バニティ 13
トントンと壁を叩く音がして、カイトとルキアは顔をあげた。
ドアのそばに、門番をつとめていたルキアが立っていた。
顔の下半分が隠されて緑青色の眼だけが見えている。
「お話中のところ悪いんだけど」少し鼻にかかった蓮っ葉な調子で
門番は言った。いかにも気が強そうだ。
「オリジナルルキア。あんたの待っていた人がついたようよ」
「カゲ」カイトとルキアが暗がりの中にいる人影に気付いて叫んだ。
「良かった。無事だったんだね」カイトは駆け寄った。
「あんたが死ぬわけないと思ってたよ。あんたには特別な光を感じるからね」
「カゲ。大丈夫?あちこちに火傷のあとがある」カイトが心配そうに
伸ばした手をカゲは振り払った。カイトの指先がかすかに滲む血に
触れそうになったからだ。
「大丈夫だ。触るな」
「ちょっと見せてごらんよ」オリジナルルキアがカゲの腕をとり、傷口に触れた。
「ルキアさん」思わずカイトが声をあげた。
だが、毒の血に触れたルキアの指先は焼け焦げることもなく平然としている。
「だい……じょうぶ……なんですか?」戦場や湖で毒の血に触れたものを
見てきたカイトは、ルキアの様子が信じられなかった。
「ん?何を驚いてるの?」
「ルキア。お前は平気なのか?」カゲが訝し気に尋ねる。
「俺の身体を流れる血は毒そのものだ。ほんの少量でも生き物がそれに触れると
皮膚がただれたり焼け焦げたりする。死ぬものもいる」
「へええ。私は、大丈夫だよ」悪戯っぽく笑うとルキアはカゲの血をぺろりと舐めた。
「ほらね」上目遣いにカゲの顔を見た。
「お前は何者だ?人間じゃないのか?」
「そうよ。私はオリジナルルキア。別名ルキアGR。
ドクター・アーシュが開発したアンドロイドさ」
「アンドロイド」カイトが全てのことに合点がいったという風にうなづいた。
「だから、ルキアさんがこんなにたくさんいるんですね」
ルキアは面白そうにふふふっと笑うと
「愛娘をなくしたドクター・アーシュは、娘を生き返らせるための研究に
力を尽くしはじめた。そのかたわら、ルキアの面影を追って、娘そっくりの
アンドロイドを作ろうとしたんだよ。何体も作って、ようやく見た目は
そっくりのアンドロイドが完成した。それが、私ってわけ。
ところが、中身までは同じようには出来ない。何度プログラムしても、
途中でバグが出て本当のルキアとは違う人格になってしまう。
ドクターは何体も何体もルキアを作ったわけ。
その全てはドクターにとっては不良品で……私たちは売りに出されたり
捨てられたりした」
「簡単に言えば、私たちはガラクタってことよね」門番が口元を覆った布を
下ろしながら笑った。




