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ラークスパーの花束を  作者: 柊 こはく
第一章 騎士の使命と疑念
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第4話 不思議な少女

「……セイ。君は一人で来たのか?」


「一緒にいた人とははぐれた」


 噴水の縁に座り、ぷらぷらと足を動かしながらセイは言う。


「はぐれた?この状況だ、早く見つけなければ――」


 避難をしたといえど、街は瓦礫などにより身動きが取りずらい状態だ。その上多くの人が同じ場所に集まると人を探すのも大変である。

 そう思いすぐに立ち上がると


「あの人は大丈夫。どうせふらっと戻ってくるから」

 とすかさず制止の声が下から聞こえる。


 10歳程の幼い少女とは思えない冷静な声。


「しかし…」

 このままここにいさせる訳にはいけないと考えた瞬間後ろから声がする。


「ヴァンク〜って、お嬢ちゃんどうしたの。一人?」


「……まぁ、そう」


「はぐれたんだと」


 その言葉をきいてエリックはセイの手を掴む。


「大変だ!すぐに探そう」


「え、大丈夫……」


 そんなセイの静止の声も聞かず、そのままふわりと抱き上げた。

 よーし、見つけるぞ〜!なんてカラカラとした口調ではなすエリックを見てセイは諦めたような表情になり、そのまま大人しくエリックに抱き抱えられていた。


「おい、そんな無理やり…」


「だって、こんなところに1人残したら危ないじゃないか。まずこの近くにいないか探そう。一緒にいたのはどういう人なんだ?」


「……この近くにいない。多分、今日は戻ってこないと思う」


「え、嘘だろ?家はどこ?」


「家はない」


「えぇ?!?どゆことぉ……」


 そんな疑問に返答は帰ってこず俺達はつい目を合わせる。


「騎士団本部に1度連れていくか……?」


「それが1番いいだろうなぁ…。あんなむさ苦しいところにお嬢ちゃん一人連れてくのも気が引けるけどさぁ」


 同行者は不在。家もない状態のまま、荒れ果てた市場区にこの少女を一人取り残すわけもいかず俺達は本部へそのまま向かうことにした。


「それにしても、どうして一人であんなところにいたんだ。」


 無言の状態でずっと歩き続けるわけも行かないため俺は気になったことを聞く。


「風が怒ってたから」


「……風?」


「あー。確かに!今日の風はビューン!って凄かったもんなぁ。でも、そういう時こそ危ないところに行ったらダメなんだぞ〜」


 エリックはきっと興味本位でこの少女が市場区に来たのだと思ったのだろう。

 だけど、おそらく違う……

 何かを感じてあの場所に来たとしたならば……


「お前は……女神の加護を持ってるのか?」


「持ってない」


 クレールのような力を持っているのかとつい気になり確認するも即否定をされる。


「女神の加護持ちなんてほんとにいるんかね。俺は見た事ねぇや。この国自体が女神様に守られてるんだろ?なのにそこから加護持ちもいるの不思議だわぁ。しかも、今日なんて街の人たちなんて女神様が怒った〜!なんて言ってて宥めるの大変で大変で……」


 次から次へとベラベラと話すエリックに呆れつつセイをみると、少しだけ眉間に皺を寄せてエリックの服をつかんだ。


「……大丈夫か?」


「え?なんか俺まずいこといった?!」


 慌ててエリックはセイの顔を見ようとするも、セイはエリックの肩に顔を伏せてしまった。


「な、なんかごめんね?」


 なんとも言えない空気が流れ、結局はそのまま騎士団本部へ向かうことにした。


 本部へと到着し、応接室のソファにセイを座らせる。


「疲れただろう。なにか飲み物を持ってくるからここで待っててくれ」


「俺も飲みたい〜」


 セイと一緒にソファにだらりと座るエリックの頭を思わず叩く。


「お前は今日の現場の報告書をさっさと書け。今日中にだ」


「えぇ〜朝も書類、さっきは街に出て仕事来て、帰宅してからもかよ…」


 ゆっくりとソファから立ち上がりそのままフラフラと扉の方へ向かう。


「お嬢ちゃんまた後でな〜」


 ヒラヒラと手を振りながら出ていくエリックを横目に見て少しため息はく。


 給湯室で紅茶をいれ、執務室にいるセイの目の前に置く。


「口に合うといいが」


 すんすんと匂いを嗅ぎ一口飲むと、口元がゆるりと緩んだ。


「美味しい、なんの紅茶……?」


「俺のオススメのダージリンだ」


「いい匂い」


 先程よりも落ちついたのかセイの表情が少しだけ和らぐ。

 セイがこちらを見上げた瞬間、目が合った。

 その瞳はやはり――懐かしさを帯びていた。

 けれどそれが“誰かを思い出している”目なのか、“俺を見透かしている”目なのか、判別がつかなかった。


「なに?」


「お前と俺はどこかであったことがあるか?」


「……さぁ。ないと思うけど。でも、そういうのって忘れた頃に思い出すでしょ?」


「何となくお前に会った時、懐かしい気がして」


 昔クレールとよく行っていた丘をふと思い出す。


「よく友人と町外れの丘に行っていたんだ。その時にお前に似た人に出会った気がする」


「そう……」


 セイはそれだけ呟くとまた下を向く。

 これ以上はこちらから聞いてはいけないと判断し別の話をすることにした。


「お前、今日はどうするんだ。さっき家はないって言っていたが」


「泊まってた宿屋がさっき風で飛ばされてた。だからあそこには戻れない」


 それを聞いてどうしたもんかとヴァンクはしばらく考える。


「だったら、今夜は……俺のところに来るか?」


 セイはパッと俺を見上げ、少し驚いた顔をする。


「いいの……?」


「ここに泊まるの無理があるからな。俺の家なら比較的近いし、家族も何も言わんだろう」


「じゃあ、お言葉に甘えます。……貴方なら何となくそう言ってくれる気がしたから」


 そういうとセイはぺこりと頭を下げた。

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