深海の都 6
ゆったりと浮遊しながら、二人は海底にたどりついた。
カゲがライトで照らすと、眼前に廃墟が広がっていた。
遠くに小さな灯りが一つ揺らめいておりライトを向けると、巨大なチョウチンアンコウが泳いでいた。
カゲは、カイトに目で軽く合図をすると右手に進み始めた。
ゆらゆら揺れるライトの光の中に、石造りの平屋が並んでいる。
カゲが腐りかけた扉を蹴り、中を調べたが人は見当たらない。
中を覗き込もうと、カイトがわずかにつま先を浮かせた時、後ろから袖を引かれた。
「うわぁーーーーーー!」ゴーグルの中でカイトは悲鳴をあげた。
「だ、だ、だ、誰かいる!」
カイトは無我夢中にカゲの腕をひっぱり、自分のほうに振りむかせた。
カゲはわずかに目を細め、カイトの身体を自分の背に隠すようにすると、人影のほうに歩み寄った。
ライトの先に、ゴーグルをつけた背の高い老人の白髪頭が見えた。
彼は、身振りでついてこいと示すと、先頭に立って歩き始めた。
高い塔の横を通り過ぎ瓦礫の坂道を登っていくと、老人は途中に見えた横穴にするりと潜りこんだ。
迷路のような抜け道を上へ上へと進んでいく。
その先に細い階段と小さな部屋があった。
「ここは、なんなんだ?」カゲはゴーグルを外すと老人に尋ねた。
カイトが横で「空気だ。空気がある」と何度も深呼吸している。
「深海の都ですよ」老人はお茶を淹れながら答えた。
しゃがれた低い声だった。
「古い遺跡が沈んだ跡のようだったが」
「沈んだ跡というのは、ほんの少し違いますな。長い年月をかけて砂に埋もれたというのが正確なところです」
カイトが、「あったか~い」と茶の入った器で両手を温めている。
「ところで、あなた方はどちらからいらっしゃった?」
老人は二人をぎろりと睨みつけた。
「グアヤキルだ」カゲは答えた。
「ほう。罪人の町ですな。あそこは生き地獄だと聞いたことがある。お連れ様もグアヤキルの方で?」
「僕は、聖なる都市アークの出身です」カイトが誇らしげに言った。
「罪人と聖人の二人組ですか。珍しい組み合わせだ」そして一呼吸おくと「で、ここへは何をしに?」と尋ねた。
「何も。迷いこんだだけだ」
「では、人魚様目当てではない?」
カイトが目を輝かせて
「人魚?人魚がいるの?」と身を乗り出した。
「ああ。この砂に埋もれた都と海をつなぎ、絶滅したはずの生き物を蘇らせたのは人魚様だ。ここは人魚様がお作りになった都だ」
「人魚なんて伝説だと思ってました。本当にいたんですね。それでは、あの話も本当なんですか?人魚の生き血を飲むと不老不死になるという……」
「本当だ。だが、いまだかつてその血を飲んだものは地上に一人しかいない。人魚様はその方を何年も、何百年も、ここで待ち続けている」
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