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恐怖もあるが、どこか記憶の奥にある不思議な感覚が、心を揺さぶる。

 それが人族の王子・オービルが、獣族の王子・ダイムに感じた、素直な感想だった。でも、オービルには、その感覚の意味が分からなかった。自分の部屋に戻ったオービルが、部屋の中をうろつきながら、そんなことを考えていると、そこに訪れたのが、オービルの剣の師匠・イルバだった。

「オービル様、うかがいました。アルテスの王子と親善試合をなさるんですね」

 イルバの顔を見て、オービルはイルバに泣き言をぶつけたい衝動に駆られたが、寸前に思いとどまった。

どんな状況になろうと、弱みを見せず。

 そんな父親のエンリコ王の言葉を思い出したからだ。だが、イルバは、全て察したように、オービルに言葉をかけた。

「大丈夫です、王子。今、父上が相手の国の高官と協議をしています。だから、王子の身に危険が及ぶような試合にはならないと思いますよ」

 イルバの言う、父親とは、王子の世話係のリンドバのことだった。イルバとリンドバは、実の親子ではない。数年前に、人族の国パルスに流れて来た龍族の傭兵の息子がイルバで、この地で父親が亡くなった後、リンドバがイルバの親代わりを務めることになった、とオービルは聞いていた。

 ただ、イルバが父親を亡くしたのは、十年ほど前、彼がまだ十数歳の時だったが、その頃には、すでに彼は父親譲りの剣の技を受け継いでいて、十五歳で国の武道大会に優勝。その後は、国の剣術師範に抜擢され、オービルの剣術師範も担当することになった。現在は二十一歳である。

 王子の不安を察したイルバは、武闘場での剣の練習に、王子を促した。武闘場は、周りに客席も配された円形の建物で.城内でも特別な場所だ。そこで剣を手にしたオービルは、イルバにダイムの顔を想い重ね、一心不乱に打ち込んだ。王子がひと汗かいて、心の迷いがなくなったように感じた時、そこに現れたのは、協議を終えたリンドバだった。

 一枚の紙を手にしたリンドバは、武闘場に入るとすぐにイルバとオービルに声をかけた。オービルが近づくと、

「親善試合の内容が決まりました。試合が開催されるのは、明日の午後。内容は、両国の精鋭による5対5の勝負で、先に3勝した方が勝者となる団体戦です」

 と詳細を話し始めた。

「つまり、どちらかが3勝した時点で試合終了、ということですね?」

 リンドバの言葉に、すぐに質問をぶつけたのは、イルバだった。リンドバは、イルバの顔をじっと見て答えた。

「その通りだ。先鋒から試合を始め、最後まで決着がつかない場合のみ、大将同士の戦いになる。もちろん、大将は王子で、副将はイルバ、お前に務めてもらう」

 リンドバは、その言葉と同時に、持っていた紙を二人に指し示した。そこには、

大将、オービル

副将、イルバ

 と書かれていた。その紙を見て、声を上げたのはオービルだった。

「リンドバ、ここに、

中堅、フローラ

 って書いてあるけど、このフローラって、誰?あのフローラ?」

「そうですよ。伝説の魔法使いフローラ様です」

 リンドバの答えを聞いて、

「フローラ様って、教科書にも出て来る、世界大戦争の前の時代の魔法使いですよね。そんな大昔の方が、生きていらしたんですね」

 と声を漏らしたのは、イルバだ。リンドバは、彼自身も少し考えながらの口調で、

「実は、数日前、いきなリフローラ様が王宮を訪ねてみえて、何か気になることがあるからと、滞在されることになった。すると、そこに現れたのが、アルテス王・エンダールの訪問団で、それを知ったフローラ様は自ら、その使節団から何らかの呼びかけがあれば、私も加わりたい、とおっしゃったんです」

 と言った。すると、少しの沈億の後、イルバが再び、

「でも、大魔法使いといっても、そんな大昔の人が、試合に出られるのですか?」

 と尋ねると、

「それがフローラ様、見たところ、教科書で語られるような子供ではなく、どう見ても、せいぜい30台か40台くらい。そこで、お歳を聞いたら、女性に歳は聞くものじゃない、とたしなまれました」

 と、リンドバは笑って答えた。すると、

「この、

先鋒、フレイ

次鋒、オルフェ

 というのは?」

 と、今度は、オービルが尋ねた。

「そう、二人とも、本年の我が国の武闘大会で優勝した、女子部の魔法剣士・フレイと、男子部の若き天才剣士・オルフェです。審判は老生の私が務めます。どうでしょう、これが今、パルスで組める最高の布陣でしょう」

 と、リンドバが少し誇らしげに言うと、どこからか声が響いた。

「そんな簡単じゃないかもしれないよ。この親善試合は十分に注意した方がいい。勝負をなめると、取り返しのつかないことになるからね」

 声と共に現れたのは、白い髪に白い衣装を着て、自らの身長ほどの杖を携えた女性、フローラだった。

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