【トンデモ賞】雪山で遭難しかけたら、ギャルメイクをした雪女たちが現れた
ヤバい。
マジでヤバい。
雪山登山者の遭難の知らせを受けたオレは、他の救助隊員と一緒に捜索に当たっていた。
しかし、突然の猛吹雪に見舞われて一人はぐれてしまった。
今、オレの方が遭難しかけてる状況だ。
こういう時のために通信機器一式を装備しているにも関わらず、なぜか反応しなかった。
必死に歩き回り仲間を探したがどこにもいない。
これは本格的にヤバいと思ったその時。
目の前から三人の着物を着たギャル集団がやってきた。
っていうかこの猛吹雪の中、着物?
彼女たちは「まじパネェ」とか「うーけーるー」とか言っている。
なんなんだこいつらは。
彼女らはオレに気が付くと「お?」と近寄って来た。
「おいおいおいおい、見ろよ。人間のオスだぜ」
「うお、ほんとだ!」
「まじパネェ」
着物を着たギャル集団は、物珍しそうにオレを取り囲んだ。
「おい、オッサン。どうした? 迷子か?」
ギャルの一人が声をかけてきた。
「オ、オッサン?」
彼女たちの奇妙な格好よりも、オレはおっさん呼ばわりに反応してしまった。
「オッサン言うな。これでもオレはまだ20代だ」
「20代つったら十分オッサンじゃーん!」
「うーけーるー!」
ウケられた。
どこにウケる要素があったのだろう。
「それよりも君たちは誰だ? そんな恰好で寒くないのか?」
オレの言葉にギャルたちは互いに顔を見合わせた。
そして次の瞬間「ぎゃはははは」と笑い出した。
「なにこのオッサン。天然? 天然記念物?」
「ヤッバ! 超かわいいんだけどー!」
「寒くないのか? だって! 寒くないのか? だって!」
なんで笑われてるのかまったくわからない。
まったくわからないが、ひとつだけ確かなことがある。
彼女たちはこの格好でも寒くはないということだ。
むしろこれが当たり前の装いらしい。
「ソンナ恰好デ、寒クナイノカ?」
「ぎゃははは、似てる似てるー!」
オレのモノマネまでし始めた。
なんなんだ、こいつら。
オレが憮然とした顔をしてることに気付いたのか、目の前のギャルたちは笑いながら言った。
「オッサン、オッサン。あたいら雪女だよ」
「……は?」
雪女?
何言ってんだ?
「この雪山に住む雪女」
「………」
あまりにもポカンとしていたのだろう。
雪女と名乗ったギャルが「あれ?」と首を傾げた。
「雪女知らんの?」
「い、いや、雪女は知ってるけど……。雪女ってもっとこう物静かで奥ゆかしいイメージが……」
オレの言葉にギャルたちはさらに「ぎゃはははは」と笑った。
「いつの時代だよ、それ!」
「勝手なイメージ押し付けるなっつーの!」
「そりゃ、うちらのひいばあちゃん世代はそうだったかもしんないけどさあ!」
世代とかあるんだ……。
「ウチラだって時代の最先端を生きてまーす☆」
チェキをする仕草がなんとなく憎たらしかった。
でも雪女と聞かされて逆に納得した。
この猛吹雪の中、こんな格好で歩いてるとしたら幽霊か妖怪の類だろう。
「そ、そうか。君ら雪女か」
「うぇーい、シクヨロー☆」
ちょっと雪女のイメージとはかけ離れてるが。
「ところでさ。オレ山岳救助隊なんだけど、ここらで遭難者を見かけなかったか?」
「オッサンのことだろ?」
「いや、オレじゃなくて!」
オレも遭難しかけてるけど!
「いや、見てねーよ」
雪女の一人が首を振った。
「見てないか……」
がっくり肩を落とすオレに、もう一人の雪女が言った。
「ちょっと待って。アレじゃね? ここに来る途中、なんか大きな物体が埋もれてなかった?」
「ああ、そういやなんか雪に埋もれてたな。黒い物体が」
「てっきり、ぬらりひょんのジジイが雪山でテンションあがって雪の中にダイブしてるのかと思ったぜ」
ぬらりひょんのジジイって……。
でももしかしたらそれがオレたちの探していた遭難者かもしれない。
わずかな可能性を信じてオレは雪女たちに手を合わせた。
「なあ、お願いがあるんだが、そこまで案内してくれないか?」
てっきり嫌な顔して断られるかと思いきや、雪女ギャルたちは「別にいいけど」とあっさり了承した。
「い、いいの?」
「でも、あたいらの案内料は高いぜ?」
「た、高いってなにが?」
金か?
雪女のくせに金が欲しいのか?
「そーだなー。案内料はあんたの50年分の寿命かな」
「あは! いーね、それ!」
「吸われた瞬間、ポックリいったりして」
一気に血の気が引いた。
そういえば雪女って男の生気を吸い取るんだっけ?
「い、いや、さすがに50年分の寿命はちょっと……」
思わず身構えると、雪女ギャルたちは「ぎゃははははは」と笑った。
「冗談だよ、冗談!」
「本気にすんなし! んなことするわけないじゃん!」
「ヤバーい、超カワイイんですけどー!」
カワイイ言われた……。
っていうか雪女ジョークは本気なのか冗談なのか区別がつかん。
「ほら、案内するからついて来て」
雪女たちが歩き出したので、オレは恐る恐るついていった。
本気であったとしても、このままここにいたらどのみち死ぬしかない。
サクサクと軽快に歩く彼女たちのあとをオレは必死に追いかけた。
「いた! 遭難者だ!」
雪女ギャルたちに連れられて向かった先には、行方不明になっていた登山者の男が雪に埋もれて倒れていた。
肌は冷たいが、辛うじて脈はあるようだ。
「しっかりしろ! 救助隊員だ! 助けに来たぞ!」
男に声をかけ、無線で救助者発見の通信を送る。
しかし猛吹雪のためか、やはり無線は通じない。
「くそ! 動け! 動け!」
無線をバシバシ叩いてると、雪女たちが興味深そうに聞いてきた。
「何してんの?」
「本部に通信を送ってるんだ。でもつながらなくて……」
「ああ、そりゃあたいらがいるからだ」
「へ?」
「電波障害起こしやすいからねー、あたいらの体質」
「そ、そうなの?」
だとしたらどうすればいいんだ。
オレ一人じゃこの要救助者を運べないし。
かと言ってここにこのまま放置するわけにも……。
事は一刻を争う。
どうしようかと悩んでいると、雪女ギャルたちは「なあなあ」と声をかけた。
「あたいらが麓まで運んであげよっか?」
「え?」
「ここで死なれても困るしさー」
「だよねー」
彼女たちはそう言うなり、遭難者の男を「よっこらせ」と二人がかりで持ち上げた。
す、すごい。
二人がかりとはいえ、華奢な身体つきで大柄な男を担いでしまった。
そしてもう一人の雪女はオレをお姫様抱っこしたのだった。
「おおおおお、オレもー!?」
「オッサン、重いー!!」
「重い言うな。装備品がたくさんあるんだから仕方ないだろ。ってか、オレは別にいいんだけど!」
「しゃべらないで。舌噛むから」
言うや否や、雪女たちはものすごい速さで雪山を駆け抜けていった。
「うわ! うわわわわ!」
なんだこれ!
なんだこれ!
ジェットコースター並の速さじゃないか!
めっちゃ速い!
めっちゃ怖い!
「こらオッサン! ジタバタすんなって!」
「ジタバタするなって言われても! こわいこわいこわいこわい!!」
思わず雪女の身体にがっしりとつかまってしまった。
こんな状況なのになぜか彼女の肌から体温が感じられ、「雪女って体温あるんだ」と感心してしまった。
やがて。
気が付くとオレは麓の大きな病院前に立たされていた。
足元には遭難者の男。
そして雪女ギャルたちの姿はどこにもなかった。
すぐに病院の中から担架をもった看護師たちが駆けつけて来る。
看護師たちもかなりビックリしている様子だったが、遭難者の男の状態を見るや急いで担架に乗せて中へと入っていった。
不思議なことに無線も復活しており、オレは急いで本部に連絡した。
オレがはぐれたことに気づいた隊員たちは、すぐに本部に戻って再捜索の手配をしている最中だったそうで、オレが通信を入れるや否や大急ぎで駆けつけてきたのだった。
「うおー! 生きてたか、コノヤロー!」
「心配かけさせやがって!」
「しかも遭難者まで無事に助け出したなんてやるじゃねーか!」
仲間から何度も頭を叩かれながら、オレは事の経緯を隊員たちに語った。
猛吹雪の中でギャルメイクをした雪女たちと出会ったこと。
彼女たちの案内で遭難者を発見したこと。
そして彼女たちが麓まで連れてきてくれたこと。
一通り説明し終えると、話を聞いていた隊員の一人が言った。
「雪女のギャルバージョンか。そういや、この雪山は昔っから雪女伝説があるって言うよな」
「吹雪で迷子になった子どもを家に帰したって話、聞いたことあるぞ」
「一時期、ヤマンバギャルメイクの三人組を見かけたってヤツがいたな」
ヤマンバギャルと聞いて、オレはプッと吹き出した。
「時代の最先端を生きてまーす☆」というのは本当だったのか。
「それにほら、これ」
もう一人の隊員がスマホでとあるYou○ubeを再生させた。
それを見てオレはさらに吹き出してしまった。
そこに映ってたのは、あの雪女ギャルたちだったからだ。
『ウェーイ! うちら雪女ピッピーズどぇーす☆』
彼女たちは、猛吹雪の雪山のど真ん中でピースサインをしていた。
「これ、雪女にメイクしたコスプレ動画と言われてるらしいんだけどな。場所はこの辺りの山らしいんだわ」
雪女にメイクしたコスプレ動画。
まあ、確かに本物の雪女がYou○ubeやってるなんて思わないだろう。
っていうか、無線の電波障害の話はなんだったんだ。
自分たちの情報発信には障害が起きないのか?
不思議なことに、彼女たちの動画のチャンネル登録者数は100万人を超えていた。
「あいつら、ゴリゴリのユー○ューバーじゃねえか……」
そんな彼女たちのYou○ubeには最新の動画が更新されていた。
そこにはこんなタイトルが記されていた。
『悲報! オッサンをお姫様抱っこしたら抱き着かれた件! オッサン臭がすごい!』
そのタイトルを見た時、オレは思わず「オッサン臭言うな!」と叫んでしまったのだった。
その後、オレは雪女ギャルたちと仲良くなり、オレを担いだ雪女と恋仲になるのは数年後の話。