まずやるべきこと
その王子が死んだことが語られるのは、ゲーム冒頭、プロローグだった。
字幕と共に現れるスチルには、血を流しながらうつ伏せに倒れている白髪の人物と、何者かのナイフを持った手が描かれていた。
薄暗い路地のようなところに倒れていたその人こそ、隣国であり大国アルテーヌ王国の王子であったはず。
今はまだ本編が始まる前だけど、王子はプロローグ前に殺されているから事件が起こった時期がわからない。
もし万が一もう殺されていたとしたら、置かれている状況はかなり悪いものとなる。
(私は転生したてだから、過去のことは何もわからないけど…。もしものことがあったら、それに適した対応を考えないと)
言葉にならない緊張感が漂い、思わずゴクリと喉を鳴らす。
「アルガード様とライアン様のことですか。…大丈夫です、お二人ともご存命ですよ」
その言葉を聞いて、全身から力が抜けていくのを感じる。
(よ…よかった…)
まだ戦争の発端となることが起こってはいないようだ。
ひとまずほっとする。
(だけどいつ起きるかはわからないし、今から手を打たないと)
スチル一枚、少なすぎる情報源からなんとか手掛かりを探し出そうと記憶を手繰り寄せる。
暫く唸っていると、不意にその絵の床にピンクの花びらがひとつ落ちていたのを思い出す。
薄暗い路地裏、花なんて咲いているはずがないのに。
(どう考えても不自然だわ…。もしかして、これが手がかりなの?)
私は不自然そうに私を見つめるアンリに向き直って問うた。
「ねえアンリ。…アルテーヌ王国の植生で、ピンク色に咲く花って何がある?」
「ピンク色、ですか。ああ、それならあの国にはチェノリアという有名なお花がありますよね。
ちょうど2週間後にチェノリアのための祭りがあるくらいですし」
「それだわ!」
思わずぐいっと身を乗り出す。
「ねえアンリ、そのお祭り私も行っていいかしら?」
「珍しいですね、お嬢様が他国のお祭りに参加したいだなんて。侯爵様のお許しが出たら行けると思いますよ」
「本当?ありがとう!」
(2週間後…ギリギリだけど、今ならなんとか止められる…!)
絶対に救ってみせる、そう決意を新たにした私はその夜、王子暗殺阻止計画を練ることにした。
「お父様に許可も貰えたし、まずは暗殺勢力に勝てる騎士の動員よね…」
私1人じゃどうにもならないけど、なにしろ一国の王子の暗殺計画だ、あまり事を大きくするのも気が進まない。
なるべく穏便に済ませたいのだったら、騎士の人選にも気を使わなければならない。
「となると秘密主義で侯爵家への忠誠心が強くて、あと少数でもいいようにかなり腕の立つ騎士ね。わあ、許可降りるかしら…」
そんな騎士がいるとしたら侯爵家の宝だ。簡単に許しが出るとも思えない。
それでもとにかくやってみるしかない。
次やることは決まった。
「明日、ガーデンシュタイン侯爵家の訓練場に行きましょう!」