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闘技場

太陽の光でカゲは目を覚ました。


独房の冷たい床の上に寝転がっていたせいか身体の

節々が軋んだ。


目の前には昨日喰らった鼠の残骸が残っている。


皮をはぎ、部屋のランプの火を使ってあぶった。


鼠の眼が宙を見ている。

色を失った死骸の眼が好きだ。

なんのインパクトも感情も与えてこない。

ただ、平穏だけがそこにあった。


「出ろ」

独房の扉が開いた。

カゲが外に出ると、後ろ手に縄をかけられ、目隠しをされた。


「しっかり縛れ。抵抗するやもしれぬ」

兵士の声が聞こえた。


くだらない。

そう思いながらカゲはされるがままになっていた。

兵士の後をついて、薄暗い廊下を歩いていく。


こんな縄など切ろうと思えば、すぐに切れる。

何の意味もない。


10分ほど歩き、地下から外に出され、目隠し越しに陽の光を感じた。


「ついた。目隠しをはずせ」


カマキリどもが、その尖ったカマで目隠しを切り落とす。


陽の光と共に、カゲの三倍はあろうという獣の体躯が見えた。


「ヒグマの一種か?」その姿を見て、カゲはつぶやいた。


「そうだ。だが、特殊な個体でな。普通のヒグマの倍の

大きさがある上に、力も強い。おまけに、人の味を

覚えている。これまでに、119人の人間がこいつに喰われた」


「俺が120人目というわけか」


「もうしばらく何も喰わせていない。ひどく空腹だ。

恐ろしいか?」にやにや笑いながら兵士はカゲを覗き込んだ。


「なるほどな」


そういうと、カゲは両手の縄をひきちぎり、横で語っていた兵士を

蹴り飛ばした。


「俺は、長々とした説明が大嫌いだ」


突然の出来事に驚いて目を見開いたまま兵士は、

ヒグマに身体をとらわれた。


ヒグマは頭からかぶりつき、首元をひきちぎる。


そのまま兵士の身体を抑え込み、その硬い殻を

鋭い爪と歯で食い破っていく。


闘技場をぐるりと囲むように設置された観客席は

水を打ったように静まり返っている。

その中で主が一人、「愉快、愉快」と高笑いしていた。


カゲは大観衆には、何の興味も示さなかった。


一心不乱に目の前の獲物を咀嚼していたヒグマが

ゆっくりと顔を上げて、カゲをじっと見た。





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