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ラークスパーの花束を  作者: 柊 こはく
第一章 騎士の使命と疑念
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第8話 情報収集

「それで、これからどうするつもりなの?」

 セイはワンピースの裾を叩きながら立ち上がり問いかける。


「……そこなんだよな。いつもは街の人に聞き込みしていたんだが。それじゃいままでと変わらない」


 そう、既に五年前から情報収集は行っているのだ 。

 ただし聞き込みだけではどうしても情報源が偏り上手く集まらない。


 どうしたものか考えているとセイが呟く。


「……女神信仰」


「えっ?」


「……この国は女神の風に守られてる。それは今も昔も変わらない。でも、ここ最近は風が荒れてる。それにもちゃんと理由はある」


「……風が荒れる理由。女神信仰との関係性……か」


 調べてみる価値はある。

 セイの言葉に背中を押されるように、ヴァンクは静かに頷いた。


「……信仰の在り方。それを知るには、やはり教会か、あるいは書物の記録だな」


「この街にはかつて神官が使用していた“記録庫”があるよね」


「ああ……教会の裏手に閉鎖された古い図書館はある。正式な立ち入りはできないが、顔見知りの司祭がいる」


 ヴァンクは顎に手を当て、思案するように少し目を細める。


「ただ、最近の教会は……妙に閉鎖的だ。政務官たちと繋がっている噂もある。あまり派手には動けない」


「じゃあ、記録庫はこっそり見に行こう」


 セイがさらりと言ってのけると、ヴァンクは呆れたように肩をすくめた。


「お前、そういうところは案外臆さないな」


「だって、気になるんでしょう?だったら行くしかない」


 だって、女神は怒ってる……。セイはぼそりと言ったつもりなのだろうが俺の耳には聞こえてきてしまった。

 ちらりと横顔をみると、眉間に皺を寄せて口を固く結んでいる。


「……なるほどな。じゃあ決まりだ。まずは教会へ向かおう。記録庫は閉鎖されてるとはいえ教会は今も使われている。下手に動けない」


「……そっか」


「教会には騎士団もよく視察に行くんだ」


 ――今日はちょうど教会への視察日だ。


 タイミングが良いことに対して思わず口角が上がる。


  「セイ……お前も来るか?」


「……うん。私も一緒にいく」


 ✦︎✧︎✧✦


「あれ?セイちゃんじゃん?!」

 昨日と同じように騎士団本部へセイを連れていくとエリックが目を見開いてこちらを見る。

 他の騎士達も何事かとこちらを伺うように見ている。


「……今日の視察、こいつも連れていきたくて」


「え、なんで?」

 なんと言えばいいか迷っていると、背後から声がかかった。


「ヴァンク」


 静寂を裂くように、低く重たい声が背後から響いた。

 思わず背筋が伸びる。

 振り返ると、鋼のような眼差しをたたえた壮年の男が、腕を組んでこちらを見下ろしていた。

 深い青の外套に銀の装飾。剣の柄には長年の使用で刻まれた細かな傷跡。


「ユベール騎士団長」


「その子は?」


「昨日の災害で住む場所を失ったようです。同行者ともはぐれたようで昨日は勝手ながら自身の家へ連れて帰りました。この子の同行者を探す為にも本日は教会への視察一緒に連れて行ってはダメでしょうか」


 腰の後ろで手を組み、一息で話す。

 嘘は何一つついてはいないが、教会を調べるためにセイを連れていくということもあり冷や汗がたれる。


「住む場所が無くなったというのは本当か」


「市場区付近の宿屋に泊まっていたようですが、昨日の災害で宿屋が崩壊したようで……」


「同行者は」


「災害時はぐれたようで本日情報を集めるために一緒に探す予定でした」


「……そうか」


 淡々と紡がれる質問。


 重々しい声が静かな室内へ響く


「……ヴァンク」

 少しだけ間が空く。

 団長は何かを言いかけて、ふっと表情を緩めた。


「お前は……なんでそんなに、優しいやつなんだ!」


 ……え?


 思わずぽかんとしてユベール騎士団長の顔を見るとそれよりも先に団長は俺の背中をバシバシと叩く。


「いいだろう。こんな小さくて可愛い子を一人残しておくのも可哀想だ。教会に連れていき少しでもこの子の同行者の情報を探そうじゃないか!」


 皆もよいな。と団長は周りにいる騎士たちに声をかけるとゾロゾロと俺とセイの周りに騎士が集まってくる。


「一緒にいた人とはぐれたのか……そりゃ気の毒だな。俺にも手伝わせてくれ」


「俺も市場区あたりを調べてみるよ、気になるしな」


 ザワザワと話し出す騎士達に少し驚いたのかセイは俺の袖をキュッと掴む。


「……おい、お前ら――」

 静止しようと声をかけようとすると


「はいはいはーい。ちっちゃい子にそんなに集まらないの!厳つい顔の男達がこんなに群がったら怖がるでしょーよ」

 エリックの軽快な声で静止がかかる。


「む……そうだな。あまり大人数で囲んでも怖がされてしまう」

 すまないなといいユベール団長はセイの前にしゃがみ声をかける。


 セイはフルフルと首をふり問題ない旨は伝えるが額は俺の背中に付けたままだ。


「この少女の事はヴァンクとエリックに基本任せよう。他の者もなにか情報があれば二人に伝えてくれ」


 ユベール団長の命によりそれぞれの騎士たちは敬礼をしそれぞれ仕事へと戻る。


「ありがとうございます。ユベール団長」


「いいんだ。俺もこの歳くらいの娘がいてな。どうしても甘やかしたくなるんだ」


 ワハハと笑いながらそういう団長をみてようやく安堵の息をついた。


「見つかるといいな。譲ちゃん」


「……うん。ありがとう」

 セイはチラリと団長をみて感謝を伝える。


「頼んだぞ。ヴァンク、エリック」

 団長にそう言われ俺たち二人は姿勢を正し返事をした。


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