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深海の都 5 

漆黒の闇が広がる水中に放り出され、すぐにカイトは後悔した。


ゴーグルのおかげなのか、水中でも地上と同じように息は出来る。


井戸の中は想像していたよりもずっと広く、本当に、深海まで続いているような錯覚が起きた。


辺りをキョロキョロと見わたしたがカゲの姿はない。


もうずっと底の方まで行ってしまったのか、どこかですれ違ったのか。


水中から見上げると、今しがた飛び込んだ井戸の入り口が小さな天窓のように見える。


カイトは、闇の中、つま先が凍り付くような恐怖を感じた。

鼓動の音がうるさいくらい頭の中で反響している。


もともと泳ぎはそんなに得意ではないのだ。

あの時、ディアナが湖へ泳ぎの練習をしに行こうと言ってくれた時、素直に従っておけば良かった。

いや、そもそもカゲのあとを追って飛び込む必要はなかったんだ。

望み通り地上に出れたのだし、あの銀色オニヤンマだって、偶然そこを飛んでいただけで、カマキリの長とはなんの関係もなかったかもしれない。


軽いパニックを起こして、手足をジタバタ動かしていると背後から一筋の光を感じた。


そして、誰かがカイトの身体に腕を回し、ぐっと引き寄せた。

カゲの体温を感じて、カイトの呼吸は次第次第に落ち着き始めた。


目を凝らすと、ぼんやりと照らしだされる光の先に細かく白い雪のようなものが降り続いていた。

時に光を反射してきらきらと、きらめいている。


(マリンスノーみたいだ)


カイトは幼い頃に、本で読んだことを思い出した。

あの白い雪のようなものはプランクトンの死骸だったかな。

本物の雪みたいで、とても綺麗だ。

うっとりと目を細めていると、すさまじい水のうねりがカイトに衝撃を与えた。


黒い大きな魚影が近くを横切った。

パッと見た感じ30メートル近い大きさがある。


(リードシクティス?)


カイトの頭の中に古代魚の名前が閃いた。


(そんな、でも、あの魚は3億年ほど前に滅んだはず)


ゆっくりと下降していく二人の目に、崩れかけた古代遺跡の一部分が映った。


(ここは……どこなんだ)



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