バニティ 1
「このスープ、めちゃめちゃ美味しいです!」
ルキアの作った白蜜茸のスープをほお張りながら、カイトが喜声を上げた。
「なんだろ、これ?僕、アークでもこんなキノコ食べたことありません」
頬杖をついたルキアが面白そうに笑う。
「白蜜茸は、このあたりでしか採れない特別なキノコだよ。
なめらかな食感と高貴な香りで、最高級食材の一つと言われているんだ。
少年にそんなに喜んでもらえると、嬉しいね」
緑青色の瞳にじっと覗き込まれて、カイトは耳まで真っ赤になって
目を逸らした。
「そ、そうですか。ルキアさんにそう言われて、僕こそ光栄です」
ルキアは手に持ったグラスの液体を飲み干すと
「ほんっと、とんだマセガキだねえ。可愛いよ」とカイトの頭をくしゃくしゃした。
「子ども扱いしないでください」されるがままになりながら、カイトが小声でつぶやいた。
「ほら、あんたもしっかり食べなきゃ」ルキアは所在なげにしているカゲのほうへ身体を向けると、
焼きたてのパンに熟成ベーコンをはさんだものを手渡した。
「ああ、すまない」
「お腹は空いてるんでしょ?あんたもアークの出身なの?」
「そうだ」
「えっ?そうだったんですか?」カイトが素っ頓狂な声を出す。
「だが、幼い頃に捨てられた。記憶に残っているのは、ランプの中で揺らめく
ろうそくの炎と椅子に座って足をぶらつかせている自分の姿くらいだ。
あとは……金色に輝く誰かの長い髪。それくらいだ」
「へえ」ルキアが興味深そうに目を細めた。
「それより、バニティの話を聞かせてくださいよ」カイトが机から身を乗り出した。
「フロンティアに何が起こったんですか?」
「バニティか」ルキアはため息をついた。
「あの男は、ドクター・アーシュは狂ってる」
「少年。不老不死の薬は何から作られていると思う?」
カイトは首を捻りながら
「不老不死と言われると、人魚しか思い浮かばないや」
ルキアは、憐れむような瞳になると
「少年よりもっと小さな子どもの生殖細胞だよ。
だから、あたしは子どもを見たことがなかったんだ」




