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身の丈に合わせて…

*日記の脇に添えられた走り書き*

 厳密には、妖精・精霊・奇跡、又は人の残留思念及び精神体が元となり発生、発現した現象やその元を魔法。ある一定の論理、秩序のもとに体系化され、紡がれた術式による現象及びその術式を魔術という。

 また、そう云った意味では、魔法使いというのは精霊などを使役し偶発的に奇跡を起こすことに長けた存在であり、魔術師というのはどちらかと云うと論理性の上に超自然を操る学術的な研究者であると云えよう。

 まぁどちらにせよ現の世では不思議なものということで混同されているようであるのだからそう気にすることはないだろう。

20XX 9/28 21 :32

*商品タグ:Mg.K63.01


<道具の形>

支えるもの

<魔法の効果>

変化

<魔法の程度>

3:ちょっとした効用


*   *   *   *   *


<序述>

 事の顛末を大体の時系列順に書いてゆこうと思う。

 

 つい先日ひょいと顔を出してきた常連さんに不意に質問をされたのが事の始まりであった。

 どうやら、彼女は夏の内に住処の改築をしたようで、その時に出た不要品を私に引き受けて欲しいと頼んできた。

 当時の私には特に断る理由もなかったので、ええ構いません…大方何でも引き取りますよ、などと答えてしまった。多分此処から私は間違えていたのだろう。

 そして、その数日後、すなわち今日の昼下がり彼女はそれら“不要品を”持ってきた。

 …確かに、私は、なんでも引き取ります、と云った。だが、誰が余った家屋の木材を持ってくると想像できるだろうか!そもそも此処は骨董屋である。表の看板にもそう書いてある筈だ。

 常連さんは、唖然とする私を前に、淹れて出した紅茶を啜りながら「よろしくね〜」などと抜かしていた。まぁ、それはいつものことで有るので今更怒ることでは無い。

 常連さんが帰った後、私は押し付けられた…もとい、頂いた木柱やら木片やらを片付けていた。倉庫と店頭を三往復した時であった、手元に持った木材の中にふと、魔力の残滓を感じたのだ。取り敢えず手の中のものを倉庫の中まで運び込み、その発生源を探すことにした。

 それは思いのほか簡単に見つかった。黒松製と見られる木の棒であった。

 斯くして、私は今いつもの安楽椅子に腰掛けつつ、会計台の上に三尺はあろう木の棒を載せて、この記録をつけているわけだ。

 この前振りにページの半分を使ってしまった。いかんいかん、さて、そろそろ仕事に移ろう。

 右耳に揺れる耳飾りの輝きを横目に捉えつつ目を瞑り、かけられた術を読み取る。……成る程…なかなか面白い力であったようだ。云うならば<身の丈に合わせて…>かな?


*   *   *   *   *


会話の記録(リーディング)


A:頻繁に魔法を使っていた頃の記録♠︎

 彼を作ったのはニ世紀くらい前の老魔術師であったらしい。

 魔術師は、伸縮する孫の手を作ろうとしたようで、彼はその試作第一号であったらしい。…伸縮する孫の手か…普通に欲しいなそれ。

 物体を伸縮させる、と云うのは想像よりも難しい術であったらしく(考えてみれば当然である。単純な形態変化では密度が減り耐久性が著しく下ってしまうのだし、そもそも使用者の意図した通りに変形するとも限らない訳であるのだから)、魔術師は試行錯誤を繰り返し、まだただの木の棒であった彼に伸縮の魔法、いやこの場合魔術を付与した。術の跡を見るにどうやら錬金術の応用のようである。

 ただ、それから彼を孫の手の形に加工しようとすると、どう頑張っても術式を削ってしまうことになったようで、魔術師は新しく一から作り直さざるを得なくなった。

 先述した通り、彼の魔術は単純そうに見え、かなり高度であったので付与には丸二日程かかったようだ。

  その後、彼は庭先に出され、物干し竿として使われるようになったとの事だ。老魔術師云っていたには、いつでも何処でも洗濯物が干せるって案外便利じゃの、だそうだ。

 

6:頻繁に魔法を使っていた頃の記憶♣︎

 この時の持ち主は既に常連さんだったようだ。常連さんは彼を、夏場家の天井によく発生する蜘蛛の巣を掃除するのに使っていたようである。天井の高さが部屋によって異なる常連さんの家の構造上、彼は重宝されていたらしい。

 もっとも、常連さんは取っても取っても次の日には復活している蜘蛛の巣に半ば悲鳴をあげていたようであるが。…正直、あの人が蜘蛛が苦手とは思わなかったな。


J:持ち主とその周囲の人間について大きな出来事♣︎

 余談めいた事であるが、彼に刻まれた術は、付与にかなりの手間がかかったように、細かな魔力入力の調節など使用するにも難しい物であった。

 そして、彼の持ち主であった常連さんは、こう云ってはなんだが結構ガサツな人である。

 そのことから鑑みると、彼の語った結末という名は至極当然のことのように思う。あゝ、一応常連さんの名誉のために記しておくが、もちろんそれだけではなく彼の術式の劣化なども原因としてあるだろう。

 事の発端は八月中旬の事であった。常連さんはいつも通り彼を使って蜘蛛の巣を払っていたらしい。今年の夏は特に蒸し暑かったせいか虫が多く湧いた。蜘蛛の巣の量も例年より増加していた。長引く作業に常連さんも、あー肩痛い、などと仕切りに呟いていたようだ。

 そのせいか、集中力が切れていたのだろう、常連さんは彼に込める魔力をほんの一瞬増加させてしまった。彼は、己に刻まれた術式に従いその分だけ伸張した。その時彼が見たのは、一面に広がる鬱蒼した森と広大な青空、そして遠くに見えるこの街のビル群……それはとても清々しい景色であったようだ。

 彼が言訳をするには、刻まれていた術の伸張制限機構の(リミッター)の箇所が劣化により働かなかったそうである。

 それはともかくして、多分これが常連さんが家の改築をした理由だろう。思えば八月後半は週に二、三回と来店回数が多かった気がする。 


9:長い間放置されたり、しまわれたりしていた時のこと。♢

 時間の間隔が曖昧ではっきりした期間はわからないが、と彼は語り出した。

 彼は、大体七、八十年程の間、老魔術師の小屋に放置されていたそうだ。彼の創造主はとうに姿を消していたらしい。彼が云うにはある日ふと居なくなっていたとの事だ。

 主無き彼は、じめっとした森の中の歪な形状のあばら小屋に立てかけられ永い時を過ごす事となった。幸いな事に己の身に刻まれた魔術には保護の効果がついていた為、枯葉達とともに朽ちることは無かったみたいである。

 

5:持ち主が代わった時のこと。

 一体幾つの年を越したのか、もう分から無くなった時のこと、彼は時夜に近づいて来る足音を聞いたそうだ。それは少し不可思議な事であった。彼の元主であった老魔術師は小屋のある森一体に半永続的な人払いの結界を張っていた筈で、それは当時も健在であった筈であった。

 足音の主人は二十代ほどと見られる黒髪の女性であった。女性は「人払いがされていると思ったら成る程ね…」などと呟きながら小屋を物色して回っていたらしい。そしてそのまま「うん、家主も不在のようだし、此処に住もっと」と口にして、そのまま小屋に居着いてしまったそうだ。

 女性が彼の存在に気づいたのは、その数年後であった。彼を見つけた女性は、その術にも気付いたらしく「おーこれはまた、凄いもんを…でも、これあたしには使うの難しそうだな…」と呟いていた。

 結局彼が使われることになったのは、そのまた数年後、毎年大量に湧く蜘蛛の巣払いとしてであった。


*   *   *   *   *


最期の質問(エンディング)


 彼の言葉をそのまま記す。


・貴方が次に引き取られるとしたらどんな人がいい?

 そうだね…多くは望まないよ。ただ、僕を最大に使いこなせる人がいいな。あの力に対して物干し竿とかはちょっとね… ?

 まぁ、と云っても僕はもう普通の棒になるんだからこの場合、僕は全力を出し切って物干し竿でも蜘蛛の巣払いにでも徹する事が出来るのかもしれないんだから、それでいっか。其処等辺は君に任せるよ。

 僕はただ、僕と次の主人の身の丈が合うことを願うよ。


*   *   *   *   *


 その言葉を最後に声は聞こえ無くなった。耳飾りを外し机上に置く。

 しかし、どうしたものか。この店は骨董屋と名乗っている手前、ただの棒を店頭に並べる訳にはいかない。…麺棒として売り出すには長すぎるし、物干し竿とするには今の長さでは少し短い…。…そもそも売る売らないに関わらずこの店には物を買いに来る客がほぼいない。

 うむ、やはり売り物では無くて私が使うとしよう。…用途はおいおい決めるとして、今日はもう寝るとするか。昼間の内に少しの肉体労働をしたことだし、クタクタだ。

 

同年  10/1 追記

 今回の件のその後について記す。

 まず、“彼‘‘についてだが、今は店先の突き上げ窓のつっかえ棒として使っている。この為に調整されたのではないか、と云うくらいにはサイズがぴったりであった。

 一先ず“彼‘’については一件落着である。

 今現在私は、一昨日常連さんが「ほ〜い、不用品、第二弾だよ〜」と持ってきた、骨董品の処理に追われている。それらの殆どが値打ちのある貴重品や歴史的価値の高い装飾品であった。そのせいで文句を云うに云えなくなった。

 今は非売品にする物とオークションに出す物に分類している所だ。流石にこの手の物を店頭に並べる訳にもいかないからね。

 まぁ、書くべき事はこんな所かな。

.......お読み頂き有難う御座います。

今回は少々ギャグ寄りでした。

それでは、また、ごゆるりと

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