ウザい情報屋
果物を三つほど食べ終えたら腹は満たされる。
つい先日まで干し肉生活だった胃袋に果物三つは十分すぎるほどだ。
改めて自分の身体を見つめ直すと必要最低限の筋肉しか付いておらずお世辞にも健康体とは程遠い。
戦闘時への影響はまだ確認されていないが、今後の成長に必要な栄養は採れなければならない。
ひとまず今後の食生活の改善を意識し、ベットに置いた荷物を再度肩に掛け宿を出る。
今日中に終わらせたいことがあるのだ。
足を踏み入れた先は【スラム街】。
スラム街は辺境の町にある程度存在する。
実際私が生まれた町にもスラムは蔓延っていた。
結局圧倒的血族主義の村以外の全てにスラムは存在するのだ。
これもまた経済循環の綻びだろう。
薄暗い路地を進むと機敏な嗅覚が異臭を感知し嗚咽を漏らす。
一体何十年と身体を洗っていないのかウジに身体が喰われハエが飛び回っているスラムの住人。
魔術で一時嗅覚を遮断し【情報屋】の巣を探す。
情報屋は大抵バーで客を待つことを基本にしているためバーらしき店を見つければいい。
二十分程度徘徊すると隠れバーと見られる店を発見する。
カランっカランっ
ドアに取り付けられた鐘が鳴る音かそれとも真っ昼間にロックの氷がコップに響く音か…。
どうでもいいと空いている席に腰を落とす。
「ご注文は?」
長年経営しているのか初老だが気配りの良いマスターが声をかける。
しかし実際のこの質問の意図は<合言葉>か<情報屋の指名>。
だがそんなもの知るわけがない私にとって煩わしく適当に
「オレンジジュースを一杯くれ」
と答えるとにこにこと笑顔を作っていたマスターの表情が一瞬崩れた。
横に礼儀もなく腰掛けていた男が近寄る。
どうやら当たったようだ。
「初めまして。小さなお客さん。今日は何のお使いかな?」
一見爽やかな挨拶をする好青年だが中身はスラムで生き残っただけはある中々の腹黒さだ。
あまり関わりたくないタイプの人間だな。
特に演技途中が一番ウザいのだから実質外れでも代わりない気がする。
まぁそれはともかく、本題に入るとするか。
「一ヶ月以内にある傭兵の募集事項について」
「それはまた、物騒なことで」
男は吐いた言葉とは裏腹にニコリと微笑んだ。