バニティ 17
「すごい!」カイトは目を輝かせた。
華美を嫌い清廉な美しさを好むアークには、こういった黄金の装飾物は少ない。
あっても、女性の装飾品の一部として使われている程度だ。
「けばけばしい成金趣味だよ」ルキアが吐き捨てた。
「これはドクター・アーシュの好みか?」カゲが低い声で尋ねた。
「俺は、ここまでひどいものは見たことがない」
ルキアはカゲにぴったり寄り添うと声をひそめて
「アーシュのおっさんはバニティの街になんの興味も持っちゃいない。
この装飾を作ったのは、あちこちから集まった商人たちだよ。
商人になろうとしている者たちも含めてね」
「商人になろうとしている者?そんな奴らがいるのか?」
ルキアは驚いて目をみはった。軽く口笛を吹くと
「あんた知らないの?グアヤキルから逃げ出して、この街で成り上がろうって
奴らも結構いるのさ」
ルキアは陶酔した面持ちで前を歩くカイトの服をつまむと
「カイト。20メートルほど先にある『琥珀』っていう店、わかる?」
「あ、はい。わかります」
「その店の前へ行って」
カイトは人混みをかき分けながら歩いた。
道行く人間は、まさに千差万別だった。
シルクやサテンで作られたようなサラサラした生地が足元まで
覆っているような衣服を着ている者や、麻の服で狩猟に行くような弓矢を
背負っている者もいる。
ただ、共通しているのは男も女も、顔を見られるのを恐れるがごとく
仮面をつけていることだ。
『琥珀』にたどり着くとルキアは地下へ続く階段をおりるようにうながした。
壁に様々な色の宝石が埋め込まれている。
やがて、ダイヤモンドの取っ手がついた悪趣味な扉が見えた。
静かにドアを開けると、中は薄暗い酒場になっていた。




