バニティ 4
ルキアは、物思わし気に細い指で髪をかきあげた。
彼女の髪はこのあたりでは珍しい深緑の色をしている。
その仕草をうっとりと眺めていたカイトだが、
次に発したルキアの言葉でハッと我に返った。
「巷の噂では、ドクターは、その研究の鍵を握ると言われている
アークの眠り姫を手に入れたっていう話さ」
「えっ?」
カイトは大声で叫んだ。立ち上がった拍子に椅子がガタンと音をたてて
後ろに倒れた。
「アークの眠り姫?それは本当ですか?」
ルキアはその勢いに押されてしどろもどろになりながら、
「あくまで噂だよ。美しい金色の髪をした碧眼の姫が
夜の闇に紛れて運び込まれるところを見たって人がいるんだ」
「まさか……ディアナが……」
ぼう然としたカイトがつぶやいた瞬間、
激しい爆発音とともに窓ガラスが粉々に砕け散った。
「危ない!」ルキアが、甲高い声で叫んでカイトの身体を
かかえて、後ろにとびすさった。
飛び散るガラスの破片をマントで防いだカゲが
ゆらりと立ち上がる。
窓の方を振り返ると、軽く眉をひそめ低い声で
「カマキリだ」と言った。
「カマキリ?どういうこと?あんた達、何かやらかしたの?」
ルキアが矢継ぎ早に尋ねる。
カイトが、
「僕らはバースから逃げてきたんです。あの砂漠……悪夢の沼に
落ち込んで、とらえられた」
ルキアは、
「バース。あの世界一、残虐な種族からよく逃げてこれたね」
その間にも窓から無数のカマキリが侵入しようとしてきた。
カゲがすらりと剣を抜き、その鋭い刃で窓にかけた彼らのカマや部屋の中に
突き出された頭を次々に切り離していく。
「カゲ!あたしたちは、地下を抜けて東へ向かう。
森の奥に崩れかけた掘立小屋があるから、そこで落ち合おう」
「こっちに来て」
ルキアはカイトの腕をつかむと、奥の食糧庫へ走った。




