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円環

「カゲよ。お前は生命を投げ捨てている。そんな目をしている」


カゲは、左目の眼帯をとると

「わからん。だが、俺には右目しかない」とつぶれた左目を見せた。


主は、面白そうにその様子を眺め

「カゲよ。その雌の死骸を持ってついてこい」と部屋を出て行った。


床に落ちている二つに分かれている身体を抱え上げると、

黙ったまま、主の後をついて出た。ただの生体反応か、

まだ何らかの意識が残っているのか、時折、女の身体が

ピクピクと動いていた。


岩盤に覆われた廊下は想像以上にひんやりとしていた。

グアヤキルでは真冬にあたる寒さだ。

暗い廊下を主について歩いていくと、いくつかの階段を昇り橋を渡った。

橋の真ん中で、主が立ち止まり振り返った。


「この下に女の死骸を投げ捨てろ」

「弔わないのか?」

「生命は円環を描く。これが、このバースでの弔いともいえる」


言われるがままカゲは死骸を橋から投げ落とした。

橋の下にはつるつるした白いボールのようなものが無数にあった。

女の死骸が音を立てて、下に落ちると、白いボールのようなものが

ゆさゆさと揺れ始め、中から無数の幼生が産まれでた。

死骸に群がると、すさまじいスピードで女を食っているのが分かった。

幻聴かもしれないが、女の声のようなものが聞こえた。


その様子を無表情で眺めているカゲを横目で見て、主が嗤った。

「この様子を見て、吐かなかった人間はお主で二人目だ。

何も思わぬのか?」

「何も思わない。これがお前の言う、円環を描くということなら

うらやましいくらい単純な話だ」

「生命とは単純なものであろう」

「わからぬ。確かに、これなら個々の生命にさほど大きな意味はないという

お前の言い分もわかる。だが、俺はこれだけとは思えない」

「カゲよ。お前は、なぜこの地に来た?」

「ここに来ようと思ったわけではない。ただ、俺は生きる意味を

知りたいと思っただけだ」

「くだらぬ」

「そうかもしれない」

「いずれにせよ、お前は明日のゲームで終わる。あのゲームに勝った人間を

わしは今までに一人しか見たことがない」

「どうでもいい。俺は、空っぽだ。恐怖さえない」


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