2、天体観測をしてロマンを語ろう!
「さあ、デブ蔵。さっさと金星を探しなさい!」
私たちは学校の屋上で望遠鏡のセッティングをしていた。
「はい!すぐに探すっす。ちょいとお待ちを。」と言ってデブ蔵は金星のある方角を見つめながら
望遠鏡を2つ調整してくれていた。
「おいおい。デブ蔵くんはそんなことも出来るのかい?見た目のわりに器用だね君は。」
と言ってきたのは私のクラスの担任の倫太郎先生。私たちが日が暮れた後で天体観測をしたいから夜の20時くらいまで
残りたいと担任に事情を説明したところ顧問のいないオカ研のことを理解してくれていたので快く快諾してくれて
自分も金星を見たいということで屋上を開放する代わりに立ち会わせてほしいと言ってきたので倫太郎先生にも
立ち会ってもらっていた。
「そうでやんすよ。先輩は頭も良いですし知識量も半端じゃないんでやんすよ。これで見た目が
カッコよけりゃ絶対にモテモテだったはずでやんす。」とからかうようにチビ助が言うと
「僕はモテなくても良いんすよ!!今、モテたってどうせ2025年には世界なんて無くなるんすよ。逆に
その時に家族とか出来てたら死んでも死にきれないっすよ!!」と望遠鏡を覗きながらデブ蔵が言うと
「なんだその2025年に日世界が無くなるってのは?」と倫太郎先生が不思議そうに私たちに尋ねてきた。
「えっとね、今から衝撃的なことを言うけど先生、怖がらないでね。2025年に大災害、もしくは
未曽有の危機か衝撃が走り、世界は滅びます。」
と私が説明すると倫太郎先生は大爆笑しながら「あぁ、なるほど。なるほど。今時の若者は2025年が終末なんだね。
私たちの学生時代は2012年だったよ。見事に外れたけどね!!それにしても、2025年とはこれまたずいぶん近いなぁ。」
と私たちの終末論を小ばかにして聞き流してしまっていた。まあ、これが普通の人のリアクションだ。
私たちはこの小ばかにされるリアクションはもう慣れっこなのでこれ以上、倫太郎先生に説明するのを諦めた。
そうこうしているうちにデブ蔵の調整が終わった。「この右側の望遠鏡に移っているのが正しい金星っす。
こっちの左側の望遠鏡のが偽金星っす。とりあえず、この方向に見える遠くにある工場の煙突の上空左側に明るく
見えているのが金星っす。今夜も2つ確認できますよね。僕の記憶が正しければ右側が本物っす。肉眼で確認した後、
望遠鏡を見てくださいっす。惑星の表面の模様とか全く同じなのがよくわかるっす。」
と言って私たちに肉眼で見る金星を説明した後で望遠鏡を覗かせてくれた。
「デブ蔵くん。これは本当に金星なのかい?君の記憶違いじゃないのかい?」と倫太郎先生はデフ像の記憶違いだと
決めつけているようだった。けれど、私とチビ助に至ってはデブ蔵が金星の位置を間違えるはずもないということを
知っているので先ほど、デブ蔵が真っ青になって部室に入ってきたのを思いだしてしまい私は恐怖を感じてしまった。
「とりあえず、今夜はこれでお開きで良いわね。この件についてはまた明日の部活で語り合いましょ!」と言い
私は望遠鏡の片づけを後輩二人に言いつけてから、改めてこの場を提供してくれた倫太郎先生にお礼を言った。
「先生、今夜はありがとうございます!綺麗でしたね。金星。」
「あぁ。金星じゃないかもしれないけどな。アハハ。」と笑いながら私らが撤収するのを確認してから
屋上を施錠して職員室に戻って行った。
その後、私らもすぐに学校を出て三人でよく行くハンバーガー屋に向かった。
「ねえ、デブ蔵、これがもしタイムスリップの前兆だとしたら金星の異常に気付いた人たちだけが飛ばされるのかしら?」
「さあ、そこまでは僕もわかりませんっす。すいません。」と暗い顔でデブ蔵が答えた。
「今のおいらたちが戦国時代に飛ばされたら皆死んでしまうんでやんすかね~?」とチビ助も暗い顔をしている。
「それにしても、いまだに政府からの発表が無いってのも気になるわね。こういう時ってどの省庁に問い合わせれば
良いのかしら?まずは明日はそのあたりから調べてみましょうか?問い合わせてみると向こうのリアクションで
隠しているのか、はたまた本当に気づいてないのかくらいはわかるでしょ?」
「さすが部長!そうっすね。まずは各省庁に問い合わせてリアクションを伺いましょうか!」
部員たちに少しだけ明るさが戻ってきたところでこの日は解散となった。
そして、翌日の放課後、私らは部室で各省庁のHPのお問い合わせから金星が2つあることの指摘をメールで
送信していた。「よし!これであとは各省庁からの返信待ちだね。明日には私らが突然、内閣府に呼ばれたりなんかする
展開って終末映画にあったわよね?」
「あぁ、ありましたね。んで、大統領から直々に真実を告げられるってパターンっすよね?」
「そんで家族には詳細は内緒にしてシェルター的なところに非難させろみたいなことを言われるでやんす。」
「そうそう。じゃあ、明日は私らがその主人公みたいに国民よりも先に機密事項を知って家族だけシェルターに
入れてもらえるのね!!それはそれで楽しみだわ!!」などとアホ話をしていた時、私らの知らないところで
事態は深刻な方向へと進みだしていた。
「ん? 地震?」軽く揺れたような気がしたので私はつい呟いていた。
窓の外を見ると校舎全体を覆うほどの魔法陣が空に展開されていて、外にいた生徒たちが皆空を見上げて
立ちすくんでいた。
私は咄嗟に部員たちに「来る!!転移系よ!!準備して!!二人とも!!」と叫んでいた。
私の号令と共に二人は転移に備えて机の下へ潜り込んだ。二人の安全を見届けてから私も机の下に潜って
転移を待った。
そして、窓の外が眩く光りだし目を開けてられなくなった瞬間、校舎が少しだけ傾いたのがわかった。
校舎が傾いたと同時くらいに外のまばゆい光は収まり、そこには先ほどとは全く違う景色が広がっていたのだった。