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第九話 とりあえず何とかしないと

 拗ねるフクを何とか宥めることに成功したが、問題は山積みだ。

 とりあえずは、この神狼(フェンリル)の扱いだ。

「なあ、お前の名前は?」

『私か。そういえば何だろうな。もう年十年、何百年と名で呼ばれたことはないから、忘れてしまった。どうせならシンが名付けてくれないか?』

「俺がか?」

『ああ、そうだ。私の主なのだから当然だろう』

「お前、それフクの前で言うなよ。せっかく落ち着いたのに」

『分かった。それより早く名付けてくれないか』

「ハァ~何か希望はあるのか?」

『特にはないが、出来れば可愛らしい名前がいいのだが』

「シロとか?」

『却下だ。もっとマジメに考えてくれないか』

「なら、ハナコ」

『ダメだ』

「じゃあ、ユキかユリかハク」

『待て! もう一度、ゆっくり言ってくれ』

「言うぞ。ユキ、ユリ、ハク」

『ユキだな』

「ユキがいいのか?」

『ああ、シンに呼ばれるとまた違うな。いいぞ、私の名はこれからは『ユキ』だ」

「ってことはメスでいいのか?」

『シン、女性に『メス』は失礼だろ』

「でも、分類としてはメスだろ?」

『頼むからメスはやめてくれ』

「そんなに重要なことか?」

『そうだな、他の獣達と同列に扱われているような気がして嫌だな』

「分かったよ。そこまで言うのなら、ちゃんと女性として扱うよ」

『すまんな』

「だが、女性扱いという割には全裸だがな。くくく」

『ふん、毛皮を身に纏っているから全裸とは言えん』

「意地っ張りだな。まあいいや。こっちの問題は終わったから、次はあっちだな。ハァ~気が重い」


 奥の部屋ではまだ、ギャアギャアとうるさく吠えている貴族令嬢とフクから食事を振る舞われている女性達。

「問題はあっちの御令嬢だな。まあ、後回しだ」


 フク達と離れた場所でユキと一緒に昼食を取る。

 まだ、あの女性達は男性恐怖症みたいだし、これはしょうがないのだが、せめて怪我の治療だけはさせてもらえないかな。


「兄ちゃん、あの女性(ひと)達の食事は終わったよ」

「そうか、ありがとうな。ついでに頼みたいことがあるんだけど、いいかな?」

「いいよ、何?」

「あの女性(ひと)達は男が怖いんだと思うんだけど、俺を怖がらないってのは無理か聞いてくれるか」

「分かった。ちょっと待ってて」


 フクが女性(ひと)達と話しているのが微かに聞こえる。

『大丈夫』とか『にいちゃんは童貞だから、危険はない』だとか『基本ヘタレだから』とか聞こえてくると今すぐにでも怒鳴り込んで止めさせたいが、そうすると余計に怖がらせてしまいそうで側によることも出来ない。


「兄ちゃん、彼女達の了解は取れたけど、どうする?」

「そうか、なら今から行っていいか聞いてくれるか?」

「分かった。ちょっと待って」

『シンよ、彼女達をどうするつもりだ?』

「どうもこうも一応は希望を聞いて、出来るだけ叶えるつもりだけど」

『お主も自分に対して牙を向けない奴らには、普通以上に優しいんだな』

「それはいいが、お前はどうしてあんなところにいたんだ?」

『それは……』

「何だ、言えない理由か?」

『いや、そうじゃないが少し恥ずかしいかな』

「じゃ、いいや」

『おい! そこは無理してでも聞いてくるところじゃないのか?』

「いや、別に」

『シンは話したくなるのを待つタイプなのか?』

「だから、別に言わなくてもいいから。俺は気にしないからな」

『そうか、私には興味がないのか』

「そう言われればそうかもな。なら、契約解除か?」

『それを嬉しそうに言われるのも癪だな。絶対に契約解除はないからな』


 そこへフクが帰って来て、「いいってさ」と言って来たので、彼女達の元へと向かう。

「こんにちは。少しいいですか?」

「「「「「……」」」」」

「まだ、怖いのかな。用心するのは分かるけど少し話を聞いてくれるかな?」

 彼女達が頷いたので、話を続ける。


「まずはあなた達のケガを治しませんか? そのままだと破傷風とか病気になる可能性もあるので」

「「「「「……」」」」」

「誓って、あなた達の体に触ることはしませんので」

「なら、私が試してもらうから。あなた達は私の様子を見てから決めればいい」

「そんなアンナさん……」

「大丈夫。もう散々弄ばれた身体だから、今更そこの坊やに何かされたとしても傷にはならないから。さあ、治してもらえる?」

「分かりました。では、そこに横になってもらえますか」

「ここでいいのか?」

「ええ、そこでいいです。いいですか? じゃ、いきますね」

「ああ、いいよ」

「じゃ、ヒール」

 足元で横になったアンナと呼ばれた女性の上で手をかざし『ヒール』と唱える。

 別に唱えなくてもいいのだが、何も言わないと却って不自然かと思い呟いてみた。

 程なくして、アンナさんの身体の表面から小さい傷が消えていく。

「「「「ウソ……」」」」


「これで身体の表面の傷は治ったと思います。で、ここからが重要なんですが、陵辱された痕跡を消すことを望みますか?」

「なっなぜそれを……」

「さっき話が少し聞こえましたし、それに大体の想像は付きます。こんな山賊のアジトに閉じ込められて、身体の表面には細か裂傷が多数見られたので、多分乱暴されたのだろうとは思いました。で、どうしますか?」

「……それはどこまで治せる?」

「そうですね、分かりやすく言えば陵辱される前でしょうか」

「……汚される前に戻れるの?」

「ええ、それでどうします?」

「聞きにくいんだけど、その……」

「はい?」

「君は何を対価として求めるの?」

「別に」

「別に……って、どうして?」

「単なる気まぐれと思って下さい。たまたま俺達の通る道に山賊のアジトが在って、たまたま、そこにあなた達が囚われていて、たまたま、それをフクが気付いて助けたいと言い出したから、助けた。ただそのままにしては、こちらも気掛かりが残るから心配事はまとめて解決してしまおうと思っただけですから」

「それでも何もなしってのは、気がひけます」

「じゃ、こうしませんか? まずは治療が終わったら、この場所から移動しますが、その途中での食事の支度をお任せするってのはどうです?」

「食事の支度ですか。それなら十分にご期待に添えることが出来ますが」

「なら、それでお願いします。で、話は戻しますが、治療を受けますか?」

「はい、お願いします」

「では、まとめて治療しますので彼女達の説得をお任せしてもいいですか」

「はい。お待ち下さい。必ず説得しますので」

「じゃ、手伝いにフクを連れて行って下さい。フクの言うことなら多少は信憑性が増すと思いますので」

「分かりました。ありがとうございます」

「フク、頼むな」

「任せて! 兄ちゃん」

 アンナさんがフクと手を繋いで彼女達の元へと一緒に行く。

「ふぅ~本当なら俺がモテモテになった筈なのにな~」

『ヘェ~よく言うわね。最初は見捨てようとしたクセに!』

「うっ。そ、そうだったかな~」

『何なら再現しましょうか? エンドレスでループさせてもいいわよ』

「ごめんなさい」


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