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バニティ 10

「少年、ついたよ!」

古ぼけた木の扉にたどりついたルキアは、嬉しそうな表情で振り向いた。

ランタンの灯りに照らされて、長いまつ毛が頬に影を落としている。

にっこり笑った口元からちらっと真っ白な歯が見えて、

まるで少女のようだ。



「良かった。無事に着いて」

ここまで走りに走ったせいで、カイトの息は乱れに乱れていた。


一方、ルキアは途中、激しい戦闘があったにもかかわらず、

汗1つ流していない。

涼しい顔で、扉の上部にとりついた金具でノックした。


「誰か?」扉の中央の長方形の穴から人の目が覗いた。


「私だよ、早く開けておくれ」


「合言葉を」


「かすみがおりれば まことはきえる」


「よし、入れ」


ギイッと音を立てて扉が開いた。


カイトは扉を開けた人物を見てぎょっとした。


「ル、ルキアさん?」


扉を開けた人物は、ルキアそっくりだった。

いやルキアそのものと言ってもいい。


「え?え?え?」


カイトは、扉の向こうのルキアと目の前のルキアを

交互に見つめた。


ルキアは、フフッと口元で軽く笑うと


「何、驚いてるの。でも、大丈夫」

そして、顔を近づけるとカイトの耳元で囁いた。

「私がオリジナルだから」


「さっ、グズグズしないで、そこの小さいのも、さっさと入りなさい」


扉を開けたもう一人のルキアに急かされて、

カイトはするりと扉の中に吸い込まれていった。


暗い穴倉には無数の荷物が積みあがっていた。

食糧、飲料水、武器のようなものもある。地下の倉庫といったところだ。

部屋の中央には木で出来た階段があり、カイトは足を踏み外さないよう

ゆっくりと上っていった。キシキシと音を立てながら

10段ほど上ったところで、眩しい光が目に入って目をしばたかせた。


その途端

「キャー、いらっしゃ~い」と黄色い歓声に囲まれた。

「いや、なに~?小さ~い。可愛い~」

「オリジナルルキア、これは何?」

「綺麗な髪。金色に輝いててお日様みたい」

「顔を見せて~。緑の瞳なのね」


カイトは自分を取り囲む女性陣を見て固まっていた。

なぜなら、そこにいたのは全員がルキアだったからだ。


「ルキアさん、これ、どういう……わっ」


カイトが目をやると、ルキアは先ほどの戦闘で汚れた服を

着替えている真っ最中だった。

豊満な乳房が一瞬見えて、カイトは慌てて目を逸らした。


「ん?何か言った?」


「い、いえ……」


ルキアは、頭からかぶったドレスを下ろすと、

「少年、安心しな。オリジナルは私なんだから」

と得意気に笑った。

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