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7、チュートリアルはスキップする派?

私はゲームのチュートリアルとか説明書とか見るのが嫌い。


だって、そんなのはやってくうちに覚えればいいじゃん。って日本にいたころは考えてた。


ところが、実際、こうして冒険の旅に出なくちゃいけないとなると必死で冒険者ギルドの受付嬢に


質問しまくっている自分がいる。逆に普段はチュートリアルをスキップしない慎重派のデブ蔵が


私の質問タイムをカットして、もう出発しようと急かせてきてる。


「じゃあ、最後の質問ね。斬撃が効きにくいってスライムってどうやれば倒せるのかしら?」


「え、えっと、べちゃと潰すだけなんで木の棒なんかでも簡単に倒せますよ・・・」とかなり、


面倒くさそうに受付嬢が引きつった笑顔で答えてくれていた。


と、ここまてでわかったこと。


薬草採取のクエストとは、王都の南門からまっすぐ南下すると見えてくる湖付近に群生している


薬草及び毒消し草の採取のことである。


この湖は国定公園として市民のリゾート地的な場所で危険な魔物はいないという。魔物がいたとしても


スライム程度しか出ないらしい。野生動物も大きいモノでも鹿程度。危険な動物としては毒蛇くらいだという。


なので、このクエストを受ける際は毒消し薬の持参が推奨だということだったので、


私らも毒消し薬を5個とポーション(小)を5個買っておいた。毒消しは1個500Gもする。ポーション(小)は300円で


HPを20~30ほど回復できるそうだ。私とチビ助ならこれ一本で完全回復しちゃうみたい。


そう考えるとデブ蔵の桁違いのHPがどれほどすごいことなのかが良くわかるわ。


そういえば、日本にいたときから実は喧嘩で負けたことが無いって言ってたしね。


見た目がヲタクでデブなデブ蔵は小さなころからからかわれたり絡まれたりしていたらしいんだけど、


相手がどんなに強面のヤンキー相手でも100kgを超えているデブ蔵に勝てる相手はいなかったそうだ。


まあ、格闘技については詳しくないけど、体重差っていうのは実はかなりのアドバンテージみたい。


デブ蔵曰く自分よりも軽い奴から木刀で殴られても痛いというだけでダメージは殆どないそうだ。


そんな100kg越えの体重がまさかこんなとこで役に立つとは私でさえ考えなかったよ。


実はそういったことを加味してギルド内にいる冒険者たちを見てみると皆、軽く90kgを超えてる人がやたらと多いのが


わかる。盗賊っぽい軽量系の戦士でも80kgくらいはありそうだし、何だったら僧侶っぽい回復薬の人でも80kgくらい


ある人ばかりだった。あきらかに私とチビ助だけが浮いている。まるで社会科見学に来た小学生だ。


などと考えていると、冒険者ギルドでのテンプレが起こってしまった。


「おいおいおい。そこのガキんちょ。待てや。まさかこんなガキ3人で依頼を受けるわけねーよな!」と


世紀末覇者軍にいそうなモヒカン頭で超バカそうなマッチョな大男が絡んできた。


「うっす!この3人で今から薬草採取行くっす。」と何一つビビることなくデブ蔵が答えると


「おいおいおい。湖って言っても危険がねーわけじゃねーんだぞ!ほら、これ安いドロップ品で悪いんだけどよ。


お前らにやるよ。」と言って短剣をデブ蔵に手渡してくれた。めっちゃヤバい奴かと思ったら、普通に私らの事を


心配してくれていたベテランの冒険者だったみたい。(ホーク。職業・戦士Lv.5。スキル・斧術)


「ありがとうございます。私はアキ。この大男がデブ蔵。こっちの小男がチビ助。今後ともよろしくお願いします。」


と私が笑顔で挨拶するとホークさんも「俺はホークだ。★3だ。困ったことがあれば何でも言ってこい。」


と笑顔で答えてくれた。そして、私らはいよいよギルドを出て南門へ歩き出したのだった。



その道中でデブ蔵から先ほどホークさんから貰った短剣を私に寄こしてきた。


「部長が短剣を使って欲しいっす。昨日も話したように僕はしばらくは素手で良いっす。」


というのも、昨日、私らは武器と防具を買いに行ってきたのだった。


★1オカ研パーティーとしての役割について4人で十分話し合った。


回復担当の私。タンク兼メインアタッカーのデブ蔵。広範囲攻撃担当のチビ助。この3人で対処できないほどの強敵が


現れたとき用の切り札としてのかく乱担当のリンドバーグとなり、3人の武装を整えに行ったわけだ。


大金が入るのが2週間後だったので、3人ともまずは防具。一番安上がりな革の胸当てと革の籠手、革の小さい盾を


買った。次に武器。私は弓を選択。デブ蔵は投げ技や締め技も得意ということだったので両手をフリーにしておきたい


と言って素手を希望した。本人は張り手を鍛え上げていつか百裂張り手が出来るようになりたいらしい。


あとはチビ助だったんだけど、チビ助もおそらくは魔法攻撃が主体となるはずだからと言って武器は選ばなかった。


武器屋からは杖を勧められてハリーポッターが持っているような小さな杖を買っていた。


どうやら攻撃力が少しだけ上がるようだ。(古代樹の杖・魔法攻撃力上昇)


どのパーティーにも大きな剣を持ったメインアタッカーっぽい人が必ずいるのに我がオカ研にはそれが無い。


なんか見栄えがとても悪すぎると思うのだが仕方がない。百裂張り手を目指してるデブ蔵に無理やりカッコいい大剣を


背負わせても迷惑なだけだろうし、チビ助に至っては大剣を背負っても動くことさえ出来なくなるだろう。


チビ助とほとんど変わらないステータスの私だって同じだ。今、貰った短剣ですら腰に装備しただけでずっしりと


重い。本当は南門から湖まで徒歩2時間と聞いていたので歩こうとも考えていたが、腰の短剣が重すぎるので


乗合馬車で移動することに決めた。馬車なら40分程度で着くらしい。運賃も一人500Gと割と安い。


田舎街のバス賃くらいかな。一応、帰りも日が暮れるまで1時間に1本程度の間隔で運行している。


ただ、今日の私らは日帰りできるのかどうかがわからないため、帰りの事はあまり考えてはいない。


薬草採取には実はノルマがあるのだ。ギルドから指定の袋が渡されていて、その袋がパンパンになって


初めてギルドに卸すことができる。大きさはレジ袋の一番大きいサイズくらい。私らは薬草分と毒消し草分と


2つの袋を貰ってきた。とりあえず、今日はこの袋がいっぱいになるまでは帰らないつもりだ。


今から向かう湖には宿もあるし、冒険者なら無料で使える避難用のバンガローが森の中にいくつか点在しているという。


私らは日が暮れるまでに採取が終わらなければそこで夜を明かすつもりだ。


「どうです?部長。道中の道に薬草はありそうっすか?」と馬車に揺られながらデブ蔵が馬車から外をぼ~と眺めていた


私に尋ねてきた。「う~ん。やっぱ無いわ。きっと街道沿いの薬草は取りつくされちゃってもう生えてこないのかもね。


日本でも山菜って捕りつくすと翌年から生えてこなくなるらしいからね。」


などと喋っているうちに湖が見えてきた。


「お!湖が見えてきたでやんすよ!結構、綺麗でやんすよ!」と言っているチビ助の視線を追いかけると


本当に美しい湖が見えてきた。かなり、大きい湖だった。もしかしたら琵琶湖くらいあるのかもしれない。


向こう岸が遥か彼方に見える。この広大な湖全体が国定公園となっているそうだ。


そして、肝心の薬草もこの湖をぐるりと取り込んでいる森の中に群生しているそうだ。


馬車が湖の宿場街に到着したので私らは早速、森の中に入って行った。


すると、私の鑑定には無数の薬草がいたるところに表示されていた。


私はその中から1つだけ摘み取って「これが薬草よ。」と言って二人に見せてあげた。


その後、しばらく3人でその場にあった薬草をすべて摘んだ。私の鑑定にも雑草としか表示されなくなっていた。


「よし、ここにはもう無いわ。次の群生地を探しましょう。」と言って私らは森の奥へと歩き出した。


すると、早速、私らの前にスライムが3匹も現れてしまった。またもや私とチビ助はビビってしまい悲鳴を上げていると


素早くデブ蔵が3匹とも足で踏みつけてアッサリと倒してしまったのだった。


「あ!部長!経験値が入ったすよ!レベルは上がってませんけどね。ちなみにスライム一匹で得られるのは1っす。


なので、今は3/100っすね。スライム100匹倒すとレベルが上がるっすね!」


とデブ蔵が言ってきたのとほぼ同時に私とチビ助も自信のステータスを確認していた。


「あら?私にも1だけ経験値が入ってるわよ。」「おいらも入ってるでやんす。」「吾輩にも1だけ入ってるニャ。」


どうやらパーティー内では経験値が共有されているようだ。倒した本人には3が入り、何もしなくてもパーティー内なら


1/3の経験値が入ってくるらしい。これはありがたい。なぜなら、ウチのパーティーはチビ助を温存したい。


できればチビ助には最前列には立ってほしくないのだ。常に後列にいてチビ助が死ぬことのないようにしたいと


考えているからだ。これが経験値が倒した人にだけ入るようなシステムだった場合、チビ助のレベル上げを


チビ助自信がしなくてはならなくなる。それがウチのネックだったのだが経験値共有システムのおかげで


チビ助を温存させることが可能になったわけだ。


あとはチビ助のラーニング相手も早急に探さないとね。今の彼のものまね技は浄化魔法だからね。


私が浄化を撃てる以上、チビ助の浄化は必要ないわ。


「経験値共有システムがわかったのはデカいわね。とりあえず、今後はデブ蔵がガンガン敵を倒して良いからね。


HPが二桁の私とチビ助はいないものと考えてちょうだい。リンもお願いね。デブ蔵が1人でキツそうなら


バンバン敵を倒して良いからね。」


「はいっす!」「了解だニャ!」これ以降、二人は私の指示通りにバンバンスライムを狩りまくってくれた。


そして、薬草の方は夕方までには袋がパンパンになるほどの採取を終えることができた。


「あとは毒消し草だけね。まだこの森に入って一度も見かけてないわ。きっと別の場所にあるのよね。」


「今日はスライムが活発な場所だったんで、明日は逆にスライムの出ないとこを探すっす。


もしかしたら、スライムたちが毒消し草を食べてるのかもっす。」


「なるほど。そうかもしれないわね。明日はそれを踏まえて行動しましょう。それじゃ、日が暮れる前に


バンガローを探しましょうか?ここに来る途中にも一つあったわよね?そこまで戻る?」


「いえ。部長。この先、500mほど歩くとバンガローがありますよ。そっちの方が近いっす!」


「は?何でアンタがそんなことを知ってるのよ!」


「あ、言うのを忘れてたっすね。実は今、トンボを召喚中でして我々の辺りを空から見てたっす。


どうやら召喚した生物とは視覚とか聴覚が共有できるみたいっす。んで、そのトンボがすでにバンガローを


見つけてくれてたっす。」


「アンタ・・・。その能力を使えば女風呂とか覗き放題じゃないのよ!変態!キモっ!!」


「せ、先輩・・・。おいらも見損なったでやんす!そんな良い能力はおいらが獲得したかったでやんすよ!」


「す、すいませんっす。だから言いたくなかったんすよ・・・。でも安心してくださいっす!部長の入浴シーンなんて


間違っても覗かないっす! それじゃ二人とも僕に着いてきてくださいっす!バンガローまで案内するっす。」


とさらっと何か失礼なことを言いつつもデブ蔵は私らをバンガローまで案内してくれて


そこで私らは夜を明かしたのだった。


そして、翌朝、昨日のデブ蔵の意見を取り入れてスライムの少ない場所を重点的に探すことにした。


すると、森の中に小高い岩山が見えてきた。その岩山を登りきるとそこは草原となっていて


薬草と毒消し草が群生していたので、私はその中から毒消し草を一つだけ摘み取り、二人にそれを手渡した。


「やっぱりデブ蔵のスライムの餌説は正解かもね。これが毒消し草よ。この辺りにたくさん生えてるわ。


2人ともジャンジャン摘んじゃって!」と私が指示を出すと2人は毒消し草を摘み始めた。


どうやら、ほぼ垂直な岩の斜面をスライムが昇ることが出来ないようで、この草原にはスライムの姿が


見当たらない。ギルドで教えてもらった毒蛇しか出なかった。毒蛇には誰も噛まれることなく安全に


毒消し草の採取を終えので、まだ夕暮れ前だったので乗合馬車の停留所まで急ぎ王都行の馬車に飛び乗った。


「案外、薬草採取って楽勝だったわね。」帰りの馬車の中で私が3人に呟いた。すると、


「いえ。部長の鑑定のおかげっすよ。それが無かったら実際は大変だと思うっす。僕らは部長がいるから


あるなしがハッキリわかるけど、普通のパーティーなら無いとこでも延々と探しているんすよ。


あるなしがわかってるって言うのは、かなりのアドバンテージっす。」


「そうでやんす。そうでやんすよ!」


とデブ蔵もチビ助も私の鑑定を褒めてくれていた。そして、その日のうちにギルドに薬草を納めに行くと


受付嬢からもかなり驚かれてしまった。


「えっ?オカ研さんは確か昨日、出発したばかりですよね? もう終わったんですか!?


しかも、毒消し草まで!?ありえないですよ!こんな1泊2日で帰ってきたチームなんてありませんよ。


当ギルドの最短記録です!とりあえず、商品をすべて検品させてください。これがもし、全て薬草と


毒消し草だった場合は間違いなく最短記録になりますよ!!」と興奮気味に2つの袋を持って


事務所に駆け込んでいった。検品にはそれなりに時間がかかるということなんで私らはギルド内に併設されている


酒場で待つことにした。時刻は19時を過ぎたくらいなので大人の冒険者たちは酒を飲んでほろ酔いになっていた。


日本では未成年だった私らもこの世界では成人。(この国では14歳で成人らしい。)


私は生まれて初めてビールを飲んでみることにした。デブ蔵もチビ助も私に付き合ってビールを頼んでいた。


そして、すぐにビールが運ばれてきて私らは初めてのクエスト達成に乾杯をした。


はじめて飲むビールは苦すぎてお世辞にも美味しいとは思わなかったが、ビールで乾杯と言う行為そのものが


何故か大人になった感じがしてとてもクセになりそうな予感がした。


私と同様にチビ助もあまり美味しそうな顔はしていない。唯一、デブ蔵だけはとても美味しそうにごくごくと


ビールのCMのような音を出しながら一気に飲み干してお替りを注文していた。


私とチビ助だけは二杯目はオレンジジュースを頼んだ。


つまみとしてデブ蔵が頼んでいたピザを三人でムシャムシャと食べているところに先ほどの受付嬢が


やって来て検品が終わったので受付にて報酬を支払うと言ってきた。私らは食べかけのピザを全て食べて終えてから


受付カウンターに赴き報酬を受け取った。


オカ研の初クエストの賃金はというと、薬草が2万G。毒消し草が4万G。合わせて6万Gにもなったのだった。


初心者講習では薬草採取では生活が成り立たないと聞いていたのであまり期待はしていなかったのだが、


正直、これなら十分、食っていけそうな額だ。これはもちろん鑑定と言うチートがあってこそだ。


受付嬢も言っていたように他のチームでは一泊で終えるなんてのは不可能なのだろう。ましてや、薬草だけなら


私らは当日の昼には終わっていた。つまり、薬草だけでも私らなら当日3袋が可能なわけで、


一日6万の安定収入を得られるということになる。ただ、こんなちんけなクエストばかりを受けていたんじゃ


私らのレベルが上がらないので、次の冬の昇格には★2にはなっておきたい。


とりあえずは、今週いっぱいは薬草採取をみっちりやってみて、まずは色々とこの世界の常識について


学んでいこうと思う。レベルの上げ方やスキルの習得の仕方などはリンもよく知らないと言っていた。


そもそもリンはステータス画面を見ることが出来るようになったのは化け猫になってからだと言っていた。


きっと、このステータス画面は人間と一部の魔物にしか見えないんだと思う。


野生の動物たちには見えていないのだと思う。


色々と考え込むと夜眠れなくなるので、今の私らはとにかくチュートリアルを終わらせるために


地道に初心者冒険者生活を全うしよう。






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