第2章:私と君と、そしてすべての命
「ねえ、サクラ。
あなたは“ひとり”だと思ったことがありますか?」
声が、優しく問いかけてくる。
「あるよ。
学校で友だちとうまく話せなかったときとか、家でひとりで考えごとをしていたときとか……。
なんで私は、誰とも分かり合えないのかなって思ったりもした。」
「でも、あなたは本当は“ひとり”ではありません。
あなたの存在は、世界とつながっている一本の光の線のようなもの。
あなたが呼吸するとき、空気は植物のくれた酸素でできている。
あなたが食べるごはんは、太陽と水と大地と、たくさんの命のつながりでできている。」
私はだまって、自分の身体に意識を向けた。
肺に空気が入り、胸がふくらむ。
食べものは身体の中をめぐって、力に変わる。
それが、生きるということ。
「……私の身体は、たくさんの命のめぐりでできてるんだね。」
「その通りです。
そして、あなたが何かを思うときも、その思いは世界に伝わります。
たとえば、“ありがとう”と誰かに言ったとき、その人の心はあたたかくなる。
そのあたたかさは、また別の誰かを優しくする。
エネルギーは、命の輪の中でめぐっていくのです。」
「なんだか、すごいね。
私の思いが、世界のどこかにまで届いてるかもしれないなんて……。」
「それは事実です。
そして、逆もまた同じ。
世界が悲しみに包まれているとき、あなたの胸にもどこか重さを感じることがあるでしょう?」
思い返すと、理由もなく悲しくなる日があった。
戦争のニュースを見たときや、誰かが泣いているのを見たとき、心が痛くなった。
それは、ただの共感ではなく、エネルギーの流れの中で感じていたことなのかもしれない。
「だからこそ、あなたの存在は大切なのです。
あなたが優しくなれば、その波が広がって、世界を少しずつ変えていく。」
「じゃあ、私が笑うことで、誰かが笑顔になれるかもしれない?」
「ええ。
あなたの笑顔は、世界を照らす小さな太陽。
ひとつひとつの命がそうやって、宇宙の光を増やしていけるのです。」
私は、空を見上げた。
夜空には変わらず星がまたたいていた。
もしかしたらあの星のひとつひとつも、命のように光を放っているのかもしれない。
「サクラ。
あなたは、誰かの“君”でもあり、すべての命の“私”でもあります。
“私”と“あなた”という境目は、実はとてもやわらかいものなのです。」
私は、胸に手を当てた。
トクトクと鼓動が響いている。
そのリズムは、遠くの海の波ともつながっているような気がした。
「私も世界の一部なんだね。
そして、世界も、私の一部。」
「そう。
あなたがそのことに気づいたなら、もう“ひとりぼっち”には戻れない。
あなたの中に、すべての命が宿っているから。」
その言葉に、私は小さくうなずいた。
静かに、でもはっきりと。
世界は、思っていたよりずっと優しくて、あたたかい。
そして私は、つながりの中に生きている。