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バニティ 19

「今こそ地上を我が手に!」

鈍色に光る主のカマが高く振り上げられた。


目前にはバースの全兵士が集まり波のようにうねりを作っている。

兵士たちから立ち昇るね熱気で会場の空気が歪んで見えた。


「地上を我が手に!」兵士たちの怒号が轟く。


主はその様子を満足気に眺め、ゆっくりと力強い声で語り始めた。


「およそ300年前、世界は真実の山により分断された。

聖なる街アーク、死と絶望の地グアヤキル、虚栄の都市バニティ

闘いの都コロセウム、そして我が地底の王国バースだ。

我々はこの都の空をおおう砂漠の下に閉じこめられた。

あたかも臭いものに蓋をするかのように。それは、なぜか?

我々が異形の者だからだ。いにしえの人の世から我らは忌み嫌われてきた。

我らの祖先は、虫と呼ばれ蔑まれ”駆除”されてきた。

長い争いの中で、人類が作り出した兵器の誤爆により我らの祖先は

知性を手にした。だが、人類にとっては我らは脅威でしかない。

彼らの持たぬ鋭いカマ、鉄をも通さぬ硬い外骨格、素晴らしい跳躍力を持つこの脚、

その全てが人類を凌駕している。だからこそ、彼らは我々をこの地に

封じ込めたのだ。だが、ようやく地上を取り戻すときが来た!

力こそ正義!我らこそ地上の覇者!今こそ、人類に見せつけようぞ、我が同志たちよ!」


しんと静まりかえった群衆の中心から、波紋のように声が広がっていった。


「地上を我が手に!」

うねりはやがて民衆のすみずみにまで広がり、兵士たちは熱に浮かされたような面持ちになった。


ドーン!激しい爆音とともに、建物の一角に大きな穴が空いた。

天井がパラパラと崩れ落ちてくる。


「な、なんだ?」


ルキアとカゲはひらりとカウンターを飛び越えて、驚いている琥珀の頭をおさえた。


少し遅れてカイトも、カゲとルキアの足元に転がりこんだ。


爆炎の向こうに無数のカマキリの兵士が見えた。


「奴らだ。100?いや、もっといるのか?」カイトがくぐもった声でつぶやいた。


ルキアが悔しそうに唇を噛むと

「ちっ!どこかから、つけられていたのか?それともこの中にスパイがいたのか?」


「裏口はどこだ?」カゲが琥珀に聞いた。


「あっ、ああ……こっちだ」


「カイト、煙を吸うな」カゲはカイトの背を押した。


「わかった」カイトは服の袖で口元をおおうと、琥珀について走り出す。


混沌の中、兵士たちの上官とおぼしき者が叫んでいる。


「探せ!雑魚には構うな。我らが捜しているのは左目のつぶれた男。

ざんばら髪で死神のような右目をしている。探して主様に献上しろ!」


兵士たちは刀を高く振り上げ、うおおおおおーっと轟きをあげた。


その声を背後に、煙幕に隠れるようにカゲはするりと裏口の扉をくぐり抜けた。


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