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深海の都 1 

カゲは黙ったままマントを外すと静かに湖へと入っていった。

足元を泳いでいた小さな魚の動きが止まり、白い腹を仰向けて水面に浮かんだ。


「そこにある蜂の死骸をできるだけ食っておけ。俺の血は猛毒だ。触れただけでお前の皮膚は軽い火傷をおこしている。蜂でも食って、体力をつけておいたほうがいい。万が一、毒を体内にとりこんだら、お前は死ぬだろう。それでも、連れて行ってほしいと思うのか」


無表情のまま、カゲは自らの身体を洗い続けた。

次々と魚たちが浮かんでいく。


カイトはその様子を凝視したまま、唾をごくりと飲み込んだ。

確かに腕や腹の皮膚の一部がうっすら赤く変色していた。


「カイト。お前はいくつだ」


「10歳です。来月、11になります」


「そうか。死ぬのは、まだ惜しいな。お前が出会ったのが、俺でなくあの人ならば良かったな」


「お兄さんは、いくつですか?」


「さあ。興味もない。きっと、あの人と同じくらいの歳なんだろう」


「名前は?」


「カゲ。それで、お前は行くのか?行かないのか?」


「行きます。僕は行かなくちゃならない」


「その歳で何か生きる理由があるのか?」


「そうです。絶対に、僕は帰らなくちゃならない」


「羨ましいな」


つぶやくとカゲは、湖からあがりマントで己の身体を丁寧に拭いた。


「蜂は食ったか。あと10匹くらい食っとけ」


「カゲも、食べてください。たいして美味しくはないけど」


カイトが次々に焼いていく蜂を二人は黙々と口にした。

蜂があぶられるジュウっとした音と香ばしい匂いがあたりに立ち込めた。


「うまいな」


誰かと飯を食うのは何年ぶりだろう。

カゲは、無心に蜂を頬張るカイトの姿をじっと見つめた。

どこかで、今と同じ風景を見たことがある。

確信に近いものを感じたが、それがどこなのかまるで思い出せない。


「行くか」

「はい」


カゲは、マントを使ってカイトの身体を自分にくくりつけた。


「先ほど登った時に経路は確認している。おそらく半分の時間で上にたどり着けるだろう。それまでどうにか俺にしがみついておけ」





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