魔王と勇者による世界の命運をかけた戦いがあった。そして勇者が勝利し、世界には平和がもたらされたのだが……完全に平和になったとは言い難かった。

 魔王が魔界から呼び寄せたという数多のモンスターたちはこの世界に根付き、今なお世の人々を困らせているからだ。

 そんなモンスターの脅威から人々を守り、世界を旅して回っている人たちこそが冒険者。オレとイーヤサーサはその冒険者に憧れ……そして村を飛び出し、冒険者になったのだ!


 だが、思い描いていた華々しい冒険譚とは違い……現実は厳しかった。

 ここいらでもっとも大きな街、デッカイーナタウンにある冒険者ギルドで冒険者としての手続きを済ませ、Fランクの階級を得たオレたちはさっそく仕事を始めた。ギルドに寄せられた一般市民の依頼から、自分にできそうなものを選んで仕事をこなす。それが冒険者の基本的な働き方だ。


 初めのうちは順調に思えた。

 最弱モンスターのスライムを退治したり、野山に生える薬草を採取して納品したり……といった具合だ。


 しかしそれでは足りなかった。

 自立したからにはそれなりの支出というものがある。日々の食費に、宿賃。装具のメンテナンスに、その他消耗品にも金がかかる。それに冒険者といえど、この国の住人であるからには国民税だって納めなくてはならない。


 加えて、イーヤサーサの奴がこんな事を言う。


「有名な冒険者を目指すならば、今どきは見た目にだって気を配らなければならないぞ。きみは特に身なりに無頓着なところがあるからな。髪はボクがカットしてやるから良いとして、日々のスキンケアにも気をつけなくては。さっき、薬局で具合の良さそうな化粧水を見つけたんだ。すこし値は張るが……」


 そしてオレたちはより報酬の大きい、危険な依頼に挑むことを余儀なくされた。

 近年は冒険者ブームで、多くの若者が冒険者を目指し、そして冒険先で命を落とすケースが後を絶たないという。きっとオレたちと同じように冒険者というものを甘く見た結果、無理をしてしまう者が多いのだろう。


 実戦に向けてしっかりと訓練を積んできたオレたちはまだマシなほうだった。だが、爪や牙を持った凶悪なモンスターが相手となると、いつまでも無傷というわけにはいかない。


 ある戦闘で、オレたちは重めの怪我を負った。オレは打撲、イーヤサーサは捻挫だ。命に関わるほどではなかったが、強敵相手の仕事を続けるには支障があった。しかし療養をしていられるほど、懐に余裕があるわけでもない。

 回復術(ヒール)を使える治療院へ行けば立ちどころに治してもらえるのだろうが、大抵は目玉が飛び出るほどの高額医療となるので論外だ。

 オレたちは無理をするか、それとも冒険者の道を諦めるかの分かれ道に立たされた。


「仲間に、回復術師(ヒーラー)がいたらなぁ……」


 どちらからともなく、そんな愚痴がこぼれ出た。


 回復術師(ヒーラー)

 それは読んで字の如く、 回復術(ヒール)を使える術師のことだ。

 もちろんこんなことは無い物ねだりの冗談に過ぎない。なぜなら 回復術(ヒール)というものは、魔法の才能に加え、難しい勉強と資格が必要となる。それだけでもハードルが高く、治療院に勤めるなり開業すれば儲かるのに、わざわざ危険な冒険者になろうという者はとても少ないのだ。いたとしても、低ランクの回復術師(ヒーラー)ですら高ランク冒険者から引く手が数多。オレたちのような駆け出しの若造が得られる人材では無い。


 だが案外、奇跡というものは起こるもので。


 ある日、オレたちはいつものようにギルドで依頼書を物色し、そして宿に帰ろうと建物を出た時のことだった。

 建物の陰に、綺麗な白のローブを纏った女性が立っていたのだ。清楚なローブに、腰には申し訳程度の武装として、古びた短剣を備えている。その清楚な姿はいかにも聖職者といった佇まい。それが……後に名を知ることになる、セイエアさんだった。


 そして彼女はオレと目が合うと、向こうの方から声をかけてきた。


「あの。まだ駆け出しの冒険者の方ですよね? 私、回復術師(ヒーラー)なんですけど冒険の仲間を探していて……よかったら私とパーティを組んでもらえませんか」


 もちろんオレたちは二つ返事でこれを了承した。

 こんな奇跡が本当にあるのかと信じられない気持ちではあったが、後にセイエアさんはこう語る。


「前にいたパーティが急きょ解散することになり、新たな仲間を求めていたのですが……ギルドの中にたむろしている方々は、どうにも顔つきが怖い人が多くって。私と同じくらいのランクで、優しそうな冒険者の方を探していたんです」


 とのこと。どうやらスキンケアの効果はあったようだ。オレたちがFランクであることを話すと、セイエアさんもまたFランクであると言うし、パワーバランスにも気兼ねが無い。


 こうして……オレたちとセイエアさんは、パーティを組むに至ったのだ!



 そして、現在……。

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