その後
見送りの際、アルガードは近々また会いに来ると言った。
なんでも、婚約もしていない他国の王族とこの国の貴族が無断で逢瀬を重ねるのは色々とまずいそうだ。
「ヴィンドール国王陛下に挨拶することは必須だからね。それが終われば、次は俺の両親に挨拶に行こう」
先程までの敬語を崩され面食らっている私に、アルガードはふわりと笑う。
「ではエミリア、また次のときに」
アルガードを乗せた馬車をぼうっとして見送っていると、ルークに後ろから声をかけられた。
「よろしかったのですか?あんなに悩んでいらっしゃったのに」
「ルーク!…えぇ。自分で考えて決めたことだもの、きっと大丈夫」
「不安なことがあれば、俺を頼ってください。俺の主人は、貴女ですから」
「…ありがとう」
護衛騎士の心遣いに、心がじんわりとあたたかくなる。
「アルガード様が何かエミリア様に何かしたら、俺が斬ります」
「ほ、程々にね、、、?」
「ルーク、物騒ですよ。私もエミリア様に着いていきますから!」
アンリも私たちのそばに来て、そんなことを言ってくれた。
心強い2人の言葉を聞いて、顔がほころぶ。
(2人だけじゃない、こんなに寄り添ってくれる人がいるんだもの。きっと、うまくやれる)
「ひとまず居間に戻りましょうか。旦那様と奥様が、はらはらしながらお待ちしていましたよ」
「そうね。うまくいったことを伝えないと」
明るい空の下、私はわが家へと足を向ける。
晴れた空の下は、ほんのり春の匂いがした。
アルガードはそれから数日おきに、私に手紙をよこすようになった。
内容はどれも他愛のないもので、手紙と一緒にお菓子や服が送られてくることもある。
はじめは本当に受け取っていいのかわからなかったけれど、『君に似合うと思った』なんて言葉が添えられているものだから、お返しするのも気が引けた。
今日はチェノリアの押し花で作った栞が封筒の中に入っていた。
手紙には
『君は読書が好きだと聞いたので、庭で1番綺麗に咲いたチェノリアを使って栞を作ってみた。あんなことがあった後では、まともに花も愛でられていないだろうから。君の心の癒しになることを願って』
と書かれていた。
「そんなのどこで知ったのかしら…」
思わず独り言が漏れる。
作ってみたということは、これはアルガードの手作りなのだろうか。
花びらも重なっておらず、作った人の器用さと几帳面さが伺える。
そして、手紙の最後にはお決まりの言葉が書かれている。
『体調には気をつけて。今日も君にとって素敵な1日になりますように』
思わずふふっと笑みがこぼれる。
いつの間にか、私はアルガードからの手紙を楽しみにするようになっていた。
栞を見たアンリが私の髪をすきながら言う。
「へぇー、綺麗な栞だと思ったらアルガード様がお作りになったんですね。お嬢様、愛されてますね!」
「うーん…そうなのかしら」
彼の掴みどころのなさを思い出して、思わず首を捻ってしまう。
「そうですよ!第一王子ですし、公務でかなりお忙しいはずなのにこうしてお嬢様に手紙と贈り物をしてくださるんですから!」
言われてみればそうかもしれない。
(でも…どうしてわざわざ?)
もう話し合いが済んだ後なのだ。
私のことを今以上に引き留めておく必要はない。
そんなある日、またもやアルガードから手紙が届いた。