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p.5

 泣く泣く戦利品たちを手洗いしたが、前回の失敗同様、洗い上げた後は我が家の洗濯物と同じ匂いになってしまい、落胆することになった。


 そのとき私は考えた。なぜ、私は我が家の洗濯物の匂いでは嫌なのかを。正確に言えば、別に嫌ではない。ただ、何も思わないのだ。心が晴れることも気持ちが昂ることもない。では、なぜ他人の洗濯物にこれほどまでに安らぎを感じるのか。それは、私が一種の成功体験を思い返しているからではないだろうか。ドキドキとした緊張感の後に来る達成感。あの興奮と解放感を私は戦利品が放つ匂いで追体験しているのだろう。


 しかし、ひとたび戦利品が我が家の洗濯物と同じ匂いを纏ってしまえば、それはもう、友人のパンツでもなければ、大人の魅力溢れるパンティでもない。私の脳は、それらをただの洗濯物と認識する。洗濯物は日常や平常を連想させる。興奮と解放感はそこにはない。だから、私は落胆することになるのだと、自分勝手に解釈した。


 それからは、戦利品に匂いがしなくなると新たな戦利品を求めて散歩に出かけるようになった。三度目、四度目までは罪悪感もあり、風に揺れる洗濯物に伸ばす手が震えていたが、五度目くらいからはもう慣れたものだった。


 好みの匂いがすれば、サッと手を伸ばして引っ込める。素早い動きでパンツをくすねて帰ってきた。盗みに慣れても、興奮とその後の解放感はいつも初めてのように私の中に沸き起こる。


 いつの頃からか、私は、戦利品をクッションカバーの中に詰め込むようになった。布製のカバーは引き出しと違い、開けなくても抱けば微かに匂い立った。その手軽な感じがとてもよかった。それに、部屋にあっても不自然さはこれっぽっちもない。そんな安心感もあり、私は、布製のクッションカバーを戦利品の収納スペースとしている。


 Tシャツは大きすぎるので初めからターゲットにはしなかったのだが、パンツ以外にも、ハンカチや靴下、ブラジャーなどは拝借してみた。しかし、ハンカチは持っていても当たり前のものだからか、ポケットに忍ばせていても特に気持ちが昂ることはなかったし、靴下は盗ったすぐから妙に気持ちが落ち込んでしまった。ブラジャーは、パンツ同様に気持ちの昂ぶりを感じたけれど、持ち帰って広げた時に、何となく手に馴染まなかった。結局、私の手に馴染み、私の気持ちをあげてくれるのはパンツなのだという結論に行きついてからは、パンツ専門で盗みをしている。

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