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食い意地はった包丁

まぁ、何事も腹七分目くらいが丁度良いわけだね。

(ページ上部の走り書きより)

20XX 10/4 21:37

*商品タグ:Mg.8102.01


<道具の形>

切るもの

<魔法の効果>

隠蔽

<魔法の程度>

2:ちょっとした効用


*   *   *   *   *


<序述>

 就寝前の一仕事として、先日知人から送られてきた小包を開封した。

 先ほどまで読んでいたハードカバーの本程度の箱の中には、紙魚と滲みが付き、深く皺の刻まれた新聞紙に包まれて一丁の包丁が安置されていた。新聞紙には「1986年9月23日」と発行日が書かれていた。

 その上に添えられていた知人直筆のメモには、


 拝啓

 店主殿、本日もまた少々不思議な物品をお送りいたします。

 これ…貴殿に云わせれば“彼女”でしょうかね?…は、少しばかりお腹を空かせた包丁でした。それ故、切った食材その他をこっそりつまみ食いしていたようです。

 まぁ、もっとも今は食事は喉を通らないらしいですが。

 いつもの如くこの物品の扱いは貴殿に一任します故、何事ぞよろしくお願いします。

 

とあった。ふむ、いつもの如く丁寧なようで実に太々しい手紙である。まぁ良いさ。

 さて、成る程…食い意地の張った包丁とね…では仕事を始めるか…。


*   *   *   *   *


会話の記録(リーディング)


J:持ち主とその周りの人間についての大きな出来事♣︎

 彼女が語るには、それは何かなまあ叩く心地の良い感覚であったらしい。

 その記憶は、彼女が普段通りの仕事…すなわち持ち主の目を盗んでは夕飯の食材をつまみ食いしていた日の深夜のことであった

 彼女はこの時初めて食材以外のものを切った…いや、突き刺したらしい。

 僅かな虫の音のみが響く中、彼女の気づいた時には彼女は持ち主であった中年の女性の手によってその夫の腹部に突き立てられていた。

 日頃の鬱憤が溜まっていたのだろうか、それは彼女にはわからないらしい。ただ、彼女はこの二人の云い争いを台所の棚の脇でよく聞いていたそうだ。それ故、当時の彼女はこの惨状には対してそれほど驚かなかったようだ。

 ふと、彼女にはその身に纏わりつくはらわたがひどく甘美なものに感じたらしい。彼女は至っていつも通りその力を使ってソレを摘み食いした。

 とても美味であった。思わずもう一口…

 彼女はすでに自制が効いていなかった。今ならば自分の体の数百倍はあろうこの肉塊も平らげることができる気がした。

 そして実際にそうなった。彼女が気づいた時には、立ち尽くす持ち主の足元に血に濡れたスーツとその他衣類のみが転がっていた。

 数日後、彼女とその持ち主は住み慣れた家を離れる事となったらしい。


9:長い間放置されたり、しまわれたりしていた時のこと♣︎

 数十年ほどの間、彼女はこの新聞紙に包まれて段ボール箱に仕舞われていたらしい。仕舞われて暫くの間は頻繁に箱から出されていたらしいが、その頻度は時が経つにつれ減って行った。そしてついには触れられることも無くなった。

 その為か、彼女は外界のことについてはよく知らないようだ。

 彼女はその狭く薄暗い空間の中で、ただひたすら己のもたれた腹の気持ち悪さに耐えていた。時折我慢ならず嘔吐もしたそうだ。

 長い月日の末、段ボールは開けられた。つい数日前のことであるらしい。箱を開けた人間は悲鳴を上げたそうだ。(たぶんこの新聞紙についた滲みのせいであろう)


*   *   *   *   *


最期の質問(エンディング)


・貴方が次に引き取られるとしたらどんな場所がいい?

 

 そうですね…もし、可能であればで構いませんが、お野菜を多く調理する所に引き取られたいですね。あの味わいはとても甘美で忘れ難くもありますが、流石にもうお肉は結構です。…未だに胃もたれも残っていますしね…健康志向ってやつです。私の元持ち主が気にしてました。

 兎も角して、もういいんです。ええ、私はもう満たされましたから。


*   *   *   *   *

 ふむ、野菜ねぇ、私が使えれば良かったんだけど、生憎刃物の類には困っていないわけで…。

 まぁ、それはそうとまずは手入れをしないとな、数十年も放置されていたのならその刃も鈍っている事だろう。…刃物の手入れに関しては私がやるより、その道のプロに任せた方が良さそうかな…。

 どうせなら、販売も向こうに任せたが良いかも知れないな…少なくともその方が、そもそもの客が滅多にこないこの店に並べているよりは、彼女の望んでいた持ち主に出会える可能性が高いだろうしね。

 さてと、それじゃあ、委託書を書くとするか…。夕食を摂った後にね…腹が減ってはなんとやら、だからね。


同年 11/6 追記

 今日の午前彼女を託していた鍛冶屋から電報が入った。曰く、彼女は都内在中の主夫に買われたらしい。

 まぁ、収まるところに収まった、のかな?彼女の胃もたれもね。

.......お読み頂き有難う御座います。

思いのほか、小説風に仕上げるのに時間がかかってしまいました。次も結構合間空いてしまうかもしれません。

それでは、また、ごゆるりと

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