娼婦ルキア 2
朝食後、慌てて身づくろいをして旅立つ若者をルキアは出口まで見送った。
「また、いらしてくださいね~」とろけるような最上の笑みを浮かべて
手を振った。
口元のほくろが、少しだらしないセクシーさを演出している。
男の姿が見えなくなると、ルキアは「ふん」と軽く鼻を鳴らして
扉をバタンと閉めた。
ああ、バカバカしい。
そして、長いコートを頭からすっぽり被ると、竹で編んだかごを持ち
次のお客の食材を探しに、森へと向かった。
この季節なら白蜜茸か熟したアマビノキの実が良さそうだ。
まったく、常に食事が必要だなんて、人間てのは
本当に不自由な生き物だね。
白蜜茸の群生地に向かう途中、いつもより道がぬかるんでいることが
気になった。
ところどころ、小さな水たまりが出来ており、玉虫色の羽虫が
ひっくり返っている。
ルキアは、細い指先で羽虫をすくいあげ空に放った。
おかしいね。昨晩は雨なんて降ってなかったはず。
草履に水と泥が侵食して、足元が濡れはじめた。
あまりの不快さに、もう今日は引き返そうと考えたとき
ルキアは、遠くに人が倒れていることに気づいた。
誰だろう。
一人は若い男。奇妙なマスクをつけている。
服の上からでも筋肉が盛り上がっているのがわかる。
もう一人は、子ども?少年?
男よりも一まわり小さく見える。
二人とも死んだように動かない。
死人に用はないんだけど、と思いながらルキアは二人の方に足を向けた。
退屈だからね。あの若い男の顔くらい見ていってもいいか。
二人の近くには小さな洞穴があり、その奥から水が流れ出していた。
「水の正体はこれか。あの向こうに地下水でも流れてたのかね」
ルキアはつぶやくと早速、男がかぶっている奇妙なマスクをわくわくしながら
取りはずした。
「ビンゴ。大当たり。い~い男じゃないか」ルキアはちろりと唇を舐めた。
「浅黒い肌に切れ長の目。頬骨が高く、鼻筋が通っている。
あたし好みだねえ。背が高くてがっちりしてるところもいい」
おいしい獲物を見つけた雌豹のように、ためつすがめつ男を品定めした。
「で、もう一人は……ああ、やっぱり子どもだね。といっても、
12歳くらいか?もうあと数年もすれば、いい男になりそうだけど」
ちょっと興味なさそうにつぶやくと、
「この子、かなり水を飲んでるね。まあ、ダメだと思うけどやってみるか」
とおもむろに少年の鼻をつまむと、少年の唇に自らの唇を押し当てた。
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