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第十五話 行くしかないんだ

 布団にくるまったまま、そのまま寝てしまったようだ。

 いつの間にか朝になり、メイドが起こしにきた。

「オリヴィア様、朝です。起きて下さい。今日は出立なさるのですから」

「そうね。分かったわ」

 メイドにそう言って、ベッドから下りる。やっぱり、私はこの屋敷から追い出されるんだ。

 もう、ここまで来たらどうしようもない。今はこのまま流れに身を任せるしかないのだろう。そんなことを考えながらも、本人の思いとは別に粛々と準備は進んでいく。

 朝の身支度を済ませると、いつもとは違う服に着替えさせられる。パッと見は動きやすそうな、いかにもこれから冒険に出ますよと言うような出立だ。

「流石にこんな格好までさせられて、今更イヤとは言えないわね。まあ、このまま家にいてもどうなるのか分からないのだから、外に出られるだけマシかもね」

「なにか言いましたか?」

「別に。独り言だから気にしないで」

「そうですか。では、朝食の用意が出来ていますので。食堂の方へお願いします」

「分かったわ」

 そう言って、メイドがお辞儀をすると、私が脱いだ色々を持って部屋から出る。

「さっきのは聞かれたかしら。でも、ここからいなくなるんだし関係ないか。ああ、もう! どうしてこうなったのよ!」

『ぐ~』

 どんな状況であれ、お腹は空く。今は少しでも生き延びる可能性を得るためにも気は進まないが、あの父母の元に行くしかないのか。


 部屋を出ると食堂へ向かう。

 意味もなく長いテーブルの端に父母が座り、反対側の離れた椅子に座ると、私の前にはすでにお兄様が座っていた。

「おはようございます。お兄様」

「ああ、オリヴィア。おはよう、今日は森へ行くんだって。帰ったら、どんな魔物を倒したのか話を聞かせて欲しいな」

「分かりました。お兄様に面白い話が出来る様に頑張って来ますわ」

「あまり無理しないでね」

「はい」

 お兄様は、私が森に行く……いや、行かされる理由は知っているのだろうか?

 お父様とは違って、領民の為と色んなことを試みては、お父様に片っ端から反対されているとは聞いている。

 もし、当主がお兄様に代わったら、私も森に行くこともなかったのかな?

「オリヴィア、どうしたの? 朝食が冷めてしまうよ。森に行くんだから、ちゃんと食べておかないと」

「はい、そうですわね」


 ただ、生きるためだけの味もしない朝食を終えると、父母が立ち上がり、私を呼ぶ。

 今更、なんの用があると言うのか、まだなにか言い足りないことでもあると言うのか。そんなことを考えながら、父母の元へと向かう。


 父母の前に来ると、形式上のお父様が話しかけてくる。

「いよいよ、今日だな。民のためにも周辺の魔物を倒すのは、いいことだ。精一杯、頑張ってこい! あの冒険譚に負けないくらいのな」

「あら、あなた。そんなこと言っては、ダメですよ。まずは森の入り口でゆっくり時間を掛けて成長してからでしょ。だから、あなたもあまり張り切って、周りの方にご迷惑を掛けないようにね」

「……はい、私は私の出来る範囲で頑張ります」

「ああ、行ってこい!」

「頑張るのよ」

「はい、では。出立の準備もあるので、これで失礼します」

「ああ」


 父母に断りを入れ、食堂を出ると自室へと向かう。


 食堂に残った父母はと言えば。

「ふぅやっぱりもったいないな~」

「まだ、言いますか! いつか身を滅ぼしますわよ」

「そうは言うがな、中々諦めが付かんのだよ。そうだ、お前がもう一人娘を産めばいいんじゃないか。そうだ! うん、そうしよう!」

「本気で言ってます? もう、あの子を産んだ種はないのですから、同じ子は産まれませんよ。それに産まれたとしても、やはり当主の娘なのですから、手を付けることは出来ませんよ」

「だから、それは私が娘と認めなければいいんだろ?」

「それをされたら、私は不貞を働いたことになります。なので、それは出来ません」

「今更じゃないか」

「ええ、そうですね。ですが、あなたが子を成せないのが原因と言うことをお忘れなく」

「また、そのことを持ち出す」

 朝食を終えた父母も食堂を出て行く。


 そんな父母とは離れた遠くの席で、父母が行っていたやりとりを長男であるチャーリーは、なんとなく聞いていた。

「そうか、私はあの父の子ではないのか。だが、オリヴィアは私の妹であることには違いない。ならば、あの『もったいない』とはどういうことだ? 母にもう一人産ませてなにかをしようとしていた。まさか! いや、まだ妹も幼い。そんなことは……有り得るのか。いや、世には小さい子を好む者がいるとも聞いたことがある。それでか……」

 チャーリーが、いきなりの妹の出立の本当の理由に近付いた頃、メイドが妹オリヴィアの出立の用意が出来たので、見送りに行くかと尋ねてきた。


「分かった、すぐに行くから、オリヴィアには少しだけ待ってもらえるよう伝えてくれるか」

「分かりました」

 食堂からメイドが出て行くのを眺めながら、この先、兄として、どうすれば妹を救えるのかを考えてみる。

「いや、ダメだな。今更だが時間が足りない。妹にはなんとしても、この家に帰ってくるように伝えるしかないか」

 なにやら、チャーリーなりに覚悟を決めると、出立前の妹の元に行く。


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