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なぜ自分こそは選ばれると思ってるんでしょうね

タイトルはシリアス寄りですが、頭を空っぽにしたくてノリと勢いで書きました。読む方もどうぞ頭を空っぽにして読んでください。

「聞いてくれドリサ!あれはスルーシャ様の気まぐれだったんだ」


 またか。

 食堂で始まった茶番を横目で見ながらため息をついた。

「ドリサは取りつく島もないわね」

「当然よ。サンドレル様ってば『スルーシャ様との愛に生きる!』ってみんなの前で宣言したじゃない」

「みんなの前、っていうか食堂(ここ)でね」

「はあ、なんでみんなスルーシャ様の可愛らしいお戯れに引っかかってしまうのかしらね」

「可愛らしいからじゃない?」

「なるほど」


 ランチセットのサラダに勢いよくフォークを突き刺し、大きめのレタスをそのまま口の中へ押し込んだ。

「カルミナはどうなの?エイール様が狙われてるって噂聞いたけど」

「知ってる。もう見境なしって感じだもの」

「教会の方が代わりに身ぎれいな方をといって泣く泣く聖職者の方を手放していらっしゃるけれど」

「その方達だって聖女様のお手つきって噂よ。爛れてるわねぇ」



 聖女様が学園に転入してきて半年ほど。その間に破局もしくは婚約を破棄した男女は十組を超える。

 出自は平民だという聖女様。平民の方は異性との距離が比較的近いとは知っているが、平民の同級生いわくそれでも彼女は()()()()らしい。

「庇護欲を掻き立てる可愛らしい系よね。でもあのコミュニケーションの取り方はいただけないわ。男性の太ももの間にさり気なくご自身の脚を入れるんですもの」

 とは同級生の言葉だ。



 最初に引っかかったのは護衛役を任された騎士爵家のご令息だった。

 日頃の鍛錬で鍛えられた精神も、実際のものとして知る柔らかな肉感には勝てなかったらしい。

 許嫁だった幼馴染の女の子に『お前には魅力を感じない!』とのたまった結果、ご令息は自分の家族全員から袋叩きにされたらしい。一番容赦がなかったのは御母上。この方は王妃殿下付の女性騎士でいらっしゃる。

 そのご令息、現在は休学中だが、辺境に下働きとして飛ばされたという噂もある。真偽の程は定かではない。



 次の餌食になったのは筆頭侯爵家である宰相閣下のご嫡男。その現場に居合わせた者いわく、瓶底眼鏡があまりの興奮で熱に耐えられず割れたという。いや、絶対盛ってるだろそれ。

 ご婚約者は既に学園を卒業されて王城にお勤めになっていらっしゃる伯爵家の才媛だったが、こちらも『君は鶏ガラのようだ』などと公衆の面前で暴言を吐きその場で警らにしょっ引かれていった。鶏ガラとは失礼な。お前の瓶底眼鏡で見えていなかっただけだろう。



 三番目の餌食はなんと社会学担当の教師だった。奥様もお子様もいらっしゃるのに愚かだとしか言いようがない。

 貴族と上手く交流ができず悩んでいると教科準備室で相談しているところに、たまたま忘れ物を持っていらしたご家族が入ってしまったらしい。

 ちなみに聖女様、先生の太ももの上に座っていらしたとか。アグレッシブすぎやしないか。

 教師は解雇。奥様は当然離婚してご実家に戻られた。




 と、そんな勢いで次から次へと毒牙に……コホン、聖女様にありがたく見定められ、堕ちていくのである。

 なぜ何人も聖女のせいで関係が壊れてしまったことを知っているにもかかわらず、引っかかってしまうのか。

 誰かの質問に対して被害者は答えたらしい。

『自分こそは大丈夫、彼女に愛され続けることができると思った』と。

 そんなわけがないだろう、アホか。


 今、目の前で騒いでいる男爵家のご令息であるサンドレル様も、このスルーシャ様に選ばれし贄となった一人だった。

『ドリサ様と仲良くしたいのですけれど、私のことをお嫌いなようなのです』


 相談女かよ。お姉様がいらっしゃるのだからサンドレル様に女性免疫がないわけでもないでしょうに。

「本当に何なのかしらね。あの聖女様、特別な力でもお持ちなのかしら」

「聖女様だもの。何かしらお持ちなんでしょ」



 教会は注意はしているらしいが、聖女様に行動を改めている気配はない。

「聖女様って一人しかいないんだっけ」

「先代の聖女様が昨年身罷られたでしょう?まだお若かったから次代の聖女探しも当分先の予定だったし、慌てて国中駆け回って見つけてきたのがスルーシャ様なのよ」

「ああなるほど。交代の頃になると引き継ぎをなさると聞いたことがあるわ」



 フフンと鼻で笑ってドリサとサンドレル様を見ていたキャミィの目が大きく見開かれた。

「……ちょっとカルミナ」

「?どうしたの?」

「あれ!ちょっと見て!」


 キャミィが指差す方を振り返ると、なんと私の婚約者であるエイール様にスルーシャ様がべったりとくっつきながら歩いていた。


「……噂をすれば、よ」

「ごめんカルミナ、冗談でもエイール様が狙われるんじゃないかなんて言うんじゃなかったわ」

「良いのよ、予想はしてたの」



 エイール様とは十年前に婚約して以来、穏やかに関係を育んできた。

 父とエイール様の御父上は学生時代からの親友なのだ。もっとも、親同士の仲が良いからといって、その子どもも仲が良くなるかといえば決してそんなことはない。



 エイール様のことは好きかと言われれば嫌いではないけれど、正直に言ってしまえばタイプではない。私はもう少し意思の強そうな面立ちの男性の方が好みで、エイール様は見るからに優柔不断そうなのだ。

 そして、優柔不断そうな男を狙い落とし続けてきたのがこの性……ゲフン、聖女スルーシャ様である。

 当然、エイール様が狙われるだろうという予想はしていたし、エイール様にも大丈夫かと冗談交じりに尋ねてみたことがある。その時は「スルーシャ様の振る舞いはよろしくないね」とは言っていたけれど。



 それでも、貴族らしく紳士らしくと振る舞ってきた年頃の男子が、肉弾戦に持ち込まれた時にどうなるか。おおよそ結果は見えている。

 視線をキャミィに戻すと、パストラミサンドにかぶりついた。コショウがきいていて、いつ食べても美味しい。

 気遣わしげなキャミィの眼差しを浴びながらじっくりとサンドイッチを咀嚼して、アイスティーで胃に流しこんだ。


「……私、別に結婚に興味もないし、この婚約がダメになったらウルフェルグ王国に留学しようかなあ」

「ウルフェルグ?ずいぶん遠いじゃない。どうして?」

「ウルフェルグって歴史研究がすごく進んでいるのよ。資料の保存状態がとても良いの。最近は第一人者の方が常任講師として上級学府で教えていらっしゃるらしくて。獣人がルーツの国だから勇ましくて野性味のある男性が多いって聞くし、目の保養になるじゃない?」

「ふふ、カルミナったらエイール様のことなんて眼中にないって感じね」



「眼中にないってどういうこと?」

 背後から声が聞こえて振り返ると、エイール様が立っていらした。その腕にはスルーシャ様が貼り付いている。

 スルーシャ様、近くで見ると本当に可愛らしくていらっしゃるわ。でも目の奥がよく研いだ刃物のようにギラついているのよね……男性にはわからないのかしら。


「ああ、エイール様。エイール様がスルーシャ様を侍らせている?いえ、スルーシャ様にエイール様が侍っている?どちらでも良いんですけど、今まさにその現場を目撃しているので、私とエイール様の婚約もなくなるでしょう?そうしたら私はウルフェルグに目のほよ……いえ、歴史研究の体系を学びに留学したいという話をしておりました」


「どうして」

「どうしても何も……エイール様はスルーシャ様とご懇意なのでしょう?現に今、スルーシャ様と仲睦まじいご様子を見せていらっしゃるではないですか」

「違う」

「違う……?」

「仲睦まじくなどしていない。スルーシャ様は勝手に僕にくっついているだけだ」

「えっ、エイール様?」

 私の方を得意げに見ていたスルーシャ様が驚いたようにエイール様の顔を見た。



「……確かに、くっついているのはスルーシャ様のように見えますけれど」

「離れて欲しいと言っているのにスルーシャ様が離れないんだ。なぜか僕から離すことができなくて」

「そんな、エイール様!カルミナ様は私に冷たく当たると相談したのにカルミナ様にも良い顔をするんですか!?」

「カルミナがドライなのは昔からだ。今に始まったことじゃない」

「でもぉ」


「エイール様もスルーシャ様のように女性らしい方がお好きなのだなと思っていたのですが」

「誤解だ。僕はスルーシャ様のような女性は得意じゃない。話し方もイライラするし、この弾力は子どもの時の嫌な記憶を思い出す」

「えええ、エイール様ぁ!?」


「嫌な記憶……ああ!!豚の!」

「豚?」

 キャミィが首を傾げた。


「エイール様の領地は畜産が盛んなのだけれど、子どもの時にいたずらの仕置きで豚小屋に閉じ込められてしまったことがあるのよ」

「……あの時の肉におしつぶされて息ができなかった記憶が蘇るんだよ……」

「エイール様、豚肉お嫌いですものね」

「食べられるようにはなったけど、好き好んで食べたいとは思えないな」

「へえ」


「ですから僕はスルーシャ様に嫌悪することはあっても好意を抱くことはないとお伝えしましたよね」

「ええん、エイール様ひどぉい」

「だからカルミナ、君との婚約を破棄することはない。むしろ僕は君を好ましく思っている」

「えええ……」

 どうしようか、それは想定外だ。


「……なんだ、嫌なのか」

「カルミナはエイール様のように優柔不断そうな方ではなく、見るからに意思が強そうな勇ましい男性が好きだそうですよ」

 横からキャミィが口を挟んだ。

「なっ」

「ああキャミィありがとう、代弁してくれて。なので私は婚約破棄でも良いのです。エイール様が良い方なのはわかっているんですが、どちらかというと多少豪快な方が好きなので」

「それは困る!豪快さを身につけるからそこはなんとか!」

「困ったわ……婚約解消で良いから、してもらえない?」


「ちょっと!私を無視するんじゃないわよ!!」

「ああ、聖女様、まだいらしたんですか。もう出番はありませんからお帰りいただいて大丈夫ですよ。

 この後、伯父に聖女様の処遇についてお願いに行きますので」

「お、伯父?」

「はい。学園長をしております」



 ***



 その後、聖女様は無期限の休学となった。聖女としても活動休止らしい。

 活動休止だなんて、どこの看板女優かしら。ああ、教会だったわね。もう看板も背負えないんじゃないかしら。


 エイール様は急に身体を鍛え出した。残念ながら婚約は破棄にも解消にもならず、白紙になったのは私の留学計画だけ。

 ……卒業までにどこかの長期休暇でねじ込みたいわ。筋肉筋肉。



「はーあ、ままならないものね男女って」

 ツナサンドをアイスカフェラテで流し込み、ため息をついた。

「貴族はそういうものよ、諦めて」

 キャミィがレモネードを片手に笑っている。

「それにしても、聖女様ってどうしてあんなことしてたのかしら」

「人のものを奪うのが好きだったんじゃないの?」

「狙った男が自分を選ぶのが楽しかったんでしょ?貴族にあるしがらみとか全然知らない感じだったじゃない」

「おめでたいわね。羨ましい」


 聖女に選ばれて、ちやほやされて嬉しかったのかしら。なんでも許されると思っていたのかもしれないわね。



「本当、なぜ自分こそは選ばれると思ってるんでしょうね。おめでたい方たち」

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