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別世界の予備予選

さて、『ゴールド・ストームダンジョン制覇大会』は別世界からの参加も認められており、予備予選は現地で行なわれる。

つまり予備予選は一定の参加者が集まる地域ごとにブロック分けされ、各ブロックにあるそれなりの大きさのビルを借りて内部をダンジョン化し、ビルの中にあるチェックポイントを通過しながら一番早く最上階付近にあるコアへ辿り着いた者が勝ちという一見オリエンテーションのような方法で勝者を選別するのが一般的だった。


勿論その方法はブロック毎に違うのでブロックを渡り歩いて参加する場合は注意が必要だ。

因みに上記の説明では最上階『付近』というのがポイントだ。そう、ダンジョン攻略は途中をすっ飛ばして遮二無に最上階を目指すだけでは駄目なのである。


で、別世界ではダンジョンが存在しないのでビル等を仮設のダンジョンに改造して予選が行なわれるが、これが第33異世界だとゴールド・ストームダンジョンとは別のダンジョンを使って行なわれる。

つまり本物のダンジョンで予選が行なわれるのだ。とは言っても第33異世界ではダンジョンがあるのは普通の事なので別段参加者たちは尻込みする事はない。


まぁ、別世界と第33異世界。造りモノのダンジョンと本物という差はあるが、どちらにしても決められたルールに則り勝ち抜かないと先には進めないのは一緒である。

そして予備予選を勝ち抜いてもその先には本予選が待っており、それを勝ち抜いて漸く本選であるゴールド・ストームダンジョンに挑めるのである。


因みに別世界で予備予選を勝ち抜いた者の本予選参加は第33異世界に跳んでもらって、現地の参加者組と一緒に更に難易度の上がったダンジョンに挑んでもらう事になっている。

では今回は別世界のとあるブロックで行なわれる予備予選の状況を見てみる事にしよう。


ぽんぽんぽんっ!


午前6時。雲ひとつない快晴の空に予備予選の開始を知らせる音花火の破裂音がこだました。

そして既に集まっている参加者たちの前にはバブル期に建てられて、ブームが去って以降誰も住まなくなった魔窟のような33階建てのマンションが建っていた。


勿論誰も住んでいないのでエレベーターは動かない。なので上階への移動はふたつある非常用階段だけが唯一の経路だ。

そんな建物の前で、魔王から予備予選の運営を委託された業者が参加者たちに最後の注意を行なっていた。


「はい、皆さんは誓約書にサインしていますので、この仮設ダンジョン内で身に降りかかる全ての事は自己責任となります。仮に大怪我を負ったり命を落としても当運営はなんの責任も負いません。その事は頭に叩きおいて下さい。」

この別世界にあるこの国では、日常生活において一般人が命の危険に晒される事はまずない。なので再三に渡って運営が注意喚起をしても聞き流す参加者は多かった。


だが、いざ自身に危険が及ぶと泣き叫んで運営を罵倒する者が後を絶たない。因みに前回の予備予選ではこちらの世界だけで大怪我を負った参加者は66名で、それとは別に22名が死亡していた。

もっともこの国の法律上では、この場合の死因は『自殺』として処理される。更に怪我の治療には保険が適用されない。つまり全額自己負担である。


まっ、これに関してはよく考えれば判るだろう。つまり別の例で例えると紛争地帯にわざわざ自分の意志で向かうようなやつを国費で助ける義理はないという事だ。

そして次に運営の説明は仮設ダンジョンの構造と勝利条件へと移った。


「えー、この仮設ダンジョンは33階建てのマンションを改造して造られています。1回はロビーと管理室、及び多目的ホールとなっており、2階以上が分譲された部屋です。そしてそれらの部屋のどれかに、こちらに飾られている『冒険者の旗』と同じモノが隠されています。その旗を地上部に設営されている受付まで持ち帰ったチームが予備予選の勝者となります。因みに今回用意した旗の数は2枚です。ですが中にはトラップ用の偽物も紛れ込んでいます。その真偽判断は皆さんそれぞれでお考え下さい。」

この運営の説明は既にトラップが仕組まれている。この説明をさらっと聞いただけだと、『冒険者の旗』は2階以上の分譲された部屋に隠されていると思ってしまいそうだが、説明中にあった『それらの部屋』という言葉には当然1階の部屋も含まれているのだ。


そして『冒険者の旗』は偽物が用意されているらしい。なので何人かの参加者たちは早速サンプルとして飾られている旗を写真に収め、またサイズ等を調べ始めた。

そんな彼ら彼女らの行動を無視する形で運営の説明は続いた。


「この仮設ダンジョンには本物の魔物こそいませんが、機械仕掛けのオートマタが配備されています。そしてそれらにはロボット三原則が適用されていません。ですので本気で襲ってきますのでご注意下さい。」

ダンジョンと言えば魔物が定番だがこちらの世界へ魔物を持ち込むのは禁止されている。なので運営は代用品を用意していた。因みにロボット三原則に関しては各自で調べるように。


「尚、この建物の敷地内は治外法権となっておりますので武器の使用に法的制約はありません。ですのでみなさんにはあちらの武器商人からお好きな武器をお求め下さい。因みに大会終了後はご購入された武器は半値で買い取ります。但し弾薬は買い取りの対象外ですからあまり買い過ぎて余らすとその分損になります。また、まぁそんな人はいないとは思いますが、万が一敷地外へ持ち出した場合は、武器の不法所持で警察に捕まりますのでご注意下さい。」

運営が示した先には露天商たちがそれぞれ自慢の武器を並べていた。その殆どは如何にも異世界ファンタジーの武器と思えるものだったが、こちらの世界で造られている銃やロケットランチャーもあった。

因みに中古のカラニコフAK74アサルトライフルの値段は3万円だった。でもそれ用の弾薬は一発200円である。つまり30発で6千円だ。なので浮かれて連射しまくると、あっという間に万札が消えてゆく。


また攻撃用の武器だけではなく、防御用のアイテムも豊富に取り揃えられていた。特に対刃対弾両用インナーは1万円という手頃な値段と相まって人気商品である。

因みにオートマタは攻撃に弾丸を用いない。ならば何故対弾機能が必要なのかというと、参加者同士の同士討ち対策である。


そう、特に初心者は動くものがあれば確認もせずに撃ちまくる傾向があるから油断できないのだ。

つまりダンジョン内ではオートマタだけでなく、他の参加者の動向に関しても油断なく把握しておかないと足元をすくわれるのである。


もっとも意図して他の参加者を狙い撃ちする事は出来ないようになっている。これは参加者全員が装着の義務をおっている頭に巻かれたリングが脳内の意志を常にサーチし、悪意ある行動をしようとした場合締め付けて気絶させるようになっているからだ。

当然この機能が働いた参加者は失格であり、悪意の程度にもよるがオートマタの餌食となって死体で大会を終える事になる。


この事は公然の秘密ではあるが参加者には伝達されている。だが、それでも毎回リングが作動して死体となる者が出るのは、こちらの世界に住む人間たちの心の闇がそうさせているのかも知れなかった。

そして運営からの説明も最終段階に入った。


「それではスタート時間は午前9時からで終了時間は午後3時です。その際は音花火を打ち上げますので花火の音を聞いたら探索を終了してここに戻って下さい。因みに午後4時には建物の入り口が閉鎖されますのでぐすぐすしていると閉じ込められます。勿論そうなったら、仮に旗を手に入れていたとしても失格になりますから気をつけて下さい。」

運営の説明にはまたまたトラップが仕込まれていた。つまり午後3時には予選は終了するが、だからと言って機械仕掛けのオートマタも動きを止める訳ではないのだ。

つまり建物から出るまでが冒険なのである。なので終了時間はあくまで目安であり、出来るだけ早く旗を見つけて、その後も油断なく建物の外に出るのが最善の方法なのだ。


そうこうしている内に予備予選開始の午前9時となる。仮設ダンジョンの前にはそれぞれ購入した装備を身につけた挑戦者たちが真剣な面持ちでその時を待っている。

そして運営の合図と供に予備予選が始まったのであった。


「レディース アンド ジェントルマンっ!スタート ユア エンジンっ!」

この有名なアナウンスにより挑戦者たちの緊張と期待はマックスとなる。そこに畳み掛けるように最後の言葉が発せられた。


「イッザ ロックンロールっ!グッドラックっ!」

この時点より、このブロックにおける予備予選はスタートしたのであった。

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