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14/21

突然のお誘い

「近々君と街へ出かけたいから、都合の良い日にちを教えて欲しい」



その日侍女から受け取った手紙に、私は思わず固まってしまった。

今まで手紙のやりとりだけだったのだ、驚くのも無理はないと自分でも思う。


私の様子とは対照的に、きゃあきゃあと色めき立っているのはアンリだった。


「お嬢様、ついにデートのお誘いが来ましたね!」


「デート…なのかしら…?」


「デートに決まってるじゃないですか!なんてったってお嬢様とアルガード様は婚約関係にあるんですから。そ、れ、に」


そう言ってアンリが、手紙に同封されていたピンク色の香水を指差す。


「毎度毎度、こんなに気持ちがこもった手紙と贈り物をくださるんですよ?しかも、ことごとくお嬢様の好みにぴったりなものを!」


確かに送られてくるものは全て、デザイン、色、形、何につけても私の好みどんぴしゃだ。しかも一級品。


一体どれほど私のことをリサーチしたらここまでの芸当ができるのだろうか。

すごいを通り越して、少し怖いまである。


「やっぱりそれほどお嬢様のことが好きなんですねぇ。第一王子の忙しさなんて計り知れないほどですのに、これほどのことをするのにどれだけの手間がかかることか」

少しじっとしていてくださいね、と言いながらアンリは今日の私に似合う髪飾りを吟味し始めた。


「…殿下が、そうまでして下さる理由がわからないわ」


彼はとても優しい。けれど、掴みどころのない人でもある。


何か理由があるにしろ、中途半端な婚約者未満の私にここまでの手間をかける理由が私には未だに見つけられずにいた。


「そんなの愛ですよ、愛。一度しか会ったことのない他国の侯爵令嬢に、わざわざ結婚を申し込むくらいなんですから」


「一度しか会ったことがないのに?」

「一目惚れってやつですよ!お嬢様の美しさに加えて、刺客にも果敢に立ち向かうあの勇敢さ、惚れない男性はいません!

とはいえ、本当に心臓が止まるかと思ったので、もうあんな無茶はよしてくださいね」


「あはは…ごめんごめん」

もう、と少し拗ねたようなアンリの声を後ろで聞きながら、私は思いを巡らせていた。


(一目惚れ…ではないと思うけど)

切羽詰まった事情が何かあったとしても、それ以外の事情も存在するのかもしれない。


「それなのにお嬢様ったら、こんなに丁寧な手紙の返事が毎回そっけないんですから!ありがとうございますだけってなんなんですか?」


「だ、だって何を書けばいいのかわからないんだもの」

異性との文通なんて、元の世界でスマホのやりとりすらろくにしていなかった私には荷が重い。

せっかく送ってもらったものに何も言わないのは良くないと考え、とりあえずお礼の手紙を出すことにはしているのだが、毎回本当にお礼だけで終わってしまうのだ。


「そんなの、他愛ないことでいいんですよ。アルガード殿下はお嬢様が日頃どのように過ごしているのかが知りたいんですから」


「うう、難しい…」


でも確かに、2人で出かけるのはお互いを知る良い機会かもしれない。

(殿下のことを知れたら、何か戦争解決の糸口が見つかるかも)


「…アンリ、あとで便箋をちょうだい。できるだけ早めに、何日か候補を出して文を出すわ」


「はい!お嬢様、当日の格好は私にお任せくださいね。とびきり可愛くして差し上げますから!」




そして、あれよあれよという間に迎えた当日。

私は綺麗に編み込まれた髪に花の髪留めを付け、薄紫のドレスを着て、護衛のルークと共に家の外に出た。

どうやらアルガード殿下が迎えに来てくれるらしい。


「俺は離れたところで見守っていますから、何かお申し付けがあればなんなりと」

「ありがとう、ルーク。…緊張してきた…」


「大丈夫ですお嬢様。殿下が無礼を働くようなことがあれば、俺が…」

「そういう意味ではなくてね…?」


そんなことを話していると、向こうから馬車がやって来るのが見えた。

「来ましたね」


侯爵邸の前で止まった馬車から、美しい銀髪のきらびやかな男性が降りて来るのが見えた。


「迎えに来たよ、エミリア」

アルガード殿下がこちらを見てふわりと笑った。


殿下に続いて、もう1人男性が降りてくる。


方まであるふんわりとした茶髪に薄いピンク色の目をした、こちらも美青年の男性は、私に向き直ると深々と美しい所作でお辞儀をした。


「お初にお目にかかります、エミリア・ガーデンシュタイン様。私、アルガード殿下の側近の、ルイセーヌ・オプシリンギスと申します。以後お見知りおきを。先日は、我が主の命を救っていただき感謝いたします」


「い、いえ、私は何も。私の護衛が優秀だったからです」

私も慌ててドレスの裾を摘んで、軽く礼をする。


「ルイセーヌは私の優秀な右腕だよ。エミリアもきっと世話になる機会が多いだろうから、今のうちに紹介しておこうと思って」

アルガードがにこやかに話す。


「それじゃあ、挨拶も程々に。行こうか」

そう言って、さりげなく私の腰に手を回したアルガードにどきりとする。


(て、手慣れてる、、、!)


果たして今日はうまく行くのだろうか。

不安と緊張を抱えながら、私は馬車に乗り込むのだった。

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