深海の都 4
「えっ?本気ですか?この井戸の底へ?こんなの悪戯ですよ。深海の都なんてあるわけないじゃないですか?」
井戸の向こうに黒々と広がる水中を眺めて、カイトは必死でカゲを止めた。
しかし、そんな努力も虚しく、カゲは辺りの砂を剣で薙ぎ払いながら黙々と死骸を探し続けた。
結果、井戸の半径五メートル以内のところから、15体の死骸を見つけ出した。
古くなり少し触っただけで骨がくずれるほどのものもあれば、腐りかけた死肉があちこちにへばりついているものもあった。
「あの……僕もそれ、被らなくちゃならないんですか?」
泣きそうな顔でカイトが尋ねた瞬間、
「顔を伏せろ」とカゲが低い声で言った。
細かい羽音が上空のほうからわずかに聞こえてくる。
鷹ほどの大きさがある蜻蛉が光っているのが見えた。
「銀色オニヤンマですね。ばかでかい」
カイトが声を出さずに、口の形で伝えてくる。
銀色オニヤンマは、二人の頭上をぐるりと回ると方向を変えて飛び去って行った。
「カマキリの主の差し金か」
カゲは飛び去って行った方向を見つめた。
「カゲを追ってきたのでしょうか?」
「分からない。俺にそれほどの価値もない。だが、追われているのなら面倒だ」
カゲは状態の良いゴーグルを選別すると死骸の頭から手早く外した。
それをカイトに渡すと、自分自身のマントを外しぐるぐると重しのように丸めこんだ。
「こいつらは、井戸の底に行き戻ってきたのだろう。
どういう仕組みかは分からないが、これがあれば、『深海の都』にたどり着けるのかもしれない」
「戻ってきたのかもしれませんけど、帰ってきて、皆すぐに死んでるようですけど……」
「ここにいて、カマキリに切り刻まれて殺されるほうが良ければ、そうすればいい。俺は行く」
そう言い残すとカゲは、無造作にゴーグルを頭から被り井戸の中に身体を沈めていった。
「本当に行っちゃった。って、いや置いていかれるのは困る」
カイトは大慌てでゴーグルを被り
「神様。ディアナ。僕をお守りください」
と胸の前で両手を組んで井戸に飛び込んだ。




