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p.4

 物音は一切しない。きっと留守宅だ。そこまで確認すると、鼓動はさらに早くなる。もう一度周囲に視線を走らせるが、やはり人の気配はない。低い塀の向こう側、少し手を伸ばせば届きそうな位置で洗濯物が揺れている。


 揺れる洗濯物に私の視線は釘付け。「人のものをとってはいけない」。それは頭では分かっていた。だが、私の意識と本能は連動しなかった。


 低い塀から身を乗り出し素早く手を伸ばす。パチンと洗濯ばさみのはじける音が小さく響いたときには、私の体は塀から離れ、手を素早くポケットへ突っ込んでいた。そして、何事もなかったかのように振舞いつつ、足早にその場を後にした。


 自宅へ帰り自室に籠ると、親が室内に入ってこないよう部屋の外へ注意を向けつつ、私はその日の戦利品を眺めた。二度目の戦利品は光沢があり、滑らかで、ツルツルとした触り心地の白いパンティだった。大切に机の引き出しにしまってある友人のパンツともその当時使用していた自分のパンツとも違い、明らかに大人の女性が身につけていそうな気品と言い知れぬエロスを感じた。


 戦利品と対峙していた私の鼓動はこの時も早鐘のようだった。


 私の気持ちを昂らせていたのは、微かに香る花のような匂いだ。友人のパンツが放っていたあの匂いのような気がしていた。


 大きくひとつ息を吐き、私は白い布を顔に押し当ててみた。途端に私の鼻腔いっぱいに匂いが広がる。鼻に残った匂いは甘い香りだった。私のパンツからはしない匂い。友人のパンツが放っていた匂いに近い。だけど、どこか少しだけ違うような気がした。それでも、いい匂いであることに変わりはなかった。もう一度スンと鼻を鳴らして匂いを嗅ぐと、私は、二度目の戦利品を友人のパンツがしまわれている机の引き出しへと押し込んだ。


 それから、毎日のように引き出しを開ける。引き出しを開けるたび、ふわりと甘い香りが匂い立つ。時には、引き出しから布を引き出して直接匂いを嗅いだ。友人のパンツと白いパンティを一緒に入れていたためか、いつの間にか友人のパンツに甘い香りが移っていて、まるで、友人のパンツが息を吹き返したかのようだった。


 しばらくの間、私はまた引き出しを開けるのを愉しんでいたのだが、やはり匂いは長続きしなかった。だんだんと匂いが薄れていく。それが寂しかった私は、今度は母の香水を拝借して二つの戦利品に振りかけてみた。結果は大失敗。どぎつい匂いを放つようになってしまった。

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