4、王都ブギウギ
三人でモニター越しに浮かれまくっている勇者ご一行を見つめていた。
「やっぱ、勇者って称号は嬉しいんでやんすね。今日から貴族待遇って言ってたでやんすよ。」
「えっ?勇者以外の人たちは?」と先ほどの会話を聞いていなかったデブ蔵が驚いた様子でチビ助に聞いていた。
「勇者だけが貴族でやんす。他の人たちは生活の保証としか言ってなかったでやんすよ。」
「それってまさか・・・」と青ざめながらデブ蔵は私に意見を求めてきた。
「そうね。たぶん、良くて放置。悪けりゃ人質ってとこじゃない?申し訳ないけど今の私たちじゃ救えないから
救わないわよ。それに、普段から私らみたいにシュミレーションしとけば、こうして私らみたいに
逃げ伸びることだって可能だったってことじゃない。同情はするけど救うのは無理ね。」
「僕も救うのは無理だとは思うんすけどね・・・。」とデブ蔵は悲しそうな顔で呟いた。
「ところで、あんたたちのスキルは見事だわ!!今のところ私が一番のお荷物だと思うわ!!」と私が言うと
「おっ?ってことは部長!!スキルの獲得に成功したんすね!」と先ほどの悲しい顔から一転して急に笑顔になるデブ蔵だった。
「さすが部長でやんす。鑑定スキルでもう我々のスキルを見たでやんすね!!どうりでさっきからスキルの
質問が来ないなと思っていたでやんすよ!なるほど。もうすでに知っていたからでやんすね!」
「ごめんね。二人とも。勝手に覗いちゃって。ちなみに私の職業は解説者だってさ。Lvは01でHPもMPも20よ。
スキルは鑑定、光属性、未来視よ。」
「未来視とはまたチートっすね。」「うん・・・それなんだけどさっきから全然使えないのよ。MPが足りないのかしら?」
「そういうことは鑑定で調べられないでやんすか?」
「鑑定でわかるのは相手の名前、職業、レベル、スキル名くらいなのよ。HPとかMPとか素早さとかは見れないわね。
あと、PC画面越しの人物も駄目ね。だから体育館の連中も全く見えないわ。光属性ってのもおそらく魔法なんでしょうけど
MPが20しかないのに魔法を使っちゃうと危ないような気がして自重しているわ。」
「おいらはシュミレーション通りに職業はものまね師になれたでやんす!チートでやんす!レベルは01で
HPが5でMPが10でやんす。スキルはラーニングと魔法ダメージカットでやんす!」
「あら?チビ助ってHPもMPも私よりも低いじゃないの。一番の足手まといが私じゃなくて良かったわ!」
「あっ、部長すいませんっす。僕のレベルも01なんすけどHPが190でMPも50もあるんすよ。この世界の基準がわからない
から何とも言えないっすけど僕が人並み以上なのか、それとも部長とチビ助が人並み以下なのか早めに知る必要が
ありますね・・・。ちなみに僕の職業は召喚士。スキルは物理ダメージカットと土属性っす。」
「えっ?デブ蔵だけ桁が違うじゃないの!どういうこと?」などと私が困惑しているうちに体育館では動きがあった。
なんでも今から王城に全員で移動して今晩はそこで一泊して翌日は歓迎式典を開催するとのことで
全員で体育館を出て裏門とは逆方向にぞろぞろと進んでいったのを見送った。
「よし。あっちの方向に王都があるみたいね。王都の方向さえわかればもう彼らを追う必要はないわね。
それじゃ今夜はこの空き家で一泊して明日の朝一番で王都へ向かいましょう。そして、王道の冒険者ギルドに
行って私らも冒険者デビューしちゃいましょう!」と私の号令と共に二人は今夜の晩御飯の支度に取り掛かってくれた。
と言ってもデブ蔵が売店で調達してくれていたカップ麺が今夜の晩御飯だったのだけれど・・・
晩御飯のあと本当は皆でスキル検証などをしておきたかったんだけど、さすがにこの日は精神が疲弊し過ぎたせいか
私らはすぐに眠ってしまっていた。天体観測が日課のデブ蔵でさえ、
この日は夜空を眺めることなくさえ早めに眠っていた。
翌朝、
私らは日の出とともに目が覚めた。
前夜、早く寝すぎたため全員、無駄に早起きをしてしまったのだ。
とはいえ、今日は王都に行って冒険者登録をするつもりだ。早めに出発したくらいで丁度いいはずだ。
私らは寝起き早々に王都があるであろう方向に向かって歩き出した。
すると3時間くらい歩いた先にようやく人の手できっちりと整備されたような街道にたどり着いた。
そこから1時間ほど歩くとようやく王都の城壁が見えてきた。そして、王都の入り口付近に到着すると
ズラッと行列が出来ていた。私らでさえ日の出と共に出発したのに、今、並んでいる人たちは
きっと日の昇る前に出発していたんだろうということがわかる。
仕方が無いので列の最後尾に並んで私らの順番を待つことにする。
ただし、待ち時間の間、ただ黙って待っていたわけじゃない。
ちゃんと列に並んでいた行商人っぽいおやっさんに王都のことを色々と教えてもらっていた。
まずは入国の際にはパスポートのような身分証明書は必要かどうか。
これについては平民が身分証明書なんて持っているはずがないということでいらないと教えてくれた。
入国の際に金銭が必要かどうか。現在、私らは一文無しだ。ここで入国料とか発生したら完全アウト。
ところが、入国の際に金銭は必要ないが国から出るときには持ち出すものに税金が発生する場合があるらしいのだが、
これも平民にはあまり関係ないようだ。商人が酒や鉱物を他国に持ち込もうとしたときに発生する関税のような
モノなのだろう。これで私らはもう入国に対しての困難は無くなったはずだ。じゃあ、続きまして
入国後の質問ということで冒険者登録についても聞いてみた。まずは金銭面について。
これに関しては登録だけなら無料と教えられて安心した。入国後はすぐに道具屋で学校から盗んできた備品を
売り払うつまりでいたから最悪、登録料が必要と言われても支払うつもりでいたけどね。
あとはこの国のお金の単位と日本円との差異も聞いておいた。
まずこの国の名はジーク。この国の貨幣の単位G。1Gはおよそ1円であることが判明した。たぶんだけれどね。
おやっさんが食べていたロールパンが1個で30Gと教えてくれたからだ。
色々と親切に教えてくれたおやっさんにはタバコを3本プレゼントしてあげるととても喜んでくれていた。
日本のタバコは異世界人にも好評だった。おやっさんは待ち時間の間、タバコを二本だけ吸ってラスト一本を
胸ポケットに大事そうにしまい込んだので、吸ってしまわないのかと尋ねたところこんなに美味いタバコは
初めてだったので、この街に住む息子のためのお土産にすると泣かせるエピソードを聞かせてくれたので
追加であと三本をプレゼントしてあげた。すると、再び二本だけを吸って一本を胸ポケットにしまっていた。
そんなやり取りをしているといよいよ私らの番が回ってきた。
「国外からですか?」と門番に尋ねられる。
「はい。王都で冒険者になるために仲間と来ました。」と告げると
「その荷車の荷物を確認するぞ。」と言って門番が2人がかりでリアカーの積み荷をチェックしていた。
「ガラクタばかりじゃないか!」と言って困惑している門番だったので、
「古道具屋に売るつもりなんですよ。」と素直に答えてみた。すると「なるほど。それなら門を出てまっすぐ進んで
最初の十字路を左に曲がりなさい。しばらく進むと何でも買い取ってくれる古道具屋があるぞ。」と
とても有益な情報を教えてくれた。体育館に現れた奴らとは違ってとても親切な振舞いをされて
正直、かなり驚いた。勝手にトップが腐っていると下々の役人まで腐っているものだとばかり思っていた。
私らは門番に言われたとおりの古道具屋を訪ねて学校から盗んできた顕微鏡を店主に見てもらった。
「お嬢ちゃん。こ、これを本当に売ってくれるのかい?」とかなり驚いた表情でこちらを見つめる店主がいた。
(フェロー。職業・商人。Lv.2。スキル・目利き)
「はい。即金でお願いします!」と答えると店主はしばらく難しい顔をしながら考え込んだ。
そして、「よし。わかった。250万G出そう。ただし、今は持ち合わせが500万しかない。後日、必ず全部買い取るから
他所の店には売らんで欲しい!!」と懇願してきた。「えっ?250万!?しかも全部買ってくれるの?20個あるのよ?」
「あぁ。そうだ。全部買い取る。ただし残りは二週間だけ待ってくれ。頼む!!」
「わ、わ、わかりました。とりあえず、今日は二個、後日20個ですね!ありがとうございます!」
と言って私らは初日から500万もの大金を得てしまったのだった。
大金を持って私が古道具屋を出るとリアカーの番をしてくれいてた二人が不安な面持ちで私の方を見た。
「二人とも!!今夜はすき焼きよ!!」と言って二人を安心させてから、しばらくは金銭的な不安が無くなったことを
説明した。当初の予定ではこの後で冒険者ギルドに向かうつもりだったのだが私らは冒険者ギルドには行かずに
不動産屋に向かうことにした。不動産屋の場所がわからなかったのでもう一度、古道具屋に入って店主に教えてもらった。
私らはすぐに店主から教えてもらった不動産屋を見つけることができたので、早速、入店してみたのだった。
「いらっしゃいませ。」と言って店主らしきオッサンが相手してくれている。(ウイル。職業・商人。Lv.2。スキル無し)
「この街に今日、着いたばかりなので何の知識も無いので色々と教えていただきたいんですけど、まず、
三人で暮らせるだけの広さの家を借りるか買うかしたいんですが相場はどれくらいでしょうか?予算的には
賃貸なら月6万くらいで買うなら一括払いで300万までって感じです。」
「あぁ。そうですか。その予算でしたら賃貸が無難でしょうね。この街の中古物件は安くても1000万はしますからね。
三人で暮らすんでしたら二階建ての一戸建てが良いんじゃないでしょうか?月6万も出せるのであれば一戸建てが
借りられますよ。2DKのアパート程度ならこの街じゃ月2万もあれば借りられるんで。」
この世界の家賃は実に安くていい。二階建ての一戸建てが6万で借りられるだなんてここは本当に首都なのかしら?
いや、逆か・・・。日本の首都が高すぎるだけか。とりあえず、手持ちに500万もあることだし、ちょっと高めのリッチな
一戸建てを借りようと決意したので一旦、リアカーの番をしている二人にも途中経過の報告とちょっとリッチな
一戸建てを借りるつもりだということを相談するために中座させてもらう。
「店主さん。すいません。外にいる仲間たちと相談したいので少しだけ中座させてください。
ちょっとくらいは高くなっても良いんで豪華で綺麗な一戸建てを借りることになると思いますので、
ちょっとだけ待っててください。」と言って私は店を出て二人に許可を貰いに行って再び店主の元へ戻ってきた。
「お客さんたちは見たところ家族じゃないようだね。新人の冒険者チームなのかい?」と店主が尋ねてきたので
「はい。そうです。この街の冒険者ギルドで登録しようと思って田舎から出てきたばかりなんですよ。
家を決めた後で早速、登録を済ませるつもりです!」と私が答えると何故か店主はもぞもぞと気まずそうにしながら
とある物件の資料を出してきた。「これは紹介していただける一戸建てですか?」と私が尋ねると
「いえ。実はこの物件はギルドにも除霊の依頼を出している物件でして・・・。いわゆるお化けが出るんですよ。
もし、あなた達が対ゴーストに強い人たちならこの物件をお売りすることも可能だと思いまして・・・。」
「は?お化け・・・ですか?そんなのこの街の冒険者なら簡単に浄化くらいはできるんじゃないですか?」
「はい。通常のゴースト系の魔物でしたら浄化も簡単なんでしょうが、この家に出るお化けっていうのが
おとぎ話で出てくるような怨念の籠った霊でして、今までに色んな光魔法の使い手の冒険者たちが浄化をして
くれたのですが全く効果が無く、それどころかせっかく来ていただいた冒険者さんたちを返り討ちにしちゃうんですよ。
こんな強いお化けがとり憑いている物件は私も早く処分したくてですね・・・。
もしもあなた達がここを買っていただけるのでしたら300万でお譲りしますよ!!」
おっと、これはどうしたら良いのか・・・。悩むまでもないわね。私たちはオカ研だもの!!
「わかりました。そこを買いましょう。奇しくも私は光魔法が得意なんですよ。ハッハッハッ!!」
そして私は即金で300万を支払ってこの家のカギを受け取った。そして、不動産屋さんが家まで案内すると言って
私らをその幽霊屋敷まで案内してくれた。
「こ、こ、こちらが例の物件です。どうかお気をつけて。」と深々と頭を下げてから逃げるように立ち去ってしまった。
案内された物件はメインストリートからはだいぶ外れてしまっているが、三階建てで中々大きな建物だ。
どうやら、一階部分は元々飲食店だったらしい。店の前には馬車が4台ほど停められるスペースも有り
建物の横には馬小屋まで完備されている。ちゃんと敷地内に井戸もあり、いまだに枯れてもいないようだった。
「部長?ちょっと豪華すぎませんか?ここが本当に月6万なんすか?」と早速、デブ蔵が疑問を感じたようだ。
さすがデブ蔵。侮れないな。「うん。とりあえず、中入ってから事の顛末を説明するね。とりあえず、
リアカーのモノを運んでしまいましょう。」と私は二人に作業の指示を出してから家の扉の鍵を開けて
中に入ってみた。中に入るとやはり一階部分は元酒場だったようで居ぬきですぐに商売が始められるくらいに
当時のままグラスなどの備品が残されていた。きっと、元の住民はお化けが怖くて備品を回収できないまま
出て行ったのね・・・。室内があまりにも綺麗な状態だったことをチビ助は単純に大喜びしていて、
それとは対照的にデブ蔵はとても不安に満ちた顔をしていた。さすがだわ!デブ蔵。貴方なら立派な名探偵に
なれるわよ。二人がリアカーの荷物を一階部分に運び終えたところで私は二人に不動産屋での顛末を説明してあげた。
「やっぱりっすか・・・。いわくつき物件を買い取るなんて部長らしいっすね。まあ、今の部長なら浄化
出来るのかもしれませんけど、僕としてはせっかくのいわくつき物件なんだしお化けは生かしておきたいですね!」
「えっ!? 先輩は霊とか平気でやんすか? おいらは出来ればさっさと部長に除霊してほしいでやんす。
お化けは嫌いでやんす。貞子系にはめっぽう弱いでやんす。」
「大丈夫よ!私がそんなお化けなんて無双してあげるわよ!今夜はそのお化けが私の経験値になるのよ!!」
などと普段の部室での会話を思い出す瞬間だった。少しだけいつもの放課後の日常が恋しくもなった。
そしてこの後、私らは念願の冒険者登録をするために冒険者ギルドに赴いた。
「今回は三名様が登録ということですね!」と眩い笑顔で対応してくれているのは
この街の冒険者ギルドの受付嬢のキンバリー。(職業・元冒険者。Lv.3。スキル無し)
異世界アニメから飛び出てきたような綺麗でかわいい受付嬢って感じの女だ。うちの部員たちもすっかり
骨抜きにされているよ。とほほ。
「それでは、この申込用紙に必要事項を記入して出来上がったら、こちらにお持ちくださいね。」
と言って私らに用紙を手渡してくれた。が、ここで大事なことを思い出した!
私らってこの世界の字が書けないや。代筆を頼まなくちゃ!と思ってすぐに受付カウンターに戻ろうとすると
私の意図を組んだデブ蔵が私の事を引き留めた。
「デブ蔵。私、ちょっと代筆を頼んでくるよ!」
「部長。大丈夫です。実は古道具屋の時点で僕は気づいてたんですけど僕らって転移特典を受けてるみたいっすよ。」
「うそ!? 転移特典だと!?」と私が凍り付いていると「あっ!本当でやんす!書けるでやんすよ!部長!」
と言いながらチビ助が大喜びしている。このデブ蔵が言う転移特典とは転生&転移作品の中で翻訳がある作品と
翻訳がなくかなりハードなスタートから始まる作品があるのだ。最初から翻訳が可能な場合を我がオカ研では
転移特典と呼んでいたのだった。どうやらデブ蔵は古道具屋の現地語の看板が自身でも読めることで
我々が転移特典を受けていることに気づいていたようだ。さすが名探偵。デブ蔵の体重の半分は脳みそなのかも知れない。
そして、私は恐る恐る申込用紙を記入してみると確かに書ける。まるで日本語を書くようにスラスラと書くことが
できるのだ。逆に不思議なのが意識すると日本語も書くことが可能だった。つまり、今、こうして会話するときも
日本語を意識するだけで日本語を話すこともできるのだ。秘密の会話をするときなんかは便利だね。
とりあえず、デブ蔵のお手柄のおかげで私らは恥をかくことなく無事に申込用紙を書くことが出来た。
「はい。お預かりしますね。リーダーはアキさんでよろしいんですね。パーティー名がオカ研。
それではギルドカードが出来るまでの間に講習室で初心者講習を受講してください。
1時間程度で終わるはずですので。それが済んでからギルドカードをお渡しします。」
と言われるがままに私らは講習室で講習が始まるのを待っていた。
すると教壇には初老のガッチリとしたオッサンがやって来た。(ベム。職業・元冒険者。Lv.5。スキル・剣術)
「それでは初心者講習を始める。質問があればその都度、質問してくれて構わないぞ。
え~。まずは君たちのランクから教えておこう最初は誰でも★1からのスタートだ。この★1は基本的に
申し込めば誰でもなれる。誰でもなれるということは危険な依頼は一切受けることができない。
★1の受けられる依頼は薬草などの採取と格上冒険者チームの荷物運びだな。仮に毎日、薬草採取を受けたとしても
月に5万も稼げないだろう。ハッキリ言って★1のままでは生活するのも大変だと思う。
なので、普通の★1の冒険者は格上のチームの荷物運びで生計を立てている。荷物運びと言っても
格上チームが魔物を討伐すると微量ではあるが経験値も入ってくる場合もあるので薬草採取なんかよりも効率がいい。
気の良い格上の冒険者なら★1の新人にもとどめを打たせてくれたりするからな。そうなればレベルも上がって
ランクが上がりやすくなる。ちなみに★2に上がるためには格上冒険者チームからの推薦が必要となる。
なので最初は荷物運びをして格上の連中から気に入られるように頑張るしかない。
いくら★1で強くても推薦が得られなければ★2に昇格することはないってことだけ覚えておいてくれ。」
と教官が説明したところでウチのポイントゲッターであるデブ蔵が質問した。
「質問いいっすか?その昇格のタイミングって最短でいつくらいになりますか?仮に僕らが明日から
荷物持ちを始めたとして、いつくらいに昇格できるんでしょうか?」
「うん。焦るその気持ちはわかるぞ。仮に君らが明日から荷物持ちの依頼を得られたとして、尚且つその格上チームから
気に入られて毎日、荷物持ちをやったとして無事に推薦状を2か月で獲得できたとしても昇格できるのは残念ながら
次の冬以降になる。昇格のチャンスは夏と冬の二回だけだ。そのタイミングで推薦状を持ってギルドで昇格の
手続きになる。昇格の際はレベルの最低ラインなんてものは無い。レベル1でも★2になることは可能だ。
レベル制限が発生するのは★3以降だ。つまり、★3以降からが死ぬ可能性がグンと跳ね上がる。
多くの職業冒険者と呼ばれている冒険や短剣などをしない安全な冒険者の多くが★2のままで活動している。
★2になると依頼の種類が色々と増える。一番、安全で効率が良いのがダンジョン探索だな。
このダンジョン探索は自分たちのレベルに合わせて無理なく魔物を狩れるしドロップ品が高値で売れるしで
かなり人気が高い。★2の6~7割がこのダンジョン探索で生活している。
次に人気なのが行商人や貿易商なんかの護衛だな。これは★2だけじゃ依頼は受けられないが
予算の都合で★3と★2の合同で護衛することが多い。こうした合同での護衛の場合、戦闘は★3が担当で
★2は野営の準備などの雑務が主な仕事になる。いろんな他国を依頼主の金で旅できるので若手の冒険者たちに
人気がある。もちろん★1も荷物持ちとしての参加が可能だ。この辺は依頼人次第だな。
あとは王都の外に出て街道周りに出る野生の動物や魔物の討伐だな。
王都近郊にはスーパーバッファローという大型の牛とスーパーボアという大型の猪が出る。
この二種の野生動物を一頭でも狩るとギルドでの買い取り額は牛なら50万、猪なら40万になる。
こいつらは気性は荒いが所詮は野生動物だ。コツさえ覚えれば簡単に倒せるようになるぞ。
★2程度の冒険者チームじゃ厳しいのがスモールコカトリス。こいつは小さく見えても魔物だからな。
下手するとチーム全滅なんてことも十分考えられる。」とここでまたデブ蔵から質問が上がる。
「質問いいっすか!動物と魔物の違いって何すか?僕らからするとデカい牛も怖いしコカトリスも同じくらい怖いんすけど。」
「おっ?良いとこに気づいたな。動物と魔物の違いもわからないまま特攻するバカな若手が多くて困ってるんだよ。
先に例に挙げた牛と猪は超デカくて力も強いがそれだけなんだ。奴らにはスキルが無い。それから特殊効果も無いんだ。
逆に魔物ってのはスキルを持ってたり特殊効果がある。例えばコカトリスのスキルはというと・・・」
「まさか石化でやんすか!?」と教官の説明を遮ってチビ助がしゃしゃり出てきた。
「うん?貴様、詳しいな。そうだ。コカトリスのスキルは石化だ。ただし、この近辺に出るのはスモールだからな。
全身が石化してしまうことは無い。せいぜい腕一本とか足一本程度だ。まあ、それでも当たり所が悪ければ
チーム全滅なんてことも実際に起っちまってる。ちなみに一度、石化してしまうとコカトリスを倒しても
石化が解かれることは無い。もうそうなってしまったら街まで戻って教会に行って治療してもらうしか
治す方法はない。ちなみにその治療費は100万もするからな。本当に気を付けろ。
あとは稀に火トカゲなんかも出る。こいつも広範囲の炎を吐くからな。炎耐性の防具が無いと近づくことすらできん。
それから、王都を出て東に半日も歩くと謎の廃墟地帯ってのがあるんだが、そこには無数のアンデッドが出る。
アンデッドは倒したとしても買い取れる部位が無いから一円の得にもならん。ただの経験値しか得られるものがない。
これもある意味で気を付けろ。ちなみにコカトリスは羽も肉もギルドで買い取るぞ。一体あたり80万になる。
火トカゲは革が貴重だな。炎耐性が付与されている防具を作れるんだ。といっても火トカゲを倒せるということは
すでに炎耐性を獲得している人が多いからな。殆どの奴らがギルドで売りに出している。一体あたりの皮の買い取り
額が金貨10枚にもなる。さて、とりあえずの初心者講習は終わったが何か質問はあるかね?」
「教官。ありがとうございます。とても勉強になったわ!これで明日からは私らも晴れて冒険者として
やっていけそうだわ!」私は本気で嬉しくなり教官に礼を述べていた。だって、今まではゲームやアニメでしか
見てこなかった冒険者という生活を明日から堂々と始められるのよ。教官がお勧めしてなかった薬草採取だって
今の私にはめちゃくちゃ魅力的。実際、薬草チートな作品も多いしね。きっと私の鑑定のレベルが上がると
薬草の群生場所なんかも簡単に見つかるんだろうし、そのうちポーションの生成法なんかも鑑定でわかるように
なると思うんだよ。日頃から皆で転移シュミレーションをしていた甲斐があったわね。ハッキリ言って鑑定が
あれば私はこの世界で無双できる自信があるわ!!鑑定こそが異世界でのチート能力なのだから。
そして、講習を終えた私らは受付カウンターにて受付嬢からそれぞれにギルドカードを手渡された。
「それでは、まずはアキさんからカードと本人のリンクを繋ぎますね。カードの上に手をかざして
この水晶の上でジッとしていてください。」と言ってきたので言われた通りにやってみた。
するとカードとかざした手が眩く輝きだし私の手の中にカードが吸い込まれて消えてしまった。
私が呆気に取られていると受付嬢が「手のひらを上にして"ギルドカード"と言ってみてください。」
と言われ言われるがままに「ギルドカード」と呟くと手のひらには先ほど貰ったばかりのギルドカードが出てきた。
「このようにカードは出したり引っ込めたりできます。便利でしょ?そしてこのカードは預金も出来ちゃいます。
大量の金貨を獲得したときなんかは預金しちゃえば手ぶらで帰れますよ。現金の引き出しは24時間いつでも
各街の冒険者ギルドで可能です。また、冒険者ギルドと提携しているお店でもこのカードで預金分の額に応じて
買い物ができます。」と説明してくれたので試しに持ち金から私のカードに20万、他の部員たちのカードにも
20万ずつ預金しておいた。登録を済ませた私らは家に帰る途中で食材などを買い求めてから帰宅した。
帰宅したころには私は冒険者登録したことで浮かれすぎていて、すっかりいわくつき物件の事を
忘れてしまっていたのだった・・・。