8、レベルが上がった!
私らが初のクエストを達成したから一週間が経とうとしていた。
本日も薬草と毒消し草を摘んでおります。もはや手慣れたもんで毒消し草も当日で終了することが出来ていた。
当然、毎日、最短記録だと受付嬢が騒いでたけど、私らは手を抜くことなく毎日、摘み続けていた。
そして、一週間。ついにデブ蔵のレベルが上がったのだった。
「やったっす!部長。僕のレベルが2になったっす!次は0/200っす。スライムを200倒せば良いっす。」
「ざっと倍になるのね。このまま倍々で進めば楽なんだけどね。たぶん、レベル9以降からがムリゲーに
なるパターンって多いのよね。」
「えっと、肝心のステータス値なんすけど、力が230から240。素早さが50から80。防御力が120から200って感じで
上がり方がバラバラっすね。僕ってやっぱ防御特化なんすかね。それともただ単にスライムしか倒してないんで
力とか一切使ってなかったから10しか上がってないんすかね? あと、一つだけ嬉しいことがありますっす!」
「もう知ってるわよ。私を舐めないでよ。スキルに体術が増えてる事でしょ?」
「そうっす!体術が増えたっす。これは当然、今日まで一度も武器を使わなかったからっすよね?」
「でしょうね。あのゲームの百裂張り手のキャラって体術のレベルっていくつなのかしらね?
早く私も百裂張り手が見たくなってきたわ!頑張って頂戴!!」
と私が言うとデブ蔵は嬉しそうに張り手の素振りを繰り返していた。
「先輩、そういえば、土魔法ってもう出せるでやんすか?」と突然、チビ助がデブ蔵に尋ねた。
「えっと、一応、石つぶてくらいは発射できるようにはなったっすよ。」
「じゃあ、おいらにそれをラーニングさせて欲しいでやんす!おいらも早く一人で魔物を倒したいでやんすよ。
今はまだ部長の謎の文字化け浄化魔法しか使えないでやんすからアンデッドしか倒せないでやんす。」
「なるほどっす。そうっすね。部長。良いっすか?チビ助に土魔法をラーニングさせても。」
「いいわね。私もラーニングを見てみたいわ。」
「じゃあ、やるっすよ。見ててくださいっす。」と言ってデブ蔵は手のひらを誰もいない方向へ向けて
土魔法を放とうとした瞬間にチビ助が焦った様子で「ちょっと待つでやんす!!」と言ってデブ蔵の
手を掴んで止めに入った。「どうしたのよ。チビ助。」突然の行動で驚いた私はチビ助に言った。
「せ、先輩。技名を先に聞いておいて良いでやんすか?部長みたいな長い名前は却下でやんすよ。
できれば三文字以内にしてほしいでやんす。」
「あぁ。なるほどっす。わかりました。この技名は小石にするっす!じゃあ、撃ちますよ。」
と言ってデブ蔵は魔法を放とうとして右手をかざしたのを今度は私がデブ蔵の腕をつかみそれを阻止した。
「アンタ。小石ってセンスはどうなのよ。今後、チビ助がその技を使うたびに"小石""小石"って叫ぶのよ?
ダサすぎでしょ。必殺技なんだからもっとカッコいいネーミングにしなさいよ!例えば、"蒼穹の彼方からの布石"
とかどうよ!」
「部長。却下でやんす。三文字以内って言ってるでやんす。"蒼穹の彼方からの布石"は"小石"よりも
恥ずかしいでやんす! 撃つたびに顔が真っ赤っかになるでやんす!」
「チビ助。アンタも馬鹿ね。今後、私たちの物語が映画化とかゲーム化になったとしたらどうかしら?
"小石"じゃ編集者の人にも絶対に却下されるわよ。ゲーム化になってもスキル欄に"小石"なんて表示はされないし
アンタの声役をやる声優さんにも失礼になるじゃないの!アンタもデブ蔵も考えが甘すぎなのよ。」
「なるほどっす。一理あるっすね。小石じゃ子供人気は絶対に出ないっすもんね。」
「でしょ?いいわ。今後は技名は私が考えてあげるから皆、新スキルで魔法系を覚えた際は必ず私に相談しなさい。
映画化とゲーム化を加味して私が考えてあげるから。とりあえず、今回のデブ蔵の小石を飛ばす魔法は
"蒼穹の彼方からの布石"ってことで良いわね!!」
「は、はいでやんす・・・。」「はいっす。それでは撃ちます。"蒼穹の彼方からの布石!"」
デブ蔵の手からはピンポン玉大の小石が勢い良く発射された。まるで弾丸だ。無音で発射される弾丸だった。
デブ蔵もこんな強力な技があるのに百裂張り手の為だけに延々とスライムを靴底で踏み続けていたなんて
宝の持ち腐れな奴だわ。
「どうっすか?ラーニングできたっすか?」「出来なかったでやんす。もう一回、お願いするでやんす。」
「え~~。もう一回っすか~。恥ずかしいけど仕方ないっすね。"蒼穹の彼方からの布石!"」
「あ、やっぱり駄目みたいでやんす。もう一回でやんす。」
「アンタたちちょっと待って。デブ蔵、威力弱めでも撃てる?」
「えっ?それはもちろんできますけど、その低い威力のモノをラーニングしちゃいませんかね?」
「良いのよ。それでも。今はラーニングの確率を調べたいから次はチビ助に当たるように撃ってみてよ。
もちろん、チビ助が死なないようにね。一応、ポーションもあるから大丈夫よ。」
「えっ!?おいらに撃つでやんすか!!怖いでやんす。けど、おいらも魔法ダメージカットってスキルを試して
見たいとは思っていたでやんす。先輩を信じてるんでやんす。先輩なら大丈夫でやんす。さあ、来いでやんす。」
と言ってチビ助は盾を構えてデブ崎の前に立った。
「じゃあ、撃つっすよ。石自体も柔くするっす。スピードも遅めに撃つっす。行きますっす。"蒼穹の彼方からの布石!"」
デフ像が放った小石は見事にチビ助の構えた盾に命中して粉々に砕け散った。
「あ!!ラーニングしたでやんす!"蒼穹の彼方の布石"をラーニングして部長の文字化け技とどっちをセットするのかの
選択画面になってるでやんす。もちろん"蒼穹の彼方の布石"にするでやんす。」
「やっぱりね。見て覚えるパターンだと運次第ってことみたいね。私の浄化魔法みたいに一回で覚えることもあれば
今みたいにデブ崎が何度も撃っても覚えられないこともあると・・・。でも、自身が技を食らえば今のところ
必ず覚えられるわけだ。そのくせリンの恐慌はラーニングできなかったところを見ると相性なんかも
あるのかもね。もしくは恐慌を覚えるにはまだレベル不足だったとか、元々生者には覚えられないとか。
とにかく、チビ助の検証を続けましょう。チビ助。実際に撃ってみてよ。全開でね。」
「はいでやんす!加減無しの全開で撃ちます。"蒼穹の彼方からの布石ぃぃ!!"でやんすぅぅぅ!!」
そう言ってチビ助は技を放って見せた。すると、ちゃんと最初にデブ蔵が放ったような無音の弾丸が発射された。
「やったでやんす!やったでやんす!!これでおいらも戦えるでやんす!!」
「おめでとう。チビ助。MPはどお?」「えっと、3減ってるでやんす!」「デブ崎は一回でどれくらい減るの?」
「僕は2減りますので燃費はものまね技の方が悪いみたいっすね。」「あと、ダメージカットのせいか先輩が
手加減したからなのかは謎でやんすがHPは全く減らなかったでやんす。
さっきは盾にしか当たってなかったからでやんすかね?」
「そうね。直接、身体に当たってなかったからかもしれないし、今の私たちのレベルじゃダメージカットを
無視してダメージを与えることが出来ないだけかもしれないわね。とりあえず、これでようやくチビ助も
戦闘員として数に入れることが出来るわ。来週からそろそろ荷物運びってやつを始めてみる?」
「そうっすね。このあたりじゃスライムしか出ませんからね。チビ助の技の出番が無さ過ぎるっす。」
「そうでやんすね。荷物持ちして高レベルな魔物を倒してレベルを上げたいでやんす。」
ということでこの日の薬草採取を終えてからギルドに戻って納品した後、受付嬢に相談してみた。
すると、荷物持ちの募集はギルド内にある掲示板で各チームから募集が出ているということだったので
私らは今、掲示板の前で吟味していたのだった。
「う~ん。正直、どのチームが良いのかがよくわからないわね。賃金もバラバラ過ぎるのよね。
この★3の銀板の白い結晶ってとこなんてダンジョンの往復の荷物持ちってだけで日当1万もくれるのに
この★3の鬼ってとこだとダンジョンの往復の荷物持ちで日当6000しかくれないのよ。この差は何なのかしらね?」
などと私らが雁首揃えて頭を悩ませていると、そこに偶然、あの時のモヒカン大男が現れてくれた。
「あっ!!ホークさん!!すいません。ちょっと教えて欲しいことがあるんですがよろしいですか?」と私が
声を掛けるとちょうど受付カウンターに納品を済ませていたホークさんが私らの元へやってきてくれた。
「こないだのガキんちょじゃねーか。まだ生きてやがったか。それは良かった。それで何を聞きてーんだ?」
「実はですね。そろそろ私らも荷物持ちデビューしようと思ってまして、このチームとこのチーム、同じ内容なのに
値段の差が激しすぎてどうしてなのかがさっぱりわからなくてどのチームに申し込むべきなのかを悩んでました。」
「そうか、嬢ちゃんたちはまだ荷物運びをしてなかったのか。それなら、わかんねーよな。よし、教えてやるか。
ただし、俺様は高いぞ。ガハハハ。いいか、この銀板が高い理由はダンジョンでの戦利品が多くなる自信がからだな。
この銀板ってチームは20階層まで潜れる古参のベテランチームなんだ。つまり、戦利品も多い。
それだけ帰り道の荷物も多くなる。嬢ちゃんたちみたいに三人ぽっちじゃ足りないんだよ。こいつらは
普段から最低でも荷物持ちだけで10人以上も連れて歩いてるんだ。逆にこの鬼ってのは実力はあるんだが
アイテム目的でダンジョンに潜ってるわけじゃない。各々のレベル上げのために潜ってるんだ。
だから、極端に戦利品も少ないし、仮に大量のドロップ品を獲得できたとしても現場で買い取り屋なんかに
売っぱらっちまうんだよ。だから、行も帰りもハッキリ言って荷物は少ない。食料と野営の荷物程度しかないんだよ。」
「なるほど。よくわかりました。ありがとうございました。これ教えて頂いたお礼です。」と言って私は
職員室から盗んできたタバコを一箱手渡した。
「おいおい。さっきの高いぞは冗談だぜ。こんなことでこんな高級そうなものは受け取れねーよ。」と言って
突き返されてしまった。
「それよりも嬢ちゃんたち。ウチのチームの荷物持ちをしてみねーか?」
「ホークさんのチーム?」
「あぁ。そうだ。ほら、そこのウォーリアーズってチームの募集がウチだ。」と言われてそのチームの募集内容を
見てみた。
「へ~。隣町までの商人の護衛の荷物持ちですか?日当は6000で往復約3週間。良いですね!この街道って
危険な魔物って出るんですか?」
「まあ。嬢ちゃんたちにとっては危険な魔物は出るけどよ。魔物退治は俺たちが担当だ。嬢ちゃんたちの主な仕事は
昼休憩と野営の準備だな。昼飯時と晩飯時に隊から先行してもらっていい場所を確保してもらって火を起こして
飯炊きの準備だな。食材は道中で狩る動物ってことになる。」
私が部員たちの顔を伺うと2人とも賛成のような顔をしていたので私はホークさんに荷物持ちをお願いした。
出発は明後日の朝、日の出とともに北門からの出発になるそうで当日の朝、北門で現地集合となった。
そして、当日の朝。
私らは誰よりも早く北門でホークさんたちが来るのを待っていた。
「リン。絶対に姿を出したり、喋ったりしちゃ駄目よ。おとなしくデブ蔵の肩に乗ってて頂戴。」
「わかってるニャ。この吾輩が人間どもに見つかるはずがないニャ。」
「ホークさんたちの戦闘の時もデバフとか必要ないからね。下手に貴女が敵にデバフ攻撃しちゃうと
きっとホークさんたちなら気づくと思うのよ。よっぽどのピンチになるまでは貴方は我慢よ。」
と私はリンドハーグに最後の警告を話していた。ホークさんたちが合流してしまうと、ここから数日間は
まともにリンドバーグとは会話が出来なくなるからだ。唯一、昼と夕に先行させてもらえるようなので
その時までは私たちもリンドバーグの事は一旦忘れることにした。
「お、早いじゃないか。新人。」と言いながらホークさんと仲間たちがやってきた。
「はじめまして。私はオカ研のリーダーでアキといいます。こっちの大男がデブ蔵。こっちの小男がチビ助手です。
今日からしばらくの間、お世話になります。」
「おう!こっちもよろしくな!こっちの青髪がイーグルであっちの金髪がファルコンだ。まあ、気楽に行こうぜ。」
と私らにホークさんの仲間を紹介してくれた。他の仲間の皆さんもホークさん同様にモヒカン頭のマッチョだった。
ここが世紀末だったなら絶対に雑魚キャラ確定なんだけどね。
(ホーク。職業・戦士Lv.5。スキル・斧術)
(イーグル。職業・戦士LV.5。スキル・剣術)
(ファルコン。職業・盗賊LV.7。スキル・短剣術・索敵・火魔法)
と私の鑑定には見えている。特にファルコンさんは抜きに出て強いのがわかる。もしかしたら、ファルコンさんなら
南斗五車星の雑魚になら勝てるのかもしれない。
「嬢ちゃんたちはこれが初めての荷物持ちだって?」私がジロジロと見つめていたからなのかファルコンさんに
声を掛けられてしまった。「はい。今日が初めてです。冒険者になったのも10日ほど前です。」
「そうか。まあ頑張れよ。今回の旅次第では次回も雇ってやるからよ。ところで嬢ちゃんは弓が使えるのかい?」
「えっと実はまだ未使用でして・・・。とりあえず、買ってみた的な?」
「そうか。そうだよな。まだ10日じゃそんなもんか。ま、気にするな。ガハハハ!」
そうなのだ。実は私はいまだにスライムすら倒したことが無いのだ。ただし、これには理由があって
今のところ私とチビ助はデブ蔵に依存して経験値を貯めている。デブ蔵は早々とスキルを獲得できたのだが
それは実際に彼が素手でスライムを倒してきたからのスキル獲得であるため、実はスキル獲得の検証になっていないのだ。
つまり、この先、私が一度も弓を使うことなく、レベルアップと同時に弓術のスキルが獲得できた時に
スキル獲得の検証実験が成功したことになるのだ。今のところ私は背中には弓と矢を腰には短剣を装備している。
攻撃手段は今のところ長い名前の浄化魔法とレーザービームのような光魔法。(まだ未使用。)
この旅中に必要とあらばビームを放つ覚悟はしている。
一応、チビ助も"小石"(名前が長いので小石と省略)で魔物を狩るつもりでいるし、もしも"小石"よりも魅力的な
スキルを放つ魔物が現れたら積極的にラーニングを試すとも言っていた。
オカ研としてもチビ助には是非、広範囲系の攻撃スキルを身に着けていただきたい。
"小石"はチビ助じゃなくてもデブ蔵でも撃てるわけだし・・・。
そうこうしているうちにようやく今回の依頼人が登場した。
「皆さん、早いですね。助かります。」そう言って我々に低姿勢で挨拶してきたのが
依頼人である商人のニックさんだった。(ニック。商人LV.1。スキル・演算)
私らは簡単に自己紹介を終え、いよいよ旅がスタートした。実にこの世界に来て初めての旅だ。冒険だ!
私らはファルコンさんの指示通りに馬車の最後尾から隊の後をテクテクと着いて行くのであった。