深海の都 2
カイトは渾身の力をこめてカゲの肩にしがみついた。
薄い衣服を通して感じられるがっちりとした筋肉の硬さがカイトに精神的な余裕を与えた。
それでも下を見ればかなりの高さがある。
落ちれば打撲や骨折ではすまないかもしれない。
カイトの腰を支えるマントが命綱ともなっていた。
「大丈夫か?」
カゲが問うた。ゆっくりと確実に崖を登っていく。
「うん。カゲは重たくない?」
「軽い」
頂上近くまで来ると、カゲはゆっくりと振りむいた。
「あの岩場にある隙間を抜ける」
見ると斜め前二メートルほどのところに、薄い光が見えた。
人一人通るのがやっとの大きさだ。
「天井近くの隙間のほうが広いが、お前を連れていくには危険すぎる。こっちの岩場ならまだ足場がしっかりしている。近くまで行ったらマントをほどくから、お前は俺の身体を足場にして登っていけ」
マントをほどく瞬間、カイトは凄まじい恐怖に襲われた。
小さな子供が庇護を失うような気持だ。
振りむくな。振りむくな。
カイトは何度も自分に言い聞かせた。
下を見れば、恐怖に足がすくんで動けなくなるだろう。
「俺は大丈夫だ。思いきり踏み越えて行け」
カイトは深呼吸をすると、カゲの背や頭を踏みつけるようにして、よじ登っていった。
地上に出たカイトは緊張感がほどけて、地面に座りこんだ。
隙間から出てきたカゲは何事もなかったかのように涼しい顔をしている。
「おい。あれは、なんだ?」
カイトが顔を上げると、砂漠の中に古い立て看板のような物が見えた。
風雪にさらされたのか、角がところどころ欠けて、文字も剥げかけている。
カイトは目を細めて
「古代文字のようですね。『深海の都』と書いてあります。
都市伝説のようなもので、地図にない街があると聞いたことはありますが、誰かのいたずらでしょうか」
カゲは、しばらくその看板を凝視していたが
「腹が減った。とにかく行こう」と立て看板のほうに足を向けた。
「えっ?行くんですか?絶対、誰かのいたずらですよ~」
カイトは慌てて立ち上がり、カゲの後を追って走り出した。




