娼婦ルキア 3
意識を失っている少年に、ルキアは辛抱強く人工呼吸を行った。
やがて胸の奥からゴボゴボという音が聞こえてきたかと思うと
少年はカッと目を見開いて「ぶほっ」と海水を噴き出した。
「少年!意識が戻ったね」ルキアは嬉しそうに叫んだ。
激しく咳き込みながらカイトは顔を上げた。
そして、ゆっくりとルキアの顔に眼の焦点を合わせると
「美人だ」とつぶやいた。
ルキアは面白そうに笑いながら
「とんだマセガキだね。うふふ。でも、顔をよく見せてごらん。
あたしは、子どもという生き物を見たことがないんだよ」
とカイトの顎を軽くつかむと真正面から彼の顔を見つめた。
カイトは、少し吊り上がった気の強そうなルキアの大きな目
に魅入られていた。
なんて綺麗な人なんだろう。
アークでは見たことがないタイプだ。
ディアナの優美さとはまったく違う。
開放的でドキドキするような美しさ。
頬を撫でられると、その掌から電気がほとばしり出ているように
背筋がゾクゾクする。
カイトは、経験したことのない感情がわきあがってくることに
戸惑いを感じていた。
緑青色のくっきりとした二重の瞳。
やや大きめの涙袋。
手入れされた涼しげな眉。
「ふーん。これが子どもね。もっと小さい生き物かと思ってた」
ルキアは、やや不満げに鼻を鳴らした。
「いや、子どもといっても僕はもう10歳です。来月には11になります」
「10歳?それはどのくらいなんだろう」ルキアは不思議そうにしている。
「多分、あなたの思っている子どもって、5歳くらいなんだと思います。
それだと、このくらいの身長しかありません」
カイトはルキアの腰の位置を指し示した。
「ああ、そう。あたしの思ってた子どもってのはそれくらいの大きさだ。
へえ。面白いね」
ルキアは軽く口角を上げた。
「そうだ。カゲ。カゲは大丈夫でしたか?」
カイトは、近くに横たわるカゲのもとに駆け寄った。
「カゲ。カゲ。しっかりして。目を覚ましてください」
ルキアは涼し気な顔で煙草に火をつけると
「大丈夫だよ。その男はずい分前から目を覚ましてる」とつぶやいた。
「そうだ」横たわったまま、カゲの眼がゆっくりと開いた。
「いつから気が付いていた?」
「最初から」
ルキアは美味しそうに煙草の煙を吸い込むと、意味ありげに微笑んだ。




