【始まりの街】
盗賊の死体を火魔術で消す。
術式陣から燃え上がった火は硬い骨すらも焼け尽くした。
その行程に何ら思うことはない。
盗賊を片付けることでもう一つ、確認があったからだ。
それは前世の一般常識を持つ自分が果たして『人』を殺すことができるのか。
結果は一目瞭然。
一切の躊躇いも躊躇もなく殺した。
少しでも罪悪感など抱いてしまえば今後の予定に大幅な変更が必要となった為この結果は実に行幸と言えた。
森を抜ける前にはフードを深く被り、水魔術の派生で獲得した氷魔術でフード内の体温調節を行う。
町に着くまで数時間掛かり、その間魔物との出会いはなかった。
やはり森の主の毛皮が功を奏したのだろうか。
検問所に並ぶとすぐに順番が回る。
指名手配の確認なども含めて一度はフードを外さなければならないが、ここでもやはり検問官の態度があからさまに変わった。
最初は身長だけで放浪目的の孤児と思われ高圧的な態度だったのにも拘わらずフードを外した途端良い顔で町の案内まで進めたのだから気色の悪い。
たかだか容姿程度でそこまで振り回される検問官に呆れと嘲笑が交じる。
結局検問所を通り過ぎた後もしつこく付きまとわれた為魔術で心臓の拍動を十数秒止めると泡を吹いてその場で失神した。
此方も盗賊同様汚物を撒き散らした為今すぐにでも消却してやりたかったが町の内部であるため理性を保った。
検問所を通る際に身分証明書を提示できず疑似身分証の発行手当て銀貨二十枚を支払わなければなかったのは手痛い出費だったな。
色々とちゃんとした異世界【始まりの町】は悲しい現実に遮られながらも、近場の宿で宿泊予約を済ませる。
前払いの律儀な宿で銀貨五枚を支払い個室に案内される。
冒険者に多く需要のある宿屋は基本相部屋が普通だ。
パーティーを組んでいる冒険者や、まだ見習いの冒険者達が利用するのが大部屋。
一方そこそこ名の知れたパーティーは男女別々で個室を取ったり、Bランク以上のソロ冒険者となってようやく個室を利用てきたりする。
【ノルス】は地球と違い文明な発展がない分、至るところで価格の高騰が激しいのだ。
そんな個室を景気よく一括で支払った子供というのは良くも悪くも注目される。
そんな好奇心と猜疑心の視線を遮断し、部屋へと入った。
森を出て初めてベットに腰を掛けて座り込める。
荷物を肩から外し、宿屋に向かう途中で買った果物を口一杯に頬張ると今まで感じていた喉の乾きが急速に潤っていく。
シャリッ
瑞々しい音がさらに食欲をそそる。
あの森はどういう訳か果物類は全くと言っていいほどなかっため何ヵ月か振りの甘味についつい頬が緩んでしまう。
やはり<食>は人間の大切な娯楽である。