9、昼ご飯にいかが?
旅は何事も無く進んでいる。
隊の前方にたまに魔物なのか動物なのかが現れているようなのだが、
索敵持ちのファルコンさんによって街道に来る前に倒されてしまっていた。
なので、私らにはその敵が魔物なのか動物なのかさえ知らない。ただ、何かを倒してきたであろう
ファルコンさんをみて勝手に判断しているだけだ。
なので、もしかしたら、ただ単にトイレが近いだけかもしれないけどね・・・。
そんな感じで順調に進んでいたら、ようやく最後尾の私らにファルコンさんから指示があった。
「よし、オカ研。先行して飯炊きだ。頼むぞ。」と言って。ファルコンさんがそのまま最後尾を担当してくれるそうだ。
「じゃあ、先に言ってますね。行こう!二人とも!!」私は二人に指示を出して小走りで先行して
昼休憩にふさわしい場所を探そうとしていたが、隊が見えなくなった辺りでやっぱり天才デブ蔵がこう言ってきたのだ。
「またトンボ使って既に良い場所を見つけてるっす。あと700m先に小高い丘になってる場所があって
その丘の横辺りが比較的に平らで見通しも良くて良さそうっす!」
さすがだ。デブ蔵はやっぱり凄すぎる。こいつのオカルト想定は宇宙戦争なのだ。私のゾンビパニックの非じゃない。
ゾンビパニックなんてハッキリ言って人類が完全有利なのに対して宇宙戦争は人類にはほぼ勝ち目はないのだ。
普段から宇宙戦争を想定していた男はハッキリ言って異世界転移なんてお茶の子さいさいなのだろうなと
この時に改めて思った。それに引き換え、12000年前に一度、人類は滅んでいると信じているチビ助は
やはり、普段から抗おうとはしていないのだ。確かに12000年前には一度、人類は栄華を誇っていたんだと私も
信じている。ところがそんな超高度な文明は核兵器で一夜にして滅んでしまう。そして、人類はそこから石器時代から
やり直すことになるのだ。その石器時代からのリスタートを想定しているチビ助はデブ蔵のように抗うということを
諦めている節が垣間見える。私もチビ助も実はデブ蔵がいなかったらもうとっくに死んでいたのかもしれない。
私とチビ助がデブ蔵に依存し始めているのがよくわかる。早くレベルを上げて私も戦力になれるように頑張りたいと思う。
「ここっす!ここをキャンプ地とするっす!」と言ってデブ蔵は私らをいとも簡単に案内してくれた。
「それじゃ、焚火して狼煙を上げましょ。」「OKでやんす。おいらが狼煙をあげるでやんす!昼飯は何か
リクエストはあるでやんすか?」
「そうねぇ。ニックさんのとこの従業員たちの人数が結構多いのよねぇ~。数をたくさん作るなら
ハンバーガーで良いんじゃない?レタスも早めに使ってしまいたいしさ。ハンバーガーは私とチビ助で作るわね。
デブ蔵はポテトとコーヒーをお願い。」
「了解っす!ポテト作るっす!」
こうして私らは隊が到着するまでに昼ご飯を作って待っていた。
「おぉ。良い場所を見つけたなぁ~。」と大声で私らに声を掛けてきたホークさん。
続いて「初心者にしちゃ凄いじゃないか。360度見回せるし地面は平らだし。」とイーグルさんも褒めてくれている。
そして、最後尾のファルコンさんも到着して「よし。飯の支度を始めるか!」と私らが思っても無かったことを
言い出したので、私は慌てて「す、すいません。もう勝手に作ってしまってました。本来は皆さん来てから
作り始めるんですか?」
「当たり前だろ。この人数分の食事だぞ。お前らだけでこんな数十分の間に作れるはずが無いだろ?」
「と言いましても、本当にもう作っちゃったんですよね~。あ、ただしパンと付け合わせしか無いので
スープ系が欲しければ今からでもお手伝いしますよ。」と私がファルコンさんたちに説明しているところに
ニックさんがやって来て「どうしたんですか?皆さん。」とファルコンさんに聞いてきた。
「はぁ、たいしたことではないんですが、この新人たちがもう昼飯を作ったとか言いやがるもんですから・・・」
「えっ?あの先行したほんの30分でですか?」
「はい。すいません。私ら今日がデビューでして先行部隊が昼ご飯を作るもんだと勝手に思ってて
簡単なものですが作っちゃってました。ただ、スープ系はありませんので欲しいのであれば今からお手伝いします。」
「簡単なモノといってもたったの30分ですよ。こんな短時間で何が作れるというのですか?」
「まあ、説明するよりも現物を見て判断してください。本当に簡素な食事なんで・・・。」と言って私は
ファルコンさんとニックさんを調理場に案内した。「チビ助。ハンバーガー・ツー!」というと
鉄板の前で控えていたチビ助がパテをジューと焼き始めてくれて約1分。パテをレタスなどが既に添えられていたバンズに
パテを乗せて一丁上がり。専用の紙に包んで二人の前へ差し出した。
そして、その奥からデブ崎が揚げたてのポテトを持ってきたところで私がコーヒー用のやかんから
彼らのカップに注いであげた。「こちらはコーヒーです。ハンバーガーに合いますよ。
砂糖とミルクはセルフでお願いします。」
「な、なんですか?これは・・・」ニックさんがハンバーガーセットが乗せられたトレイを持って固まっていたので、
「ハンバーガーといってパンに肉と野菜を挟んだだけという簡素なモノですけど美味しいので食べてみたください。
ポテトは熱いので気を付けてください。」と私が2人に食べるように促すと2人は包み紙を開けてハンバーガーに
かぶりついた。すると「うーーーーまーーーーいーーーーー!!」とファルコンさんが雄たけびをあげた。
「おい!なんだこの食べ物は!パンに肉を挟んだだけでなんでこんなに旨くなるんだ!?」
とかなり興奮気味のファルコンさん。一口食べたままフリーズしてしまっているニックさん。
私らの奇妙な様子に気が付いたホークさんとイーグルさんがやって来て自分らも食べたいというので
「チビ助!ハンバーガー・ツー!」と言って私らはさっきと同じようにハンバーガーを提供して見せた。
「うーーーーーーーまーーーーーーいーーーーーぞーーーーーーーーー!!」とホークさんもイーグルさん絶賛。
ウォーリーアーズの三人はお替りをオーダーしてきたので私は「スープはどうします?」と一応、聞いてみたのだが、
「いらん。何故かコーヒーが一番合うぞ。この食べ物にはコーヒー以外考えられん!!この付け合わせも旨い!」
とファルコンさんの許しを得たので私らはこの後もウォーリアーズの面々とニックさんの従業員の皆さんのために
ハンバーガーを作り続けたのだった。そして、皆さんのお腹が満たせれたのを確認した後で私ら下っ端も
ようやく昼ご飯タイムにした。そうしたらデブ蔵がパテをダブルにしてアレンジしているのを見つけたホークも
ダブルバーガーが食べたいと騒ぎ出してしまい、結局、ウォーリアーズ三人がダブルバーガーを出せというので
三人分余計に作ることになってしまった。これでこの旅のために持ち込んでいたレタスをこの時点で
使い切ってしまった・・・。もうこの旅でのハンバーガーもサンドイッチも封印されてしまったのだった。
そして、私らの食事も終わり、調理道具の後片付けをしていた時にニックさんが私らに声を掛けてきた。
「いや~。とても美味かったよ。正直、もっと簡素なモノかと思ってたんだけど、あのハンバーガーは間違いなく
売れるよ。君たちさえ良ければ私が出資するから王都でハンバーガー屋を開業しないかね?
三人の連携も見事だったよ。あれは以前にどこかのお店で働いていた動きだね。そこでもこのハンバーガーを出していたのかい?」
「はい。私ら王都に来る前は夏と冬にハンバーガー屋さんで働いてたんですよ。
この料理は私らの田舎じゃ皆が食べたことがあるくらいメジャーなんです。」
「そうなのかい。やっぱり世の中は広いんだねぇ。私も行商人としてはまだまだだね。ハンバーガーなんて
初めてだったよ。それで、王都での開業の件はどうだい?」
「すいません。それはお断りいたします。私らは冒険者として生きていこうと誓って王都にやって来たんです。
あ、でも、ニックさんが私ら抜きでも開業したいというのでしたら開業までは是非、協力させてください。
私らも王都にバーガーチェーンがいっぱいあった方が嬉しいですし。もし開業したら毎日、通いますよ!」
「ん?そのバーガーチェーンってのはなんだい?」
「えっと、ハンバーガー屋さんって街に一軒だけあっても駄目なんですよ。今は20人分だったんで
私ら3人でも問題なく提供できましたけど、王都クラスの都市にバーガー屋が一軒だけ開業すると
店は大混乱になるんです。連日、大行列が出来て、しかもその行列は一年くらい毎日続くんです。
私の田舎でも実際にそんなことが起こったんですよね。なので、開業するならその混乱を避けるために
何店舗かをほぼ同時にオープンさせた方が良いんです。それから、このバンズなんかも一軒だけパン屋さんを
買収もしくは業務提携してバンズただけを大量に作ってもらって王都内のチェーン店に卸してもらうわけです。
そうすると、店舗では毎日わざわざパンを焼く必要がなくなり、店での調理は今、見て頂いたとおりのように
パテを焼くだけという作業になります。1人の客に対して5分もかけないと一日に入場者数が500人にも
なるはずです。つまり、それだけ売値の単価も下げられることになります。一見すると薄利多売に見えますが、
さっきのホークさんを見てもらったようにダブルバーガーなどの高級なモノも一品メニューに加えるだけで
客単価はグンと上がります。各店舗ごとにオリジナルメニューを置くのも悪くありません。」
と私がマックのバイトで得た知識をひけらかしているとニックさんは何故か号泣し始めていた。
「ど、とうしたんですか?ニックさん。」「わ、私は今、凄い話を聞いてるんだ。その自覚があるんだよ。
商人として今聞いた話がどれだけ凄いことなのかってわかるんだ。そこまでの知識と経験があるのに君たちは
冒険者になると言う・・・。きっとその決断には深い事情があるのだろうけど、私はあえてそれを聞かない。
頑張れ!君たち。私は心から君たちの成功を祈っているよ。次回の護衛も絶対に君たちを指定する。約束だ!」
と泣きながら従業員たちの方へ戻っていってしまった。
「部長、こんなに日本チックな文化なのに実はフランチャイズとかまだ未知の知恵だったみたいっすね。
こりゃ、部長が未来人みたいなことをしちゃいましたね。ジョン・タイターとかもひょっとしたら、
予言じゃなくて、ただ普通に未来の常識を語っていただけなのかも知れませんね・・・。」
「おいらは今、未来人との遭遇場面を見ていたでやんすね!これは貴重でやんす。」
などと言い私の事を二人がからかって笑っていた。
そして、たっぷりと昼休憩は終わり、私らは再び旅を再開したのだった。