5、初めての死闘
無事に冒険者になった私らは自宅に戻って宴の準備に取り掛かっていた。
「じゃあ、今夜はちゃんこ鍋で良いんすね。それじゃ、僕、厨房で作ってますんでどちらかが米をお願いしますっす。」
と言いながらデブ蔵は酒場の奥にある厨房へと消えていった。
なので残された私とチビ助で米を炊かなくちゃならなくなってしまった。
「部長、久々でやんすね。直火で米を炊くの。」と不安そうにチビ助が私の様子を伺っている。
「そ、そうね。去年のゾンビ合宿以来よね。さすがに今、買ってきたこのお米って無洗米じゃないわよね。
米を研ぐとこから始めなきゃダメか~。」と無洗米に慣れている私らにとってはこんな些細なことが
面倒くさかったりする。ただ、この世界の住宅事情はというと実は上水道が完備されているのだ。
たぶん、何度も日本人を拉致したことで上水道の知識を得たんだと思う。ちなみにこの物件はトイレも水洗だったりする。
下水は完備というより街に流れている大きな川に汚水を流しているだけだと不動産屋から教えてもらった。
それと、上水道も日本のように完全消毒されているわけではなく地下水をくみ上げて使用しているだけらしい。
まあ、一般市民たちは普通に飲んでいるところを見ると安全な水なのだろう。私の鑑定でも(綺麗なミネラルウォーター)
と表示されている。ただ、残念なことが一つ。ここまで日本的な住宅を再現できているのに
火の回り関係が直火なのだ。厨房も直火。暖房も直火、今はまだ夏だから良いけど冬対策もそのうちに
考えなくちゃならない。近年では日本も薪ストーブが流行ってはいるけど、さすがに私らにはまだ薪ストーブは
未経験だったりする。薪ストーブもちゃんとシュミレーションしておくべきだったなぁと今更だけど
反省している。そんなことを考えているうちにチビ助が米を研いでくれていたので私らも厨房に入り
竈で米を炊き始めた。お釜はギルドから帰ってくる途中の雑貨屋で普通に売っていた。
これも昔から日本人を拉致していたという決定的な証拠だろうな。
私とチビ助が竈に火を起こした頃合いに、ちょうどデブ蔵も仕込みを一段落したようで私らは
竈の前で火の番をしながら語り合っていた。
「それにしても部長。この街、ビックリするくらい日本チックでしたね。」とデブ蔵もそのことが気になっていたようだ。
「そうね。これはあきらかに日本人ばかりを拉致してきたという決定的な証拠になるわね。例の廃墟群の皆は
全滅したのかしらね? もし、生き残りがいるのなら話だけでも聞かせて欲しいわね。あの廃墟群の謎は
私もすごく気になってたのよ。あんなに忽然と4丁目の住民全員が姿を消したのに警察も政府も動かないなんて
ちょっと気持ち悪かったのよね。」
「あっ、それについては話がぶっ飛ぶでやんすがK県の廃墟群は世界的にはマイナーでやんすが世界一有名な
廃墟群といえばマチュピチュでやんすよ。ここの遺跡もある日突然、あの場所に出現でやんすよ。しかも、
遺跡だけ。住民はゼロでやんす。でも、遺跡の上水道は今現在も生きたままなんでやんす。しかも、その水道の
水源がいまだに見つかってないでやんす。まるで水だけ異世界から供給され続けている感じでやんす。
政府としては今まで山奥過ぎて誰も遺跡に気づかなかっただけと発表したんでやんすが、
その発表には無理があるんでやんすよ。だってマチュピチュ遺跡の麓には村があるでやんす。
しかも、その村にとある日本人が移住して来た直後すぐにに遺跡が現れたんでやんす。転移事件の影にはいつも
日本人が絡んでいるんでやんす。」
「そうそう。その話はマジみたいっすね。その日本人はまるで遺跡が現れることを事前に知っていたかのように
ある日突然、移住してきて何もない村にホテルを開業。その後、すぐに遺跡が現れて今もなおそのホテルは
遺跡の最寄りのホテルとして今現在も大繁盛してるっすよね。」
「じゃあ、黒幕はこのジーク国の王様じゃなくて日本側って可能性もあるってことなのかしら?」
「さあ?そればっかりは今の僕たちじゃ答えを見つけられないっすよ。まだ全員レベル1っす。ゲームで言えば
まだチュートリアル中っす。明日からこの世の心理に近づけるように精進するっすよ!」
「そうね。そのための鑑定だしね!とりあえず、私らはほぼシュミレーション通りの能力を得られたわ。
後はこの得られた能力をフルで使いこなせるようにしないとね!特にチビ助の役割は本当に重要よ。
このチームの命の優先順位はチビ助が一番よ。本当に死なないでね。」
「任せて欲しいでやんす!絶対に死なないでやんすよ!!いつの日か勇者召喚の儀式をラーニングしてみせるでやんす!
そして我々だけでも日本帰還を果たして見せるでやんす!!」
「そうよ!まずは我々だけでも帰還することを最優先に!かわいそうだけど今、お城で呑気にしている奴らを
助け出せるほどのチート能力は我々には無いわ。ここで変にヒーロー志願とかしちゃ絶対にダメよ。
まあ、その辺も含めて私らは常にゾンビパニックのシュミレーションをしてきたから大丈夫よね?」
「はいっす!大丈夫っす!たとえ部長であろうとも噛まれたら即頭を打ち抜きますし、逆に自分が噛まれた場合は
すぐに噛まれたことを告げて殺してもらうっす。そんな覚悟は常に持ってたっすよ!僕たち。」
と自信満々でデブ蔵が答えていた。さすがオカ研のメンバーだと私は彼らを称賛した。
「そろそろお米が炊けてきたみたいね。」と私が言うとデブ蔵がちゃんこ鍋に火を入れて温めなおしていた。
チビ助が酒場のテーブル席のセッティングをしてくれたようで私らはそこで異世界で初めての宴を開催するのであった。
そして、夜もとっぷりと更けていき私らは二階の各部屋で就寝することになり、
各々、好きな部屋を選んで保健室から盗んできた毛布を使い眠りについた。
皆が深い眠りについて何時間くらい経ったのだろうか。私はついウトウトと目を覚ましてしまった。
すると、ベットの上にはどこから入って来たのかわからない黒猫がちょこんと座ったまま私の事を見つめていた。
「あら? 猫ちゃんどこから入ってきたの?」と声を掛けた瞬間、その猫は化け物のように肥大化して
苦しそうな声で『殺す』とだけ囁き霧となって消えてしまった。
私は恥も外聞も捨てて「きゃあああああああああああああ!!!!」と叫んでしまった。
すると、私の声に驚いたデブ蔵とチビ助が私の部屋のドアをノックしながら「部長!どうしたんすか!?」と
叫んでいる。私は腰が抜けてベットから出ることも出来なかったので彼らに中に入ってくるように命じた。
「どうしたっすか?部長。」「部長。こんな真夜中に叫んだら怖いでやんすよ。マジで怖すぎでやんす!!」
「い、今、この部屋に化け猫が出たのよ。『殺す』って言われたのよ!助けてよ。デブ蔵!!」
と、この中で一番戦闘力の強いデブ蔵に頼ってしまったが彼は確か幽霊との共存派・・・。どうも頼りにならない。
肝心のチビ助もラーニングで何かしらのスキルを覚えるまでは役立たず・・・。ここはやはり、光属性の私が
頑張るしかないのかな?でも、本物の幽霊なんて初めてだったから怖すぎて何もできなかったよ。
とりあえず、浄化ってどうやるのかしら。とりあえずギルトカードの時のことを思い出しながら手のひらに
浄化のイメージを作り出してみた。すると、手のひらにはLEDライトくらいの明るさで
ゴルフボール大の大きさの光の玉が浮かび上がってきた。
「おぉ、で、出来たわよ。浄化魔法。さあ、次に現れた時が化け猫の最後の時よ!私の経験値になって成仏しなさい!」
と私が言うと部員の二人も辺りを警戒して化け猫を探してくれている。
すると、突然、三階から足音がドタドタドタドタと激しく鳴り響いた。それを聞いた私とチビ助は悲鳴を上げてしまった。
私に至ってはせっかく作り出した浄化魔法を天井に放ってしまい一発無駄打ちしてしまった。
「部長、ただのラップ音現象っす。ビビり過ぎっすよ。落ち着いて無駄打ちを控えてくださいっす!」
とデブ蔵から厳重注意されてしまった。チビ助はビビり過ぎて完全に戦力外になっている。
すると今度は私の部屋のドアが突然、バタンと閉まってしまった。また私とチビ助は悲鳴を上げてしまった。
そして、またもやドアに向かって無駄打ちをしてしまった。これでMPは残り16。一発撃つごとに2も減ってる。
「部長、今度はただのポルターガイスト現象っすよ。何度もユーチューブで見てるでしょ?この程度の
霊たちのいたずら。冷静に行きましょう。本体が現れるまでは浄化魔法をセットしておかなくても良いんじゃないですか?」
「そ、そうね。化け猫が出てからでも良いのよね。ふ~~~~。少し落ち着いたわ。ありがとうデブ蔵。
それにしてもあんた霊のいたずらに対して落ち着き過ぎじゃない?あんな冷静に説明され続けると、たぶん
化け猫の方がやりずらくなるわよ。かわいそうに・・・」
「まあ、リアルで見るのは僕も初めてなんで少しだけテンションは上がってるんすけど、霊現象って
ここ数十年間、ずっと変わって無いんすよね。80年代のポルターガイストって映画からずっと同じ演出なんすよ。
そろそろいい加減に飽きてこないっすか?」
「アンタのその冷静過ぎる意見が聞けたおかげで私はもう大丈夫になっちゃったわよ。次で決めてやるわ!」
「さすが先輩でやんす。化け猫相手でも容赦ないでやんすね。もしおいらが霊側だったとしたら今の飽きてきた
発言は相当なダメージでやんす。今頃、化け猫は次のいたずらを出すのを躊躇してるでやんすよ!」
とチビ助が余計なことを言ったせいで化け猫が本気で怒った様子で真っ向から勝負に挑んできてしまった。
「ニャー!!吾輩はバブル時代を生き延びた伝説の化け猫リンドハーグ!!貴様ら三人をまとめて喰らってやるわ!」
と言って私ら三人の前に虎くらいの大きさで現れてしまった。私は恐怖でパニックになりながらも
手のひらに浄化魔法をイメージするが心が安定せずに中々うまくいかなかった。
そんな私の様子を見たデブ蔵が時間を稼ぐために虎サイズの化け猫相手に張り手を繰り出しているのだが、
相手が霊体のため一発も当たらない。それなのに、化け猫の爪はデブ蔵の皮膚をどんどん切り裂いている。
「中々、勇敢な男ニャー。無駄ニャ。無駄ニャ!実態を持たぬ吾輩に物理攻撃は効きはせぬニャー!
よし、一番、食いごたえがある主から食ってやろうかニャー。こやつさえいなければあとの二人は雑魚だニャー。」
流石のデブ蔵も相手が悪すぎる。このままじゃヤバいと思った瞬間、突然、化け猫が部屋の外へ駆け出して行ってしまった。
「部長、今のうちに早く浄化魔法をセットしておいてください。奴はすぐに戻ってくるっす!!」
とデブ蔵が血だらけな姿で私に指示を出してくれた。私は何故、化け猫が部屋の外へ駆け抜けていったのかなど
疑問に思ったのだが、まずは浄化魔法を優先させるべく意識を集中させた。すると今度は不思議とすぐにセットできた。
「もう大丈夫よ。デブ蔵。次、来たら任せて頂戴!」私は化け猫が再び現れるのを待った。
すると、「おい。そこの男。随分と汚い真似をしてくれたニャ!もう許さないニャ!」と随分、ご立腹になって
戻ってきた。もはや化け猫は私やチビ助を全く見ていなかった。隙あり!!私は化け猫に浄化魔法を放った。
「スペシャル・ホーリー・ブラスター・マグナム・ファルコン・ファンネル・スーパーチャージャー・ペンティアム・
オメガ・ドリル・カッター・エネルギー・パワー・バスター・キラー・ムーンソルト・サンライズ・アタック・
エ~~ンド・キセノン・ハロゲン・レーザー・ハイビーム・ギャラクシー・ワールド・ビジョン・エクストラ・・・」
私は無我夢中で技を繰り出していた。私の手からは謎の光線が発射されて化け猫に見事命中してくれていたが、
肝心の私は無我夢中過ぎて延々と技名を言っていたようだった。そんな中、突然、チビ助が白目向いて
口をパクパクさせながら仰向けになって倒れてしまったのだが、この時の私は無我夢中過ぎていまだ技名を
言い続けながら手からは謎の光線を出し続けていたのだった。のちにデブ崎から聞いた話ではチビ助は白目をむきながら
「でやんす。やんす。やんす。やんす。でやんす。やんす。やんす・・・。」と延々と延々と呟いていたらしい。
そして、この時、肝心の化け猫はというと私の浄化魔法がクリティカルヒットしたようで
「ニャ、ニャ、ニャ、ニャぎやあああああああああああああああああああ!!!」と苦しそうな悲鳴を上げて
のたうち回っていたそうだ。そんな中、もういよいよ自分が浄化されてしまうと感じた化け猫が
悲痛な叫びで「こんな異世界なんかで死になくないニャーーーーー!」と叫び涙を流して泣いていたそうだ。
それを見ていたデブ蔵は思わず、化け猫に対して「頑張れ!猫ちゃん!もうしばらく耐えきれば部長はMPが
切れるっすよ!耐えろっす!生きて一緒に僕たちと一緒に日本に帰ろうっす!!頑張れーっす!!」と応援していたそうだ。
「ニャー!お前たちも日本人だったのかニャー。吾輩ももう少しだけ頑張ってみるニャー。あの少女のMPが切れるのが
先か吾輩のHPが尽きるのが先か勝負ニャー!!」と言って化け猫は少しだけ正気を取り戻したそうだ。しかし、
私の浄化魔法がかなりのクリティカルヒットだったらしくて次第に化け猫の姿が消えかけてしまったそうだ。
そんな姿を見ながらデブ崎は突然歌を歌ったそうだ。「♪believe in love きっと誰もが悲しみの夜を抱えてる~」
K県が転移した当時に流行っていた曲らしい。デブ崎は化け猫がこのまま浄化されたらかわいそうだと思って
最期に日本時代にいつも猫ちゃんが聞いていたであろう思い出の曲を歌ってあげたのだった。
「あぁぁ。少年の歌声が心に染みるニャぁぁぁ。まだまだ死ぬわけにいかないニャ!ニャ!ニャ!ニャ!」
一方では「やんす。やんす。と繰り返すチビ助。その一方では無我夢中で延々と技名を言い続けている私。
そして、何故か戦闘中に歌い化け猫を励まし続ける大男。
そして、その大男の歌を聞いて魂が揺さぶられ必死に浄化魔法に
「ニャ、ニャ、ニャ!」と苦しそうに耐えながらも必死に頑張る化け猫の姿がそこにはあったそうだ。なんてカオスな
私らのデビュー戦なのだと思った。
そして、「カートリッジ・エナメル・インジェクション・スタイル・プロミネン~~~」とここで私のMPは切れたようで
暫くの間、意識を失っていたそうだ。
私が目を覚ますと戦闘で荒れ果てていた部屋の中は綺麗に片づけられていて、デブ蔵とチビ助が心配そうに
私のベットまで様子を見て来てくれた。
「部長、大丈夫っすか?」「えぇ。何とかね。ところで私はどれくらい気を失っていたの?」
「えっと、およそ2時間ってとこっす。」「そんなに!?えっとね、二時間でたったの4しか回復してないわ。
きっとゼロになって気絶したみたいね。今後は二人も気を付けてね。」と現状の私のMPの回復量を
2人に教えておいた。「えっと、私に経験値が入ってないってことは討伐に失敗したようね。まだ化け猫は
生きてるのね。」と倒しきれなかった後悔を前面に押し出しているとデブ蔵が「部長。僕から提案があるっす。」
というのでデブ蔵の提案を聞くことにした。
「実はですね、部長とチビ助が意識を失っていた時にですね・・・」とデブ蔵の発言を聞いていて気になることが
あったので私はデブ蔵の発言を遮って質問した。「ねえねえねえ。チビ助も意識を失っていたの?どうしてなの?」
「あ、先においらから報告した方が良いんでやんすかね?実は部長がわけもわからない浄化魔法を放ったあと、
初めて浄化魔法のラーニングに成功したんでやんすよ。ところがこのラーニングってスキルは技を覚えると技名が
脳内に表示されるでやんすよ。つまり、部長は技を放ってから意味のない英単語の羅列を延々と詠唱してたでやんすから、
おいらの脳に延々と意味のない英単語がびっしりと表示されてしまい脳がバグって意識が飛んだでやんす。
実はおいらも部長と同じくらいの時間、意識を失ってたでやんす。ちなみに、部長の技は覚えたでやんすが技名の表記は
脳内でも文字化けしてるでやんす。次、技を放つときは短い命名をお願いするでやんす。」
「へ~。そうだったんだ。結果はどうあれチビ助のラーニングの検証も出来たってことね。ごめんね。デブ蔵。
話を続けてちょぅだい。」
「はい。えっと、とりあえず、お二人が寝てる間に僕は猫ちゃんと約束をしまして、もうオカ研のメンバーには
いたずらも攻撃もしないということで、オカ研のメンバーに入れてもらえないかと思いまして・・・」
「は?アンタ何言ってんの?あんな化け猫をメンバーにですって?アンタまさか魅了とか精神支配を受けてんじゃないの?」
「せ、先輩。やめてでやんすよ。今のおいらと部長じゃ暴れる先輩を止められないでやんすよ。」
「いや、二人ともちゃんと聞いてほしいっす。あの猫ちゃんも1995年の召喚に巻き込まれた被害者だったんすよ。
あの猫ちゃんもこんな異世界では死んでも死にきれないって思いから怨念が残って化け猫化してしまったらしいっす。
話してみると中々良い人だったっす。それに、さっきは部長もK県の生き残りがいれば話だけでも聞いてみたいって
言ってたじゃないっすか!この街にいるK県の生き残りは猫ちゃんだけらしいっす。ここで討伐しちゃうともう二度と
生き残りからの当時の証言を聞くことはでき無くなるっす!!!」と必死に熱弁していた。
ここまで言われちゃうと私も討伐が出来なくなってしまったし、何よりも95年の召喚のことを聞きたいという
好奇心が勝ってしまっている。ただ、デブ蔵は化け猫の事を"生き残り"と言ってるけど、実際には死んでるんだけどね。
「わかったわ。デブ蔵。その化け猫と一度、話をしてみるわ。チビ助も良いよね?あまり怖がらないであげてね。」
「わかったでやんす。ビビらないようにがんばるでやんす!」
「そうっすか!良かった。それじゃ、猫ちゃん。入ってきていいっすよ!!」とデブ蔵が声を掛けると
化け猫は私たちに恐怖心を与えないようにとの気遣いをしてくれたのかごく普通の子猫サイズの黒猫として
ドアからトコトコと歩いて入ってきた。こうして見てる分には普通の可愛らしい子猫なので私とチビ助は
平常心のままでいられた。
「そうか。貴方の"恐慌"っいスキルのせいで私は平常心を失ったのね?」と化け猫に言うと
それを見事に言い当てられて驚いた顔をしながら「お前は鑑定を持ってるのかニャ?中々のチートな娘ニャ。」
と私が鑑定持ちだということを一発で見抜いてきた。
「貴女の爪の呪いだけど効果は何?デブ蔵は大丈夫なの?」
「吾輩の爪の効果は回復魔法での回復が不可ってだけニャ。本来は動脈なんかを切り裂いて出血死させる技ニャ。
この少年にやったように腕の皮膚程度を引っ搔いても意味のない技ニャ。傷薬でも塗っておけば治るニャ。」
「僕の方の傷はすでに保健室から盗んできた消毒薬と傷薬で手当て済みっすから大丈夫っす。」
と言って手当て済みの包帯で巻かれた腕を私に見せてくれた。
「それにしても、貴女の物理攻撃完全無効ってスキルは厄介よね。デブ蔵には相性が最悪ってことなのね。
デブ蔵は魔法攻撃も覚えなくちゃダメってことなのね。デブ蔵もギルドカードを取り込んだ感じをイメージしながら
手のひらで土魔法をイメージするとさっきの私みたいに浄化魔法が出来ると思うわよ。一応、アンタには
土属性もあるみたいだからね。」
「はいっす。今後は魔法攻撃も視野に入れるっす。あ、言い忘れてましたが、さっきの戦闘中には一応、
召喚だけは確認済みっす。無事に召喚出来たっす。」
「は?アンタいつの間に召喚してたのよ。私が気絶してるとき?」
「いえ。部長が猫ちゃんの恐慌で意識を集中出来なくて浄化魔法をセットできなくなった時っす。」
「あぁ、確かあの時、突然、化け猫が部屋を猛然とダッシュで出て行ったときか~。あの時、何かしたっていうの?」
「そうだニャ。あれは酷かったニャ!この男は吾輩の足元に美味そうな鼠を召喚したのニャ。その鼠がダッシュで
部屋を出て一階に降りて行ったのを吾輩はつい習性で追っかけてしまったニャ。そして、一階でその美味そうな鼠を
捕まえてパクリと食ったんだニャ。そしたらその鼠は吾輩の口の中で一瞬で消えてしまったのニャ!!それで
腹が立った吾輩はその少年だけに集中し過ぎてしまって隙だらけになってしまったんだニャ。」
「なるほどね。さすがデブ蔵だわ。猫相手に犬じゃなく鼠を召喚するあたりがオカ研部員らしいわね。
虎サイズの猫相手に犬なんて召喚したって意味がないもんね。それで、鼠一匹のMPはどれくらいだったの?」
「えっと、僕も戦闘中でステータスは確認してなかったんですけど、部長が気絶した後で確認した時には
MPが完全回復していたので、たぶん10以下だとは思うっす。あと、鼠が食い殺されたことで一つだけわかったことが
ありまして、一度、召喚した生物は次に召喚した時も同じ個体が来るそうっす。そして、今回のように
その生物が召喚中に死んでしまうとクールタイムが発生するっす。なので、今はその鼠がクールタイム中ということなんで
残念ながら今、その鼠を部長たちにお見せすることができませんっす。ちなみに鼠のクールタイムは3時間っす。
あと1時間経つと再び召喚可能っす。」
「ふ~ん。クールタイム式なのね。同じ個体ということは使い続けるとレベルも上がっていきそうなシステムね!
アンタも期待できる能力だったわね。」
と、奇しくもドタバタな初戦だったんだけど全員の能力のテストは無事に終わったというわけ。
この後は深夜ということもあって皆それぞれの部屋に戻って就寝した。
化け猫はというとデブ蔵の部屋で管理されることになった。