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深海の都 15

ぬるぬる、ぬるぬる。


ゆっくりと、だが確実にカイトの両手は人魚の背中に沈んでいく。


カイトは足で人魚の腹を蹴り、渾身の力を持って両手を引き抜こうとした。

だが、逆らえば逆らうほど、強い力で両手は取り込まれ、

中指は、すでに第一関節まで少女の身体に飲み込まれていた。


やめとけば良かった。

こんなところに来るんじゃなかった。

僕はいつも、自分を過信して失敗する


カイトは、唇を嚙み締めた。

口の中に塩辛い血の味が広がってゆく。


間近で見る少女の肌は、陶器のようにすべすべしている。

だが、よく見ると、肌の一部がざらついて誰かの指紋のような

ものが浮き出ていた。


今まで何人の人間を取り込んだのだろう。

目、指、歯、爪、髪……。

ところどころに取り込んだ人間の形跡が紛れ込んでいる。

深海魚は交配のためにオスをとりこむはずなのに

彼女の目的は違うのだろうか。

それとも、彼女はやはり恋に落ちたあの兵士を探しているのだろうか。


ああ……もう指先の感覚がない


諦めに似た感情が湧き起こった瞬間、誰かの腕が

カイトの腹に巻き付いてきた。


その浅黒く筋肉質な腕を見てカイトは「カゲ」と小さく叫んだ。

振り向くとゴーグル越しに額に青筋を立てたカゲの横顔が見えた。


カゲが助けに来てくれた。僕だって、まだやれる。

カイトは再び人魚の方へと向き直った。


突然、カイトの頭の中に鮮烈な歓喜の歌声が響き渡った。

これまで聞いたことがないような美しいハイトーンの歌声。

無数の人間の大合唱のようにも聞こえる。


少女の青い瞳がキラキラと輝き、遠くを見つめている。


ズルズルと引きずられていたカイトの両手がパッと軽くなり

激しい衝撃と共に二人は、背後に吹き飛ばされた。

カイトは肩で息をしながら「助かった」とつぶやいた。


人魚の背中から無数の粘膜が白い糸のように飛び出した。

それらは、大きな蜘蛛の巣のように四方八方に広がったかと思うと、

意思を持っているかのように、いっせいに少女の視線の先へ襲いかかった。










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