娼婦ルキア 1
ぷっくりと膨らんだ唇に細い紅筆で綺麗な山形のラインを引く。
口元には小さなほくろがある。
ほんの少し吊り上がった瞳は、深みのある緑青色だ。
一歩、後ろに下がり姿見で全身を確かめる。
桃のように形の良い胸と引き締まった腰。
それを引き立たせるように、ぴったりと身体に沿った緑のチャイナドレス。
化学繊維だと聞いたけれど、まるでシルクのようになめらかで
光沢がある。
隙間から、ちらちらと見え隠れする太ももも、若さではちきれそうないい感じだ。
ルキアは満足気に微笑んだ。
振りむいてベッドの上に横たわる男の顔を見る。
色男ではないけれど、とぼけたあどけなさが、とても良い。
そばに行きベッドサイドに腰かけ、男の無精ひげをそっとなでる。
「おはよう。昨日は良い夢を見れました?」
妖艶な表情で覗き込むと、寝ぼけ眼の男が驚いたように目を見開く。
慌てて半身を起こした拍子に、掌がつるりとなめらかな
ルキアの太ももに触れた。
「こ、ここは?」
「森の中の娼館」
男は目を閉じて記憶を手繰りよせる。
そして、何か合点がいったように「ああ」と小声でつぶやき
顔を赤らめた。
「朝食はいかが?」
目をやるとテーブルの上にパン、サラダ、目玉焼きといった簡単な朝食が
一人分だけ用意されていた。
「飲み物は、ハナザサのお茶でいいかしら。温まるわよ」
「あ、ああ。ありがとう……ございます。あの、俺、昨日は……」
恐る恐る男が問いただす。
バニティに向かう途中で道に迷ったところまでは覚えているが
その後の記憶が定かではない。
ただ、とても良い気分になっている。
全身に充足感があり、力がみなぎっていた。
「とても、素敵な夜でしたわ」
ルキアが美しい顔を近づけてささやく。
その魅力的な唇がすんでのところで、頬に触れそうだ。
「ただし、ここは娼館。お代はきっちり頂きました」
「えっ??」男はあわてふためいて鞄に入っている財布の中身を確かめた。
きっかり持ち金の半分がなくなっている。
「えっ?えっ?え~~っ?」
ルキアは目を細めて、ふふふと笑うと
「お客さん、お金持ちねえ。どこから来たの?虚栄の街にぴったりね」
と頬杖をつきながら上目遣いで客の顔を見上げた。




