1、オカルト研究を始めよう!
ここはとある町のごく普通の高校。
時刻は放課後、ごく平凡ないつもと変わらない放課後の風景。
私はいつものように部室で部員たちを待っている。
ここは校舎別館の一階にある理科準備室。私が一年生の時に立ち上げたオカルト研究部の部室だ。
発足当時はクラスメート三人で立ち上げたんだけど、すぐに他の二人は何故か部を去ってしまった。
だから、最初の一年間は私がたった一人でこの部室を占領していたんだけど、翌年、ほんの気まぐれで
掲示板に暗号化して部員募集の告知をしてみたら、なんと速攻でその暗号を読み解いたという
新入部員が入ってきてしまった。
翌年も暗号化して募集をかけようと思ってたんだけど、その新入部員が暗号化すると誰も入ってこないから
堂々とわかりやすいポスターを貼ろうというので私は渋々それに従って部員募集のポスターを貼りだした。
すると、この年も新入部員が1人だけ入ってきてくれたので、現在はこの部に三年生の私と二年生のデブ蔵という
後輩君と一年生のチビ助という後輩君が在籍しているのだ。
実は初年度で部員が私一人になってしまったので部としては認められないということになり部費などは全面的に
カットとなっていたんだけど、発足してすぐに解散というのはかわいそうだということで学校としては非公式な部活として
活動と部室の使用だけを認めてもらっていた。非公式部なので顧問もいない。つまり、予算はないけど顧問がいないから
やりたい放題というわけ。こんな非公式な部を私はとても気に入っている。後輩の二人もとても好きだ。
私と真剣な顔してオカルト話に付き合ってくれる人は今まで一人もいなかった。
どうも世間では都市伝説=嘘っぱちって認識で私がいくら力説しても周囲の人たちは全く聞く耳も持ってくれない。
この世にはまだまだ知らないことの方が多いのに人は何故か人類は全知全能だと信じ込んでるのが怖すぎる。
そんな世紀末や終末を真剣に語れない人類の事は無視して私は今日も部員たちとオカルトの研究に没頭するのだ。
いつか来る終末に備えて今日も三人で力を合わせて議論するのだ!
私はこんな日々が本当に心地よくて大好きなのだ。
すると、部室の扉が力強くノックされ「失礼します!」と掛け声をかけてからデブ蔵が部室に入ってきた。
「部長!大変っす。今夜は星が出るまで帰れないっすよ。部長も家に電話して遅くなるって言っておいた方が良いっすよ!!」
と血相変えたデブ蔵が私に詰め寄ってきた。
「なに?突然。今夜、流星群とかあったっけ?」
「流星群じゃないっす。昨夜、いつものように天体観測をしてたんですけど・・・き、き、金星が・・・
おかしいんすよ・・・。絶対にありえないんすよ。あんなこと。」と言って真っ青になってしまった。
「金星が変なの?でも、今朝のニュースでは何も言ってなかったけどなぁ~。」
「はい。それも含めておかしいんすよ。僕程度の安い望遠鏡でも観測で来たってことはプロの天文学者さんたちも
気づいているはずなのに一切、発表されなかったんです。そのことが逆に怖すぎて・・・。」
そう言ってデブ蔵はますます震えあがってしまったところに、またまた部室の扉がノックされて
「失礼するでやんす。」と言いながらチビ助も部室に入って来て三人がようやく揃ったのだった。
「それじゃ最初から説明するっすね。」と言ってデブ蔵はホワイトボードの前に立ちいかにも教師のように
立ち居振る舞い丁寧に星図をボードにスラスラと書き始めた。
「通常、この時期の金星はこの方角のこの位置に現れます。一昨日まではきちんと現れてました。
ところが、昨夜は金星の隣にももう一つ金星があったんす。最初は疲れ目でかすんで二重に見えただけかと思い
目薬を差して落ち着いてからもう一度、夜空を目視で確認するとやっぱり金星が二つあったんです。
もちろん望遠鏡でも確認しましたが金星の隣に金星によく似た惑星があったんすよ!!」
とデブ蔵はにわかには信じられないようなことを少しだけ恐怖を感じながら話していた。
「じゃ、先輩は今夜も金星が2つ出ると言いたいでやんすか?」とチビ助が早々に喰いついていた。
「今夜も出るかどうかはわからないけど、とりあえず、金星が出るまでは二人には付き合ってほしいっす。」
「わかったわよ。私はOKよ。もう母さんにはラインしたから大丈夫。チビ助も家に電話しなさいよ。」
「はい!家に電話するでやんす!今夜が楽しみでやんすね!!」とウキウキしながらチビ助は親に遅くなることを
告げて通話を終了した。
「デブ蔵的には偽金星についての見解はあるのかしら?」と私が聞くと
「これが宇宙人の仕業でしたら嬉しいんですけどね。ただ、このケースって昔見た映画であったんすよ。
自衛隊が戦国時代にタイムスリップしちゃう話っす。あのタイムスリップのキッカケも金星なんすよ。
あの隊は金星の位置がおかしいことに気づいていたのに演習を続けててしまったから飛ばされるんすよね。
あの時、金星の位置がおかしいと言って演習を中止していたら被害はだいぶ少なかったはずなんすよね。」
とデブ蔵は真剣な顔で語っていた。
「そうでやんすね。金星の位置がおかしいということは地球の位置がずれてしまったかも知れないというのに
呑気に演習を続けるだなんてノー天気過ぎるでやんす。そんな上官はご免でやんす!!」
「そうなんすよ。あの主人公は映画では英雄扱いされちゃうんだけど、そもそも金星の位置がずれてんのに
呑気過ぎなんすよ。んで、タイムスリップ後も自分のご先祖様かもしれない過去の人々を殺しまくるっす。
あんな事したら絶対に現代に帰れなくなるっす。僕らみたいに普段からタイムスリップとかゾンビ世界とかの
シュミレーションしておかないからあんな結果になるんすよね~。ねぇ、部長。」
「うん。うちはシュミレーションだけは自衛隊にも負けてないからね!ゾンビ社会はマジで憧れるわ~。
もう某国ではゾンビウイルスが完成してるらしいじゃない。早くバラまきなさいよね!」
「いやいや、今回のコロナでもわかったでしょ?パンデミックに人類は勝てないんすよ。今回はコロナ菌で
良かったっすけど、これがもしゾンビウイルスだったとしたら今頃、日本は二年目で終わってたっすよ。」
「いやいや先輩、そうとも言い切れないでやんすよ。過去のパンデミックでも人類は何度となく絶滅の危機を
迎えましたけど、ことごとくウイルスにはうち勝ってきてるでやんす。ゾンビウイルスだって映画やドラマじゃ
完結してない作品が多いってだけで実際は簡単に終息を迎えてしまうかも知れないでやんすよ?」
などとデブ蔵とチビ助のオカルト論争を私はいつも心地よく聞いているのだ。
こうしてオカルト話を真剣に語り合えているこの時間が私にとって最高の時間なのだ。