表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/71

深海の都 7  

「今からおよそ800年前。世界は、今と違い混沌としておった」老人は語り始めた。

「今の世界については……聖地から来た者なら知っているだろう」


カイトがうなずきながら、

「一つの超大陸の中に秩序だった複数の国があると習いました。そして、その頂点を統べる国が、賢者の住む真実の山」


「そうだ。だが、800年前、超大陸は五つの国に分かれていた。そして、互いの領土、領海をめぐり、10年に及ぶ戦乱が繰り広げられていた」


「そうだったんですね。統一前の世界について、話を聞くのはこれが初めてです」


神妙な顔で、カイトが机の上で両手を組んだ。

カゲは静かに茶を飲んでいて、二人の会話には、まるで関心がないようだった。


「ある時、東の大国が潜水艦で武器と物資を輸送することになった。50名ほどの海兵が乗り込み、母国を出発した。その頃、戦況は悪く、経験豊かな兵士たちは前線に出て戦っていた。そのため、潜水艦に乗り込んだのは、経験の浅い若い兵士ばかりだった。その海域は、比較的穏やかな場所だったから、本来なら問題なく、目的地に着けるはずだった」


カイトは碧色の瞳を見開きながら、前のめりになって話を聞いていた。

平和の象徴とも言われるアークでは、戦争の話をするものはいなかった。


「ところが敵国の民兵が小さな潜水艇で奇襲をしかけてきた。あわてて体制を立て直して、攻撃を開始したものの、すでに遅くモーターの一部が敵の魚雷で破損していた」


「それで、どうなったんですか?海兵たちは無事だったんですか?」


「破損せず残っているモーターもあったから、すぐに潜水艦が沈むことはなかった。だが、徐々に徐々に船体は沈んでいった。その潜水艦は特殊な金属で造られていたから、しばらくは大丈夫だが、深海の水圧には耐えられないだろう。飴のようにひしゃげて、ぐちゃぐちゃに潰れてしまうに違いない。何名かの兵士たちは、思い切って賭けに出ることにした。潜水服を着て脱出を試みたんだ」


「すごいな。僕だったら怖くて出来ない」


「生き残るにはそれしかないと思ったんだ。彼らは、無我夢中で海面へ向かって泳いでいった。だが、一人の海兵が彼らのスピードについていけず遅れ始めた。仲間の姿が視界から消えた時、はりつめていた緊張感がプツリと切れてしまった。長旅の疲れもあったのかもしれない。もう、どうでもいい。祖国に帰れなくても、ここで命が尽きようとも、何もかもがどうでもよくなってしまった。だが、体力がつきて意識が薄れていく瞬間、海兵は、はっきりと見たんだ。水中に揺らめく真っ青な長い髪。ぬけるような白い肌は、ところどころ透き通って、青い血が流れていた。そして、この世のものとは思えない美しい顔。鼻筋の通った高い鼻と、ふんわりした紅い唇。うるんだ青い瞳は物憂げにこちらを見つめている。それが、海兵と人魚の出会いだった」



お読みいただきありがとうございます。ブクマ、評価、感想などいただけましたら、大変嬉しいです。よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ