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バニティ 2 

「ドクター・アーシュはもともとフロンティア随一とも謳われた科学者だった」


「へえ。すごい人なんですね」カイトが興味津々でうなづく。


「と言うのは、表の顔で彼の専門は兵器開発。それも、今では御法度とされている

生物兵器の第一人者だよ」


ルキアはため息をついた。


カイトが不思議そうな顔で


「でも、もう長い間、戦争なんて起きてませんよね?真実の山がこの世界を

統べているから」


「そう思っているのは、アークのように上流階層の人間だけだよ。

アークは平和で豊かな国だ。でも、グアヤキルは?飢えと苦しみに満ちた

地獄みたいな場所だ。バースはどうなる?住民の多くは地下の生活に

不満を持っている。真実の山がやったことは、この世の不都合を

一部の連中に押しつけて、蓋をしただけのことさ。

そうして、自分たちが世の真理みたいな顔をしている。

そんな世界をぶち壊して、カオスにしてしまいたい連中なんてのは腐るほどいる」


カゲも低い声で


「真実の山は、力で世界を分断して、弱い者をねじ伏せた。俺は

アークで生まれ、剣闘士の都で育ち、グアヤキルに逃亡した。

アークの人間は、美しく賢い。

恵まれた環境で生きているせいか、倫理観が高く、人格も穏やかだ。

グアヤキルは、真逆だ。

生まれつき、何らかのハンディを背負っていたり、

身体が弱くてすぐに死んでしまうものも多い。

自らの環境に絶望して生きる意志を失っているもの、

他人を殺してでも生き延びようとするもの。

死が隣り合わせにある日々を送り続けていると

感覚や感情が麻痺してすり減ってしまうんだ。

二つの国の差は歴然としていた。まるで誰かが選別したみたいに」



ルキアは細い指をカゲの節くれだった掌の上に乗せた。


「そう。真実の山が作り上げた『世の理』は嘘っぱち。

それをぶち壊そうと企んでいる奴らにとって、ドクター・アーシュの技術は

すごく魅力的なものなんだよ。

だが、ある出来事を境に、ドクターは生物兵器の研究をピタリとやめた」



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