燃ゆる屋敷
ほの暗いランタンの明かりに照らされ垣間見えるのは美しく着飾られた女達。
しかし瞳に光は無く、ガラス玉のように映ったものが反映されるだけ。
「うっわぁ…、なにこれキッショ。これホントに生きてんの?」
ユクルがなんの労りもなく飾られた女の頬を両手で鷲掴む。
その扱いはもはや物そのものであり到底同じ立場に並ぶ存在とは認識していない。
痛みに反応し瞳に恐怖を映した女に興味を捨て、適当に部屋を物色する。
「『人間創造の美』、『人形の生成方法』、『不老不死の紀元』、ねぇ。まぁよくここまで愚図がうまく隠れたよなー」
薄く目尻を細目ながら嘲けり笑うその様は心底馬鹿にしている様子をそのままに表している。
「下種の専門職だろ」
「あれ、なに? 珍しく怒ってんじゃん、楓」
「雑多をただ集めて人形専門家名乗ってる屑が苛つくんだよ」
「あー、な~る。確かにこんな糞みたいな女飾って観賞するとか目ぇ腐ってんな。そういう意味じゃまぁ身の程をわきまえてる下種だろ」
ユクルは部屋一帯を見渡しては質の低さに呆れる。
「てか人間人形なんてしてどうすんの? 動かないし、喋んないし、言ったことも聞いてくれないから普通に殺したくなるんだけど?」
「団長は別だろ」
「は?」
さっきまでおちゃらけた態度を一貫していたユクルが今にも隠し短剣を振りだす勢いで楓に殺気を放つ。
「なに言ってんの? 頭沸いた? 団長人形にするとかそんなクソ勿体ねぇことするわけねぇだろクソが。マジで殺すぞ」
比喩でもなんでもなく、次ユクルが妥当とする返事でなければ躊躇うことなく短剣を握っていただろう。
いくら部下の殺し合いについて厳しい団長とはいえ、結局最期に残った方が優先されるのだから。
「もしの話だ。団長がヤク漬けにでもなったら、閉じ込めるしか選択肢ないだろ」
そんなユクルの考えとは裏腹に、実に魅力的な夢は大いにユクルの関心を引き寄せた。
「へぇ。いいな、それ」
確かに団長が俺だけのものになってもうどこにも飛び出さないと決まっていたら、俺は一日中団長のお世話をしまくるだろう。
お腹が空いたらご飯を食べさせて、お風呂に入れて、服を着替えさせて、それで俺無しで生きられなくなってらもう最高だ。
そんな妄想に想いを馳せていると途端にこの屋敷にある全ての人形達が気色悪く思えてしまう。
団長と同じ人形にたかだかこの程度の女達が同じだとは到底思えない。
必要な書類だけ手に持ちゴミが残らないようにしっかり燃やしていく。
涙で震え、必死に逃げようと踠く女達の抵抗も虚しく、三時間ほど経てば敷地の跡は残骸で焼け焦げていた。
「やりすぎだバカ」
楓が飽きれと諦めの声を漏らす。
それを知るかとばかりにマイペースに団長のいる首都まで足を伸ばすユクル。
この一連で最も被害を受けたのは、間違いなく【人形】達だろう。