彼女を知るもの
「どういうことだ?」
突然現れた声の主に、一同は一斉に振り返った。
「なんで彼女が・・」
「アリス?」
「いつのまに・・ルートが始まって・・
いや、そもそも・・なはずは・・・・」
アリスは俯くとぼそぼそと呟き始め、
周りの声は聞こえていない様子だった。
(今、何かのルートって言ったよね?)
アリスが知っているってことは、
私が知っている第一王子ルート以外で登場したってこと。
ティアナはゲームの世界でもベイリーの存在を知らない。
そもそも、アビス・ド・アポストルなんて国の存在も知らなかった。
同じ国で産まれたオッドのことだって、
ギルの執事として存在はしていたが
ゲームにはほとんど出てこなかったし
ウィンドウには"執事"の文字だけで
オッドアイで他国の人だなんて設定も知らないだけではなく
名前だって登場しなかった。
オッドの名前が分かるのは、ティアナの4歳の時の記憶があり
ティアナとして転生したことでオッドと関わってきたからだ。
「ベイリー様のこと知っているの?」
キースの問いに、アリスははっと意識をこちらに向けた。
ティアナも聞きたかった質問だ。
「次期宰相であるレオンでも名前しか知らないのに…
ベイリー様のことどうして知っているの?」
「あっ、いや・・」
「謎につつまれた国だから文献にも
王の名前しか載っていないはずだよね」
そう。その国のことについては文献で読んだことはあるけれど
王以外の名前は見たことも聞いたこともなかった。
名前を知っているのが分かっているのは、国王と第一王子とレオン次期宰相とクライン公爵。
レオンやクライン公爵も知っているということはグランデ公爵とお父様もきっと知っているのだろう。
そんな国の重心となる人達の間でしか名前も共有されないって・・一体、アビス・ド・アポストルってどんな国なんだろう。
「えっ・・その・・・・」
「知り合いのような口ぶりだったよね?」
アリスはキースの尋問に言葉をつまらせ後ろに退いている。
きっとアリスはゲームの世界の彼女を知っている。
誰かのルートでその国を知り
あんな驚いた表情を見せるくらいに
・・ベイリーって人は重要な人物なんだ。
悪い予感がして、ティアナの背筋に悪寒がはしった。
――と、その時
「おー?こんなところで集まってどうした?」
豪快に手を振りながら、
「おはよう!良い天気だなっ」
その場にふさわしくない、
からっとした笑顔で駆け寄って来たのはアルフだ。
「どうしたんだ?そんな顔して」
アルフはそう言って、
一番手前にいたギルのほっぺたをつねった。
ギルはキッと睨み、アルフの手をはらいのける。
「も、もうこんな時間!
ホームルーム遅れちゃう!」
アリスは我幸いと、
時計を見るとさっさとクラス室へと向かい出した。
「そうだな!急ごう!」
アルフもギルの背中を押しながら走り出し、
ティアナ達もその後に続いた。
――その後、
休憩時間に再度アリスに聞いてみても
「孤児院にベイリーってシスターがいたから
てっきりその子かと思って!」と、
授業中に考えたのであろう言い訳で交わされてしまった。
シリウスにも、
「ティア、この件についてはまだ誰にも話せないんだ。
ただ、これだけは言っておく。
婚約破棄は絶対にしない。
お願いだからティアもそれだけは言わないで」
辛そうな表情でこう言われてしまうと
それ以上は何も返すことが出来なかった。
(※)ムーンライトノベルズに載せている作品のR15指定バージョンです。
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