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第十八話 旅の終わりに

 騒ぐメイドをその場に残し、冒険者達に言われるがままに森の中へと入っていく。

「はぁ本当はもう少し森の入り口で、お嬢さんに慣れて欲しかったんだがな~」

「すみません……」

「まあ、お嬢さんは悪くないよ。それに元々森の奥には行く予定だったんだしな」

「(知ってる)」

「うん? なにか言ったか?」

「別に……」

「そうか、まあいいがな」


 森の中を進み、ある程度の開けた場所に出る。

「この辺でいいか。おい! 野営の準備だ」

「「「へい」」」


 冒険者達の手で野営の準備が進められる。私はなにもすることが出来ず、ただそれを見ているだけだった。

「あの~暇なら、手伝ってもらってもいいですか?」

「え? 私に言ってるの?」

「ええ、そうですよ。他に誰がいるってんですか!」

「よしなよ」

「アンナ、だけどあの子がいなくなったのも、このお嬢さんのせいなんだし、少しは手伝ってもらってもいいじゃない!」

「そうかもしれないけどさ、このお嬢さんは、私達がどうなろうと雇い主様のご令嬢なんだから、変に絡むのはやめときな」

「チッなんだよ! あんただって、腹の中じゃ「それ以上はだめ」……なんで止めるのさ!」

「いいかい? こいつら冒険者もあの領主様の雇われ者だってことを忘れるんじゃないよ。例え無事に帰ってもあいつらの一言で私達はどうなるか分からないんだから」

「そんなの! 例え、無事に帰れたとしても、あいつらに乱暴された事実が消えることはないんだよ! いつまでこんな理不尽や暴力に耐えなきゃいけないんだよ! 私がなにしたってのさ!」

「おそらくだけど、ここに集められたのは領主様のお相手を拒んだ子達ばかりだろうね」

「え? なにそれ? たった、それだけのことで? 私達はこんな死ぬような目に会わなきゃいけないの?」

「そうみたいだね」

「はっなんだいそれ、あの領主の相手を断ったばかりに、こんなところで冒険者の男に乱暴されたってのかい。冗談じゃない!」

「なら、あんたもここから逃げるかい?」

 そう言われるとメイドがアンナを睨みつける。

「あんた、出来ないって分かってて言ってるんだろ。ああ、そうさ。もうここから逃げることさえ出来ないし。例え逃げられて街に帰ったとしてもあんたが、あの子に言ったように領主からどんな目に会うか分かったもんじゃない」

「それが分かっているなら、文句言わずに死なないようにしないとね」

「ふん、分かったわよ」


 私のことは置いてきぼりで、勝手にアンナと話して納得したのかメイドはいつの間にかいなくなっていた。

 もう少しで森の中心地だ。予定ならば、そこに着く前に始末されるのだろう。それまでに多少は強くなれるのだろうか。


 それからは一箇所に留まることもなく、森の中心へと進んでいく。そして、魔物が出るたびに虫の息の魔物へ止めを刺すのは私の役目となり、時には止めをさした魔物の上でポーズをとらされた。まるで冒険譚の主人公のように。


 森に入り何日が経過しただろうか、気が付けばメイドの数が減っていた。どうしてか分からないが、その理由は聞いてはいけない気がしていた。


 そしていつものように野営の準備をしている頃に周囲の藪の中から物音がする。

 リーダーらしき男が周りの冒険者に指示を出す。

「お前ら、ちょっと様子を見て来い」

「「「へい」」」


 冒険者の男達が藪の中へと入って行く。しばらくして、剣戟の音が聞こえて来た。

「チッここは山賊の縄張りだったか。くそっ」

 リーダーらしき男が、慌てて藪の中へと入っていくと、しばらく剣戟が続いていたようだが、ぴたりとその音が止む。

「聞こえなくなったわね」

 残された冒険者の女がそう呟くとほぼ同時に藪の中から、冒険者とは違う男達が現れた。

「なんだ! お前達は!」

 冒険者の女が叫ぶ。

「なんだってよ! ギャハハハ」

「どう見たって、賊だろ」

「そうだよな~ギャハハハ』


「あいつらはどうした?」

「あいつら? ああ、あいつらね。あっちで寝ているぞ。真っ赤な血を流しながらな。まあ、あれだけ派手に匂いを撒き散らしたからな、今頃は胃の中かもな。そうなるとここも危ないぞ? ん? どうする?」

「ぐっお前達が……」

「お、なんだ? やるってのか? まあ、俺は殺せるかもしれないが、周りをよく見てみるんだな」

 賊の男がニヤニヤしながらそういうと、藪から次々に男が出てくる。


「くっ……私達をどうするつもりだ?」

「別に。一緒に来るなら構わないし、来ないなら魔物の腹の中だろうな。さあ、どうする? ひょっとしたら、いつかは油断して俺たちを殺すこともできるかもよ~ヒャハハハ」


 私達は抵抗することも出来ずにそのまま賊の男に言われるがまま、アジトらしき場所へと誘導される。


「ほら、自由にしていいぞ。ちょっと待て! お前は金になりそうだな。ちょっと、あいつらが手を出さないようにしとくか。お~い、こいつには手を出すなよ。間違って手を出さない様に檻に入れとけ!」

「「へい」」

 私の方に二人の男が近寄って来ると、そのまま腕を掴まれる。

「離しなさいよ! 私を誰だと思っているの!」

「さあ、誰なんでしょうね~まあ、身代金をもらう時には分かっているだろうがな。分かっていなけりゃ、誰に払ってもらえればいいか分からないもんな。ギャハハハ」

「そりゃ、そうだ。ギャハハハ」

 そのまま、腕を掴まれたままの状態で、檻の前まで行くと男が檻の扉を開き、私を投げ込む。

「いたっ。なによ! もう少し丁寧に扱いなさいよ!」

「おうこわ! いいから、お前は黙ってそこに入ってな。なにせ、そこが一番安全なんだからな。それと夜になったら、耳を塞いでいた方がいいぜ。これは優しいお兄さんからの忠告だ」

「ギャハハハ、そりゃ確かに優しいお兄さんだ。ギャハハハ」

 そう言い残し、二人は檻の前から去っていく。


「なによ、こんなところに入れて……一体、夜になにがあるっていうのよ」

 訳が分からないまま、気づけば夜になり、私の元へは食事と呼べるのが不思議な物が届けられていた。

「いいか、これを食ったらあとは大人しくなにも聞かないで、そのまま寝るんだ。いいな、これは優しいお兄さんからの忠告だ」

「なによ! 一体なにがあるってのよ!」

「まあ、気になるのはしょうがないが、いいか。俺は忠告したぞ!」

 男がそう言い残し、檻の前には誰もいなくなる。


 やがて、賊がいるらしい部屋の方から、下卑た笑い声と酒の匂いがしてくる。

 その内、女の声で『イヤ!』『やめて!』と拒否する声と男の荒ぶった声がする。

 その声の様子から、あの冒険者の女やメイド達がなにをさせられているのか想像に難くない。

「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめん……」

 そのまま、蹲り耳を押さえる。しかし、いくら押さえても泣くような声と下品な笑い声が耳から離れない。


 気が付くと朝になっていた。しかし檻から出されることもなく、今もまだ檻の中だ。私はいつになったら、ここから出られるのだろうか。

 そんな日々が数日続いた頃、男達の様子も変わってくる。

「おい、こいつもダメだ。そっちは?」

「ああ、こっちもだな。どうすんだよ、これ」

「お前ら、あんだけいたのをもう壊しちまったのか?」

「そんな~お頭が悪いんですぜ」

「そうだよ、お頭が無茶するから」

「なんだよ、俺のせいか?」

「そうは言ってませんがね」

「まあ、いい。ほれ、いつまでも腰振ってないで始末してこいよ」

「「「へい」」」


「それにしても身代金を要求したってのに返事もないってのもどうなんだ? もしかして、あいつは用無しなのか?」


 賊の頭がそんなことを呟いていると、遠くから『ゴロゴロゴロ……』と音が鳴り響く。

「なんだ? 雷でもねえな」

 そう呟いた瞬間、『ギャッ』『プチッ』と音がしたと思ったら『ドゴォン』とアジトの入り口が大岩で塞がれる。


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