バニティ 11
五人のルキア、もしくはルキアそっくりの女性に囲まれて
カイトが戸惑っていると、
「とりあえず、こちらの部屋にあがっておいで」
と髪をほめてくれた女性が手を差し伸べた。
その手につかまって最後の一段から部屋の中へと
ひきあげてもらう。
間近で見ると、女性の姿形はルキアそっくりなものの、
身にまとう雰囲気は、ルキアよりも柔らかく優しげだった。
他の女性も、一人一人、別の個性を持っているのが伝わってくる。
「あ、あなたたちは何なんですか?」カイトが尋ねると
「まあまあ、兄さん、まずは座ってお茶でも飲みなよ。それにしても
本当に綺麗な子。こんな上物はバニティにもいないんじゃない?」
と、やや鼻にかかったハスキーボイスで別のルキアが値踏みするように
上から下まで眺めていた。
「何、言ってるの。その少年は売り物じゃないよ。アーク出身の
聖なる子どもなんだから」
オリジナルルキアが、カイトを抱きすくめた。
「この子は私のだから、横取りしないでよね」
私の、と言われて思わず赤くなったカイトのもとに
最初に声をかけてくれた優しげなルキアがハナザサ茶を持ってきた。
「どうぞ。疲れたでしょう」
「あ、ありがとうございます」
女性はオリジナルルキアの前にも同じようにお茶を置くと、
二人の前の席に着いた。
「それで、オリジナルルキア。何かあったの?あなたが、こちらに来るなんて
一年ぶりくらいじゃないかしら」
「まあね。ちょっとこの客人がわけありでね」
「この小さな子が?」
「この子ともう一人連れがいるんだよ。なかなか渋い感じのいい男でね。
森で倒れてるところを拾ったのさ。一夜限りでサヨナラするつもりが、
なぜだかカマキリに追われてるみたいでね」
「まあ、あの世界一、残虐な種族と言われている……」
「それで、とるものもとりあえず逃げ出したってわけ」
「もう一人のお連れ様はどちらに?」
「私たちが逃げ出す時に、カマキリを足止めしてくれてたんだけど。
殺されてなければ、ここに来るはずさ」
カイトがハナザサ茶のカップを置くと、
「カゲは殺されたりしません。びっくりするくらい強いんです。
絶対に、ここに来ます」
と断言した。
「まずは、少年。あんた達が終われていた事情を説明してくれる?
場合によっては力になるし、私の手に負えない厄介事なら、
悪いけど、ここで別れさせてもらうことにするよ」
ルキアがいつになく真剣な眼差しでカイトを見つめた。




