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深海の都 11

カイトは恐怖を感じて唾をごくりと飲み込んだ。


暗がりに足を踏みいれて、ゆっくりと中をライトで照らす。

塔の中はかなり広いようだった。

螺旋階段が壁に沿ってぐるりと中心部を取り囲んでいた。


恐る恐るカイトは階段に足をかけた。

登っていくにつれ、上のほうからかすかな光がさしてきた。

浅瀬から見上げる地上の光に似ていた。


周囲には古代の海の生き物たちがたゆたっている。

本来、浅瀬にいるはずの三葉虫や目玉が五つもある

節足動物のオパビニア。

図鑑の中でしか見たことのなかった生き物たちに

カイトは軽く興奮していた。


すごい。すごいや!ここ。


地上から5メートルばかり階段を登ったところで、

カイトの頭の中にある映像が飛び込んできた。


それは透明で小さな卵だった。

中で何かが蠢いている。

殻を割って、真っ白な稚魚が飛び出てくる。

はっきりとした形はなく、ただの白い楕円にヒレと目がついた生き物だ。

それは、自分を庇護してくれる存在を探して、周囲を泳ぎ回っている。

やがて自分が完全な孤独であることを知り、絶望を感じていた。


なんだ、これは?

カイトは次々とあふれ出す映像に混乱していた。

同時に頭の中に、美しい歌声が流れ出す。


昔、学校で聞かせてもらった讃美歌に似ていた。

高くて美しい女性の声が幾重にも重なって、鳴り響いている。


稚魚は空腹を感じて、手当たり次第に周囲にあるものを

食べ始めた。

プランクトンや海藻、砂の中に生きる自分より小さな生き物。


やがて稚魚は脱皮する。

皮を脱ぎ捨てるごとに、稚魚は人間に近い姿に変わっていった。

すらりとした上半身。長い手。真っ青の長い髪と青い瞳。

腰から下に伸びるうろこがついた尾びれ。


ああ、人魚か。これは人魚様の思い出なんだ。


そして成長した人魚の少女は海の中を探し回った。

自分とよく似た存在。自分の同朋。友だち。家族。なんでもいい。

心を共有できる誰か。何かを探し求めて、彼女は昼夜歌い続け

彷徨い続けた。


やがて彼女は沈みゆく潜水艦から脱出した海兵に出会う。

仲間からはぐれて、一人置いていかれた彼を見たとき

彼女は、初めて同朋に出会ったのだと思った。


彼女は、力尽きて再び海に沈んでいく彼のもとへ全力で潜った。

尾びれは力強く水を掻き、通常の人間では考えられないスピードを出した。


沈む彼を抱きすくめ、その顔を間近で見た瞬間、彼女は生まれて初めて恋に落ちた。


綺麗。とっても綺麗な生き物。


人魚の想念に誘われるようにフラフラと階段を登り続けたカイトは、

真横を通り過ぎた巨大な魚影に気が付き、我に返った。


ゆっくりと方向を変え、冷たい目でこちらを見ていたのは

20メートル近い体躯のサメ、メガロドンだった。



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